インドの香辛料と、不穏な帰国命令
「……っ!? この香り、この刺激。これだよ、これ! これこそがおじさんが前世のランチで求めていた『究極のスパイス』だ!」
インドの港町ゴア。私はバナナの着ぐるみの裾をまくり上げ、市場に並ぶ山積みのターメリック、クミン、コリアンダー、そして大量の胡椒を前に狂喜乱舞していた。
不思議ポケットの容量を無視して、次々と香辛料を詰め込んでいく。
「百舌鳥殿、感傷に浸っている暇はない。……雷蔵の様子がおかしい。」
キウイ(元一等陸佐)が、毛羽立った茶褐色の仮面の下で鋭い眼光を放った。見れば、スイカの被り物をした雷蔵が、水平線の彼方――東の空を睨みつけ、聞いたこともないような低い声で唸り続けている。
「おねえちゃん。風が……日本の風が、泣いてる。パパのいないお城が、燃えてる夢を見たよ。」
リンゴ娘の茶々丸が、震える手で私の服を掴んだ。動物と交信する彼女の感覚は、時にどんな通信機よりも速く「凶報」を届ける。
そこへ、堺の商人・今井宗久から託された「隠密伝書鳩」が、クイーン・モズ号の帆柱に舞い降りた。
『国内、不穏。光秀、サウナに籠もりて出でず。秀吉、猿の如く暴れ回り、家康、天ぷらを揚げて機を待つ。パイナップルの残党、各地で「十六時間労働」を強制し、一揆勃発。早急なる帰還を乞う』
「……チッ。あのトゲトゲ頭、逃げたふりをして日本に『ブラック労働の種』をバラ撒いていやがったな。」
私はコルトマムシを抜き、空に向けて一発放った。
「殿! 世界一周は一時中断です。買い込めるだけのスパイスを積んで、日本へ引き返しますよ! 今の日本に足りないのは、気合と……刺激だ!」
信長様はイチゴの被り物を真っ赤に染め、不敵に笑った。
「よかろう! 我がイチゴと、貴様のバナナ。そしてこの極彩色の香辛料で、日ノ本の淀んだ空気を焼き尽くしてくれようぞ! いざ、逆走・世界一周だ!」
「……了解。キウイ、総員戦闘配置。最大船速で日本へ向かう。」
私たちは、インドのスパイスでパンパンになった船を急旋回させた。
目指すは、再びの日本。
パイナップルCEOが仕掛けた「過労死寸前の暗黒時代」を、おじさんの「適当な美学」と「激辛カレー」で粉砕するために。
「待ってろよ、日本。……おじさんが、本当の『有給休暇』を教えてやるからな!」




