名古屋メシと、うつけ者のスカウト
尾張の国、城下町。
漂ってくる醤油と出汁の香りに、私の「三十路おじさんの胃袋」が歓喜の声を上げた。
「これだよ、これ! 人の多い町! 焼ける醤油の匂い! あぁ、生き返るなぁ……」
山賊から奪った銀粒で、まずは茶屋の団子を一本。
「……っ!? 旨い。甘みが足りないけど、この素朴な味が体に染みる」
隣で雷蔵も、分けてやった団子を満足そうに咀嚼している。里の干し肉とは次元が違う。
だが、感動に浸っている暇はなかった。私は「不思議ポケット」から、山賊から奪ったあの不穏な書状を取り出す。
「さて、ターゲットの『伊藤屋』はあそこか」
町の一等地にある大きな暖簾。だが、その周囲には隠しきれない殺気が漂っている。
路地裏に潜む、明らかに「カタギ」ではない男たちが数人。
(……やれやれ。再就職の面接の前に、まずは履歴書代わりの実績作りといくか)
私は雷蔵に「周囲の警戒」を合図し、不思議ポケットの奥底に手を突っ込んだ。
指先に触れるのは、冷たく重い金属の感触。
里の親父に内緒で、現代の図面を思い出しながら鉄砲鍛冶を脅して(失礼、説得して)作らせた試作品。
リボルバー型単筒――『コルトマムシ・零号機』。
火縄銃が主流のこの時代に、シリンダーが回転して連射できる(といっても、まだ三連発が限界だが)オーパーツだ。
「おい、お嬢ちゃん。そこをどきな。怪我したくなきゃな」
路地裏から出てきた刺客の一人が、抜き身の刀を突きつけてくる。伊藤屋を襲おうとする実行犯だ。
私は、三十路無職特有の「図太い笑顔」を浮かべた。
「いいよ。でもさ、あんたたちの刀より、私の『マムシ』の方が少しだけ速いと思うんだけど……試してみる?」
「あぁ? 何を――」
男が踏み込むより速く、私はコルトマムシを引き抜いた。
ガギィィィン!
火花が散り、刺客の刀の刀身が根元からへし折れる。
続いて、もう一発。
男の足元の石畳を砕く。
「ひ、火縄もなしに連発した……!? 魔法か、バケモノか!」
刺客たちは腰を抜かし、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
……ふぅ、一発のコストが高すぎるから、これくらいで勘弁してやろう。
「お見事。珍しいものを持っているな、お前」
背後から、涼やかな、しかし芯の通った声が響いた。
振り返ると、そこには茶屋の縁台にふんぞり返り、ひょうたんをぶら下げた派手な若者が立っていた。
片肌を脱ぎ、髪を茶筅のように結った、絵に描いたような「うつけ者」。
「……あんた、誰?」
「俺か? 俺は織田三郎信長だ」
(……マジか。いきなりラスボス(雇用主)登場かよ)
信長は私の腰にあるコルトマムシと、隣に控える雷蔵を興味深げに眺め、ニヤリと笑った。
「その奇妙な筒、そしてその目……。お前、ただの子供ではないな。中身に『老いぼれた狐』でも棲んでいるのか?」
「……失礼な。これでもピチピチの十二歳ですよ(精神年齢は三十過ぎだけど)」
信長は豪快に笑い、私の肩をガシッと掴んだ。
「気に入った! 伊藤屋の用心棒などケチな真似はやめろ。俺が美味い飯と、最高の風呂を用意してやる。俺の『影』として、この国をひっくり返す手伝いをしろ!」
こうして、私は一回の発砲で、戦国最強のブラック企業……もとい、急成長ベンチャー「織田家」への就職を決めてしまった。
「……ま、いいか。飯と風呂があるなら」
雷蔵が「やれやれ」という顔で私を見上げた。
私の「戦国内政チートライフ」が、怒涛の勢いで動き始めた瞬間だった。
【第4話予告】
信長の屋敷に招待された百舌鳥。
そこで待っていたのは、戦国時代の「不衛生な現実」だった!
「殿、まずは風呂に入りましょう。あと、石鹸作りますよ」
そして、正室・帰蝶とのスリリングな対面……!
次話:『魔王の風呂番と、不思議な石鹸』




