長城の決戦と、巨大ジューサーの恐怖
「……一佐殿、もといキウイ。大陸の空気は、どうしてこうも砂埃と『野心』の臭いがするのかね」
私は「クイーン・モズ号」の舳先に立ち、バナナの着ぐるみの隙間から双眼鏡(凸レンズを不思議ポケットの技術で組み合わせた逸品)を覗き込んだ。明の海岸線に接した万里の長城の端っこ……そこには、もはや歴史の教科書とは似ても似つかぬ「パイナップル・タワー」がそびえ立っていた。
「百舌鳥殿、あれはただの物見櫓ではない。周囲に蒸気機関の排気煙が見える。おそらく、地下水路を利用した水圧動力と、石炭による火力発電のプロトタイプを組み合わせた、CEO……パイナップル独自の『要塞管理システム』だ。」
キウイは毛羽立った茶褐色の腕を組み、冷徹に分析した。
私たちの船が接岸しようとすると、長城の上から無数のサーチライト(巨大な凹面鏡にアセチレン灯を組み合わせたもの)が、夜の海を真昼のように照らし出した。
「不法入国者諸君、停止せよ! これより先はパイナップル社の独占経済圏だ。入国には『感情の全廃』と『十六時間労働』への同意が必要である!」
拡声器を通したパイナップルの声が、海面に反響する。信長様はイチゴの被り物を揺らしながら、不快そうに鼻を鳴らした。
「ふん、たかがトゲトゲの果実が。百舌鳥よ、俺のイチゴの輝きで、あの不遜な城壁を真っ赤に染めてやれ!」
「了解ですよ、パパ(信長)。……野郎ども、上陸作戦開始だ! 五助、小次郎、お凛、出番だよ!」
私の号令と共に、クイーン・モズ号の側面から小型の「上陸用舟艇(コンクリート補強済み)」が射出された。
ブドウのヘルメットを被った五助が、現代の「破城槌」を模した巨大な鉄柱を担いで真っ先に飛び出す。メロンの仮面の小次郎は、不思議ポケット特製の「ニトログリセリン(不安定版)」を詰め込んだ爆薬樽を背負い、ネズミのような速さで城壁の隙間を駆け登った。
「……非効率だ。そんな旧時代の攻撃、我が『自動連射バリスタ』の餌食になるだけだ。」
パイナップルがスイッチを押すと、長城の壁面から無数のガトリング式バリスタが現れ、矢の雨を降らせてきた。だが、そこで一等陸佐……キウイが動いた。
「キウイの『煙幕射撃』を食らえ!」
キウイが不思議ポケットから出した発煙筒をコルトマムシで空中に放つと、あたり一面が茶色の煙に包まれた。視界を奪われたバリスタの掃射が逸れる。その隙に、五助が城門に肉薄した。
「百舌鳥様のマヨネーズを……独り占めするなああぁぁ!」
ドォォォォン!!
五助の怪力と小次郎の爆薬が同時に炸裂し、パイナップルが誇る「鋼鉄の門」がひしゃげた。私たちは一気に長城の内部へと雪崩れ込む。
だが、要塞の中央広場で私たちを待ち構えていたのは、巨大な円筒形の、不気味な機械だった。
「……お目にかかれて光栄だ、フルーツ諸君。君たちのその『無駄な肉体』を、この『全自動・巨大ジューサー』で、効率的な肥料へと変えてあげよう。」
パイナップルがレバーを引くと、機械から巨大な回転刃が唸りを上げ始めた。それは現代のミキサーを数千倍にしたような地獄の装置だった。
「おねえちゃん、あの機械、怖い音がする! 動物さんたちがみんな『飲み込まれるな!』って叫んでるよ!」
リンゴ娘の茶々丸が、私の背中にしがみつく。私は不思議ポケットから、まだ誰にも見せていない「最後の秘策」を取り出した。
「……パイナップルさん。あんた、効率ばっかり求めて『潤滑』を忘れてるんじゃないかい?」
私はコルトマムシに、特別に調合した「高粘度・超潤滑ローション弾」を装填した。
「五助、小次郎! あいつのギアの隙間に、おじさん特製のヌルヌルをぶち込んでやれ!」
ジューサーの回転刃が私たちの目の前に迫る。だが、その巨大な歯車にローションが着弾した瞬間、凄まじい異音と共に装置が空回りを始めた。
「な……!? 摩擦係数がゼロだと!? 計算外だ、エネルギーが伝達されない!」
「……機械ってのはね、デリケートなんだよ。おじさんの『卑怯なメンテナンス』、たっぷり味わいな!」
回転を失ったジューサーは、自らの重みに耐えきれず爆発。パイナップルは「私のシステムがぁぁ!」と叫びながら、長城の反対側へと吹き飛ばされていった。
私たちは、煙を上げる要塞の中で、勝利の雄叫びを上げた。
だが、パイナップルの姿はすでにそこにはなかった。彼は大陸の奥地……さらに西の、インドやペルシャへと逃げ延び、そこで「第二の工場」を作ろうとしているらしい。
「逃がさないよ、トゲトゲ頭。……さて、パパ(信長)。せっかく長城を制圧したんだ。今夜はここで、中華素材をマヨネーズで和えた『長城大宴会』を開こうじゃないか。」
信長様は満足げにイチゴの被り物を揺らし、フロイスは「長城にレモンの光が!」と叫んで祈りを捧げた。
おじさんの世界一周。
東洋の壁を突破し、次なる舞台は神秘のインド亜大陸へ。
果実たちの旅は、さらに混沌と「旨味」を増していく。




