荒波の巨獣と、パイナップルの万里の長城
「……うっぷ。キウイ、頼むから隣で『生存自給自足:魚の目玉の栄養価について』
を講義するのはやめてくれ。バナナの中身が逆流しそうなんだよ……」
東シナ海の荒波に揺られ、クイーン・モズ号の甲板で私はのたうち回っていた。戦国最強の「不思議ポケット」も、船酔いという生理現象には勝てない。私の隣では、茶褐色の毛羽立った着ぐるみを微動だにさせず、キウイ(元一等陸佐)が釣ったばかりの生の魚を軍用ナイフで捌いていた。
「百舌鳥殿、精神の弛緩は三半規管の乱れを招く。このキウイの着ぐるみに含まれる微細な振動が、船の揺れを相殺する設計であることを忘れたか。」
「……知るかよ。そんなハイテク、この時代の布で作れるわけないだろ。あんたの気合(プラシーボ効果)だよ。」
私がマヨネーズを舐めて胃酸を中和させようとしていると、見張り台のリンゴ娘・茶々丸が、動物たちの声を聞き取って叫んだ。
「おねえちゃん! 大変、下から大きな『山の神様』が来てる! 海が怒ってるよ!」
海面が盛り上がり、船体を上回る巨大な影が浮上した。それは、一頭の巨大なクジラだった。パイナップル(CEO)が大陸へと渡る際、実験的に放った「音響兵器」のせいで発狂し、手当たり次第に船を襲っているらしい。
「ふん、魚の化け物か。俺のイチゴの輝きで鎮めてやろうか!」
信長様がイチゴの被り物を正しながら刀を抜こうとしたが、私はそれを制した。
「殿、待って! 茶々丸、あの子と話せる? 美味しいエサ……じゃなくて、痛いところを取り除いてあげられるかな?」
茶々丸はリンゴの被り物を脱ぎ捨て、荒れ狂う海に向かって澄んだ指笛を吹いた。雷蔵もまた、スイカの被り物を揺らしながら「ワン!」と鋭く吠え、クジラの注意を引く。
「クジラさん、落ち着いて! おねえちゃんが作った『特製・深海マヨネーズ』と、不思議ポケットの薬で治してあげるから!」
茶々丸の純粋な意思が通じたのか、クジラは船の目の前で動きを止めた。その背中には、パイナップルが仕掛けた不気味な「音響発信機」が突き刺さり、化膿していた。私はバナナの着ぐるみを脱ぎ捨て、一等陸佐と共にクジラの背中へ飛び乗った。
「キウイ、切開だ! おじさんは不思議ポケットの消毒液と、傷口を塞ぐ『瞬間接着剤(強力米糊)』を用意する!」
「了解。キウイの一撃、受けてみろ。」
キウイのサバイバルナイフが音響装置を切り離し、私が消毒液をぶちまける。クジラは一度大きく潮を吹き、感謝するように深く潜っていった。海は一瞬にして静まり、追い風が吹き始める。
「……お見事。デウスもこのクジラの救済を喜んでおられましょう。さあ、レモンの香りと共に大陸へ!」
レモン姿のフロイスが十字を切る中、私たちの船は明の海岸線へと辿り着いた。だが、そこで私たちを待ち受けていたのは、想像を絶する光景だった。
「……なんだありゃ。万里の長城が、光ってる……?」
水平線の先、大陸の防衛線であるはずの万里の長城が、パイナップルによって「要塞化」されていた。石壁の上には現代の「サーチライト(反射鏡式)」が並び、さらには蒸気機関で動く「自動連射バリスタ」が配備されている。そして、その中心には巨大なパイナップルの旗が翻っていた。
「ようこそ、百舌鳥。そしてイチゴ、バナナ、レモン、キウイ諸君。」
長城の上から、拡声器を通したパイナップル(CEO)の声が響き渡る。
「私はこの大陸の圧倒的な労働力と資源を使い、ここを世界最高の『効率的工場』へと作り替えた。君たちの『感情とマヨネーズ』に頼った経営など、私の『巨大システム』の前には無力だ。……さあ、私の魔改造された長城に、果実のままぶつかって砕けるがいい!」
「……言ってくれるじゃないか、トゲトゲ頭の効率厨。おじさんの『不思議ポケット』には、あんたの計算をバグらせる『最高のスパイス』がまだ残ってるんだよ。」
私はコルトマムシのシリンダーをカチリと回し、バナナの皮を模したマントを翻した。
対決はついに世界規模へ。
イチゴ、バナナ、レモン、キウイ、そしてスイカ。
果実たちの連合軍が、パイナップルの巨大帝国へと反撃の狼煙を上げる。
「野郎ども、上陸開始だ! 今夜の飯は、麻婆豆腐にマヨネーズを混ぜた『戦国麻婆マヨ』だぞ! チェストォォォ!」
信長様がイチゴの被り物を真っ赤に燃え上がらせて叫ぶ。
おじさんの世界一周は、早くも最大の難所を迎えていた。




