本能寺、フルーツ・パニック!
天正十年、六月二日。未明。
京の都を覆う霧の中に、松明の火が不気味に揺れていた。
本来ならば「敵は本能寺にあり!」という厳かな号令が響くはずのその場所には、異様な光景が広がっていた。
「……モズ様。この『レモンの衣(着ぐるみ)』こそが、バチカンが認めた聖なる色彩なのですね。ああ、酸っぱい香りが魂を浄化するようです……!」
宣教師ルイス・フロイスは、丸々とした真っ黄色のレモンの着ぐるみを纏い、感極まって十字を切っていた。その隣では、信長様が真っ赤なイチゴの着ぐるみを着て、どっかと縁側に座っている。
「ふん、レモンか。悪くない。だが、やはり俺のイチゴこそが天下人の色よ!」
「……殿、その姿で威厳を出そうとするのは無理がありますって。あとフロイスさん、それレモンじゃなくてただのクッション材ですよ。」
私は黄色いバナナの着ぐるみに身を包み、リボルバー「コルトマムシ」のシリンダーを回した。
茶々丸はミニサイズのリンゴ、弟子たちはメロンやブドウの被り物をさせられ、本能寺はもはや「戦国フルーツ盛り合わせ」の状態である。雷蔵までもがスイカの被り物をさせられ、死ぬほど嫌そうな顔をしている。
その時、寺を囲む軍勢から、絶望に満ちた叫びが上がった。
「……狂っておる。上様も、フロイスも、そしてあの女も、皆果物になってしまわれた! この日ノ本を、こんなビタミンカラーに染めさせてなるものかぁぁ!」
闇堕ちした明智光秀が、血走った目で刀を抜いた。背後には、効率主義の化身・パイナップル(CEO)が、自作の「トゲトゲ付きタクティカル鎧(パイナップル風)」を纏って冷笑している。
「計算通りだ。この『フルーツ・パニック』の混乱に乗じて、信長をデリートする。……全軍、突撃! ターゲットはイチゴだ!」
「光秀、パイナップル! おじさんバナナの皮……じゃなくて、バナナの怒りを見せてやるよ! 小次郎、五助、お凛! フルーツ陣形、展開!」
私が叫ぶと、イチゴ、バナナ、レモンが入り乱れる前代未聞の戦いが始まった。
五助がメロンのヘルメットで体当たりし、小次郎がブドウの粒に見せかけた小型爆弾をバラ撒く。
「レモンよ、デウスの光を放てぇぇ!」
フロイスがレモンの着ぐるみから現代知識の「閃光粉」をぶちまけ、あたりは酸っぱい匂いと白い光に包まれた。
「……あぁ、目が! イチゴとレモンが眩しすぎる!」
混乱する明智軍。その中心で、私はバナナの着ぐるみを脱ぎ捨て(中にはタクティカル忍び装束)、パイナップルCEOの喉元にコルトマムシを突きつけた。
「……パイナップルさん。あんたの効率的な計算には、『おじさんの悪ふざけ』という変数が足りなかったみたいだね。」
本能寺の業火よりも熱い、果物たちの死闘。
歴史の教科書が絶対に語らない「本能寺の変」が、今、クライマックスを迎えようとしていた。




