おじさん流課外授業 ―― 泥棒の極意と、濡れた夜の教え
「いいかお前ら、今日の課外授業のテーマは『ビジネスとしての強盗』だ。正面からぶつかって血を流すのは、脳筋の素人がやること。プロってのは相手を気持ちよくさせて、その隙に財布を抜くんだよ。わかるか? 笑顔で身ぐるみを剥ぐ、これが大人のマナーだ」
清洲城下。私は弟子の小次郎、お凛、そして大柄な五助を連れて、CEOの息がかかった悪徳商人の蔵の前に立っていた。本能寺への軍資金を稼ぎつつ、実戦教育を行う一石二鳥の作戦だ。
「百舌鳥様、蔵の番兵は五人。全員がCEO支給の長槍を持っています。正面突破なら五助が盾になり、俺がその隙に三人を……」
小次郎が真面目な顔で、里で習った通りの「命を捨てる」戦術を提案する。だが、私はその鼻先を不思議ポケットから出した扇子でピシリと叩いた。
「不合格。そんなことしたら五助の新しい服が汚れちゃうだろ? お凛、準備したアレを出しな。おじさん特製の『ハニートラップ・キット』だ」
お凛がポケットの予備として自作した小袋から取り出したのは、高純度のアルコールと現代の香水の知識を混ぜた、陶器の小瓶だった。
「まず、お凛が『迷子の町娘』を演じて番兵を惹きつける。その隙に、風上からこの香りを流す。五助、お前はあっちの角で『最高に香ばしい焼き鳥』を団扇で仰ぎ続けろ。いいか、人間は『鼻』からバカになるんだ」
作戦は完璧だった。お凛の可愛らしい(演技派の)泣き真似に番兵がデレデレし、漂ってきた甘い香水と焼き鳥の匂いに理性を失った瞬間、おじさん特製の「強力催眠煙幕」が炸裂した。
「……信じられん。一滴の血も流さずに、全員が幸せそうな顔で寝ている」
小次郎が驚愕する中、私たちは蔵の中の小判と、CEOが溜め込んでいた南蛮の高級布地をすべて運び出した。これが「おじさん流・接待強盗」だ。相手に「いい夢を見た」と思わせたまま全てを奪う。これが最も恨まれず、最も効率がいい。
そのまま授業は夜の川辺へと移った。一等陸佐も同行し、今回は「地形利用とサバイバル」の訓練だ。
「おねえちゃん、夜の水遊びは冷えるよ」
茶々丸が雷蔵と水辺で震えているが、私は真剣な顔で川の流れを指差した。
「違うよ、茶々丸。今日は『渡らせない術』を学ぶ。もしCEOの軍勢がこの川を渡ろうとしたら、どう止める? 答えは『物理』じゃない、『心理』だ」
私は不思議ポケットから「高濃度の石鹸成分」を取り出し、上流から一気に流させた。川面がみるみるうちに真っ白な泡に包まれ、月光を反射して不気味に輝く。さらに、岸辺の岩にはおじさん特製の「ローション風・滑る油」を塗りたくった。
「いいか、人間は足元が見えないと本能的な恐怖を感じる。さらに岩場がヌルヌルで、川底の石がグラグラなら、どんな精鋭部隊もただの溺れかけのネズミだ。一佐殿、これに上から矢を降らせたらどうなります?」
「……地獄だな。近代戦のトラップ理論を、これほど原始的かつ卑怯に再現するとは。百舌鳥、君は本当に教育者に向いているよ」
一等陸佐が呆れたように笑う。訓練の終わり、びしょ濡れになった子供たちは、焚き火を囲んで体を温めることになった。そこで、茶々丸と太郎丸が、一つの大きな毛布を肩から掛けて、お互いの体温を分け合っている。
「……ねえ、太郎丸くん。おねえちゃんが言ってたけど、こうして肌を合わせていると『オキシトシン』っていう幸せの元が出て、毒の回りが遅くなるんだって」
茶々丸の無垢な言葉に、太郎丸は顔を真っ赤にして固まっている。
「そ、そうか……。なんだか、心臓がバクバクして、別の毒が回ってるみたいだ……」
暗がりで寄り添う二人。濡れた髪から滴が落ち、焚き火の光がその若い肌を妖しく照らす。中身がおじさんの私は、その「意味深な空気」を遠目から眺めながら、酒の代わりにマヨネーズを一口啜った。
(おいおい、オキシトシンの話をしたのは俺だけどさ……。そんな甘酸っぱい雰囲気に使えなんて言ってないぞ。……ま、これも生命の神秘か)
「一佐殿、あんまり見てやんなよ。おじさんの胃が痛くなる」
「……いや、平和な光景だ。この子供たちの未来を、CEOのシステムに渡すわけにはいかんからな」
私たちは焚き火の爆ぜる音を聞きながら、静かに闇を見つめた。日常とギャグの裏側で、CEOの冷酷な時計は一刻一刻と、本能寺へのカウントダウンを刻んでいる。
「よし、お遊びはここまでだ。明日からは『コルトマムシ』の実戦訓練に入るぞ!」
私の号令に、子供たちが一斉に背筋を伸ばした。その目には、もはや怯えではなく、自分たちの手で明日を勝ち取るという確かな意志が宿っていた。




