再就職(?)の一次面接
里を追い出されて数時間。
私は相棒の雷蔵と共に、鬱蒼とした山道を下っていた。
「……さて、雷蔵。まずは軍資金の確保だ。この『不思議ポケット』には現代知識が詰まってるが、物理的な小判は一枚も入ってないからな」
「ワン!」
雷蔵が鋭く短く吠える。その直後、茂みがガサガサと揺れ、見るからに不潔な格好をした男たちが三人、道に躍り出た。
手に持っているのは錆びた刀と、先が尖っただけの竹槍。
「へっへっへ……。運がいい、こんな山奥に上玉のガキが一人かよ」
「おい娘、その奇妙な服、大人しく脱いでもらおうか。抵抗しなけりゃ、命だけは助けて――」
(……あぁ、これだ。ネット小説で見たやつ。テンプレ通りすぎて、おじさん感動しちゃうな)
私は深いため息をつき、不思議ポケットの腰のあたりに手をやった。
「いいよ、おじさんたち。ただし、私の『不思議ポケット』から出るものは、君たちの手に負える代物じゃないけどね」
「あぁん? ガキがほざきやがって! やっちまえ!」
一番前でニヤついていた男が突進してくる。
私は抜刀すらしない。
里で叩き込まれた身体能力に、現代の重心移動理論を掛け合わせた体術。
男が槍を突き出す瞬間に一歩内側へ入り込み、掌底で顎を突き上げる。
「がっ……!?」
脳震盪を起こした男が白目を剥いて崩れ落ちる。
間髪入れず、残りの二人が怯んだ隙を逃さない。
「雷蔵、左!」
「グルル……ッ!」
雷蔵が猛然と一人の足首に食らいつく。
悲鳴を上げる暇も与えず、私はもう一人の懐に飛び込み、首筋に手刀を叩き込んだ。
時間にしてわずか十秒。道には三人の男が芋虫のように転がっていた。
「……ふぅ。さて、所持品検査の時間だ」
私は男たちの懐を漁り始めた。
だが、出てくるものは泣きたくなるほどしょぼい。
「欠けた握り飯、泥だらけのふんどし……。あ、この銀の粒が二枚だけ? 嘘だろ、ブラック企業の新卒の給料以下じゃないか」
私は天を仰いだ。この時代の「格差社会」は想像以上にエグいらしい。
だが、その時。雷蔵が男の一人が持っていた汚い書状を咥えて持ってきた。
「ん? なにこれ……『尾張・伊藤屋への通行手形』……と、美濃の刺客への連絡用か?」
その書状には、尾張の商人・伊藤屋を狙うための手筈が記されていた。
どうやらこいつら、ただの山賊ではなく、どこぞの勢力に雇われた「使い走り」だったらしい。
「伊藤屋ね……。名古屋か。飯も美味そうだし、ここに行けば、もう少しマシな仕事(内政チートの機会)があるかもしれないな」
私は男たちを道端の木に縛り付け、不思議ポケットから取り出した「強力な下剤入りの飴」を口に放り込んでやった。
目が覚めた頃には、彼らの戦国ライフは別の意味で地獄に変わっているはずだ。
「よし、行くぞ雷蔵。目指すは尾張の名古屋メシだ!」
私は軽い足取りで山道を駆け下りた。
この時はまだ知らなかった。
この通行手形が、後に「魔王」と呼ばれるあの男との、最悪で最高な出会いに繋がることを。
【第3話予告】
尾張の城下町に到着した百舌鳥。
豪商・伊藤屋を襲う危機を前に、ついに秘密兵器『コルトマムシ』の試作型が火を噴く!
そして、派手な格好で茶を啜る「あの男」と目が合って……。
次話:『名古屋メシと、うつけ者のスカウト』




