イチゴの誘惑と、光秀の変貌
一等陸佐を味方につけた私は、急ぎ清洲城へと戻った。CEOが京都そのものを吹き飛ばそうとしている。そんな「効率的すぎる大虐殺」、おじさんの美学が許さない。
「殿、本能寺へ行くのは中止にしましょう。あそこは今、巨大な爆弾になろうとしています」
と私は信長様に詰め寄ったが、信長様は窓の外を見つめたまま動かなかった。
「……光秀が、京で待っておるのだ。あ奴が用意したという『南蛮渡来のイチゴ』、それを共に食おうと約束してな」
信長様の声はどこか虚ろだった。嫌な予感がする。私は雷蔵と一等陸佐を連れ、一足先に京の都へと向かった。
一方、本能寺の奥座敷。明智光秀は、CEOから手渡された真っ赤な果実をじっと見つめていた。それは現代の品種改良技術で極限まで糖度を高めた、この時代にはあり得ないほど甘く、そして不気味なほど赤い「イチゴ」だった。
「光秀殿、それを食べればわかります。信長という男がいかに古く、そしてあなたが守るべき『秩序』がいかに脆いものか」
CEOの囁きに、光秀は震える手でイチゴを口にした。
一瞬で脳を支配する強烈な甘み。それは光秀が一生かけて守ろうとした伝統や礼節を、一瞬で「古臭いガラクタ」に変えてしまうほどの快楽だった。
「……あぁ、あまい。あまりに甘い。それに比べ、上様の語る天下は何と血生臭く、苦いことか」
光秀の瞳から理性の光が消え、代わりにどろりとした闇が宿る。CEOはそれを見て満足げに頷いた。
「そうです。信長は毒だ。この美しい甘さを理解できぬ怪物を、私たちが浄化するのです」
京の入り口に辿り着いた私は、鼻を突く「火薬の臭い」と、微かに漂う「イチゴの甘い香り」を感じ取った。
「おねえちゃん、空が泣いてるみたい。カラスたちがみんな逃げていくよ」
茶々丸が私の服の裾を強く握る。私は『不思議ポケット』からコルトマムシを引き抜き、一等陸佐に目配せをした。
「……一佐殿、サバイバルの準備はいいかい。これから、歴史上最も『甘くて危険な』夜が始まるよ」
雷蔵が低く唸り、私たちは燃え上がる本能寺へと駆け出した。




