サバイバリストの影と、おじさんの意地
子供たちへの襲撃を退けてから数日後。私は清洲の城下町外れにある「特訓場」にいた。雷蔵がかつてないほど低い姿勢で周囲を警戒している。風の中に、これまでの刺客とは違う「硝煙と泥の臭い」が混じっていた。
「……出てきなよ。あんた、CEOに雇われたんだろうけど、あいつらみたいな素人(忍び)じゃないだろ」
私が呼びかけると、一本の巨樹の影から、男が音もなく現れた。装備は忍びのものだが、立ち振る舞いが違う。重心の置き方、指の添え方、そして何より、殺意を完全にコントロールしている。
「……驚いたな。この時代に『タクティカルな視線』を持つ子供がいるとは。私は山伏……と呼ばれているが、向こうじゃ一等陸佐まで務めた身でね」
(一等陸佐!? ガチのプロじゃないか。CEOの野郎、とんでもないカードを切りやがった)
「おじさん……じゃなくて、私の平和な内政を邪魔しに来たのかい、一佐殿。それとも、美味しいマヨネーズのレシピでも欲しくなった?」
「レシピには興味ない。ただ、CEOは君が歴史のバグだと判断した。私は任務を遂行するだけだ」
男が懐から取り出したのは、自作の「コンバット・ナイフ」と、この時代にはあり得ない形状の「特殊クロスボウ」だった。
「茶々丸、太郎丸! 下がってろ! こいつはあんたたちの手に負える相手じゃない!」
私が叫ぶのと同時に、男が動いた。一等陸佐の戦闘技術は、里の忍術を遥かに凌駕する効率の塊だった。だが、私には「不思議ポケット」と、三十年間の「負け犬おじさん」としての執念がある。
「効率がいいだけじゃ、おじさんには勝てないよ。……雷蔵、フラッシュバン(閃光弾)!」
私は不思議ポケットからマグネシウムを配合した特製の粉末を投げつけ、雷蔵が火打石を蹴って火花を飛ばした。轟音と光が炸裂する。
「……甘いな。目隠しの訓練は死ぬほど受けている」
男は光を予測して目を閉じ、音だけで私の位置を特定してクロスボウを放った。矢が私の頬を掠める。
「おねえちゃん!」茶々丸が叫び、動物たちが一斉に男へ向かおうとするが、私はそれを制した。
「手出し無用! こいつは、おじさんがケリをつけなきゃいけない『過去の遺物』なんだよ」
私は不思議ポケットから、コルトマムシではなく、一本の「ローション風の油」を地面にぶちまけた。一等陸佐の洗練されたフットワークが、この「ヌルヌル」にどう対応するか。私はニヤリと笑い、おじさんの卑怯な戦い方を開始した。




