魔王の孤独と、次世代の胎動
京から尾張に戻る道中、私たちは信長様からの密書を受け取り、急ぎ清洲へと帰還した。
城の奥、一人で酒を煽る信長様の背中は、いつになく小さく、そして刺すような孤独を纏っていた。
「百舌鳥……。京の連中も、美濃の身内も、皆俺の首を狙っておる。俺が作ろうとする世は、そんなに恐ろしいか」
「当たり前ですよ、殿。あんたがやろうとしてるのは、彼らの『居心地の良い古い家』を壊して、鉄筋コンクリートのビルを建てるようなもんですから。」
私が冗談めかして言うと、信長様は微かに笑い、視線を私の傍らで控える茶々丸へと移した。
「……茶々丸、近う寄れ。お前も、母のように俺を欺くか?」
茶々丸は一瞬身体を強張らせたが、信長様の瞳の奥にある「寂しさ」を敏感に感じ取ったようだった。彼女は一歩前に出ると、信長様の大きな手に、自分の小さな手を重ねた。
「パパ。茶々丸はね、嘘はつかないよ。でも、動物さんたちと一緒に、パパの敵をみんな見つけることはできるよ。」
「……ほう。」
「おねえちゃん(百舌鳥)が教えてくれたの。大人は嘘をつくけど、お腹を空かせた野良犬や、空を飛ぶカラスは嘘をつかないって。茶々丸は、パパを守る『目』になる。」
信長様は驚いたように目を見開き、やがて声を上げて笑った。その笑いは、CEOに追い詰められていた空気を吹き飛ばす力強さがあった。
「はははっ! 頼もしいことだ。百舌鳥、お前が育てたのはただの忍びではないな。」
その夜、私は寝静まった子供たちの部屋で、不思議ポケットの整理をしていた。
そこへ、修行中の弟子である男の子、太郎丸(仮名)がやってきた。彼は戦災孤児だったが、私が拾い、今は茶々丸の兄貴分として鍛えている。
「お師匠様。俺……CEOって奴の出してきた『新型の火縄』を見ました。あれ、俺たちの弓じゃ勝てない。」
「……よく見てたね。あれはね、現代のライフル技術を一部取り入れた『オーパーツ』だよ。」
私は太郎丸に、一丁の未完成の銃身を渡した。
「太郎丸。あんたには、私のコルトマムシをコピーするんじゃなく、これに『この時代の良さ』を組み込んだ新しい武器を考えてほしい。」
「……俺たちの、武器?」
「そう。おじさん……じゃなくて、私の知恵をただなぞるだけじゃ、あいつ(CEO)には勝てない。あんたたちの『戦国の勘』と、私の『未来の知恵』を混ぜるんだ。」
茶々丸が動物たちのネットワークを構築し、太郎丸が現場の技術を磨く。
CEOが「効率」というシステムで国を縛ろうとするなら、私たちは「家族」という名の、予測不能な絆でそれを突破する。
「よし、みんな。明日は早朝から『実践サバイバル訓練』だ。雷蔵、寝てる場合じゃないよ。」
雷蔵が不満げに片目を開け、尾を一度だけ叩いた。
本能寺の変まで、あと数年。
魔王の孤独を埋めるのは、歴史の修正力ではなく、私たちがこの地で育んできた「新しい命」の輝きだった。




