京の都のインフルエンサー
「わんにゃん特急便」の成功でCEOの鼻を明かしたのも束の間、信長様から呼び出しがかかった。
「百舌鳥よ。京の義昭公の周りで、妙な振る舞いをする女がおる。公方様をたぶらかし、都の女子どもに見たこともない紅や装束を流行らせておるそうだ」
「インフルエンサーってやつですか。……めんどくさ。」
私は雷蔵を連れ、修行に身が入らない様子の茶々丸を「社会科見学だ」と連れ出して京へ向かった。
都に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。行き交う女子たちが皆、顔を真っ白に塗る伝統的な化粧ではなく、現代の「地雷系」か「量産型」を思わせる、不自然に目を強調したメイクを施していたのだ。
「おねえちゃん、あの人たちの顔、なんだかお化けみたい……。」
「あれはね、承認欲求という名の呪いだよ、茶々丸。」
情報の出処を探ると、二条御所にほど近い一角に、これ見よがしに派手な館が建っていた。そこには『聖母の館』という看板が掲げられ、信者紛いの女子たちが列をなしている。
私が「不思議ポケット」から取り出した透明化の布(といっても、ただの迷彩色の薄布だが)で忍び込むと、館の奥で一人の女が、足利義昭の肩に手を置きながら鏡を覗き込んでいた。
「いいですか、義昭様。この『キラキラお目々』の術を使えば、民衆は皆あなたを天の使いと崇めます。信長なんて古臭いおじさん、放っておけばいいんです。」
女の名は、自称・愛莉。現代でSNSのフォロワー数だけを命に生きてきた女転生者だった。
彼女は現代の化粧品知識(というより、百均のコスメに近い粗悪な自作品)を使い、義昭を「プロデュース」して実権を握ろうとしていたのだ。
「……おいおい。CEOの次はメンヘラ女子かよ。この時代の歴史、魔改造されすぎだろ。」
私が思わず呟くと、愛莉が鋭くこちらを振り向いた。
「誰!? せっかくいい感じに加工……じゃなくて、プロデュースしてたのに! 邪魔する奴はブロックよ!」
彼女が合図を送ると、館の影から、CEOに雇われたはずの「第三の忍び」の残党が現れた。どうやら、効率主義のCEOと、承認欲求の化け物は裏で手を組んだらしい。
「雷蔵、茶々丸。悪いけど、この『キラキラ地獄』を壊すよ。」
私は不思議ポケットから、コルトマムシではなく、特製の「強力クレンジング・オイル弾」を取り出した。




