わんにゃん特急便と、鮮度の逆襲
「CEOの野郎、保存性を盾に市場を独占するつもりか。……おじさん、そういう『理屈で攻めるブラック上司』みたいなやり方、一番嫌いなんだよね」
私は養鶏場の入り口で、腕を組んで毒づいた。CEOがバラ撒いた「塩辛い長期保存マヨ」は、街道の宿場町に着実に浸透し始めている。それに対し、私の「本物」は三日で味が落ちる。普通に戦えば、物流の差で負けるのは目に見えていた。
「でもさ、保存が効かないなら、腐る前に届ければいいだけの話じゃない?」
私の言葉に、茶々丸が目を丸くした。「無理だよおねえちゃん。尾張から京まで、荷物を運ぶのに何日かかると思ってるの? 馬だってそんなに速く走れないよ」
「人間が運ぶから遅いんだよ、茶々丸。……あんた、最近里の裏山で動物たちと遊んでるだろ? あの子たちに『お願い』できないかな」
私は不思議ポケットから、特製の「乾燥ササミ」と「マタタビ粉」を取り出した。茶々丸には、生まれつき動物の感情を読み取り、手懐ける天性の才能がある。里の修行でも、彼女の周囲には常に野良犬やカラスが集まっていた。
「わんにゃん、カラス……。みんなを呼ぶの?」
「そう。名付けて『わんにゃん特急便』。犬は陸路をリレーで駆け抜け、カラスは空から緊急連絡を届ける。駅ごとに『美味しい餌』を用意しておけば、彼らは世界最強の運送業者になるよ」
茶々丸は少し不安げだったが、私が教えた「現代風ドッグトレーニング」の指笛を吹いた。すると、どこからともなく数十頭の野良犬と、空を埋め尽くすカラスが集まってきた。
「みんな、おねえちゃんが作った『美味しいもの』を、あっちの町まで運んでほしいの! お願い!」
茶々丸の号令と共に、雷蔵がリーダーとして犬たちをまとめ上げ、猛烈な勢いで街道へと散っていった。
数日後。京の宿場町では、奇跡のような光景が広がっていた。
「……なんだこのマヨネーズは! まるで今さっき尾張で作られたかのような鮮度ではないか!」
CEOが独占していた宿場町の裏で、犬たちが運んできた「出来立ての小瓶」が、飛ぶように売れ始めた。効率を追求して味を犠牲にしたCEOの製品に対し、私の「圧倒的な鮮度と旨味」が、庶民の胃袋を瞬く間に奪い返していく。
「馬鹿な……! 動物に物流を任せるなど、計算外だ! 統計学的にあり得ん!」
拠点の城下町で、CEOの叫び声が響いたという。彼は「管理」と「支配」を信じていたが、私は「信頼」と「ご褒美(餌)」の力を信じていた。中身がおじさんの私は知っている。結局、世の中を動かすのは冷たい数式ではなく、胃袋を満たす幸せなのだ。
「よしよし、雷蔵、みんな。今日のご褒美は特盛の卵焼きだぞ」
大はしゃぎする犬たちを眺めながら、私は不思議ポケットから一本の煙草(もどきの薬草)を取り出した。
「さて、CEOさん。次はどんな『効率的な嫌がらせ』をしてくるかな?」
勝利の余韻に浸る間もなく、京の都から一人の使者が、不穏な知らせを持って現れた。




