黄金の卵と、猿の登場
正徳寺での会見。斎藤道三は、信長の「うつけ」姿を見てもなお、その腹の内を探りかねていた。
そこで私が差し出したのが、不思議ポケットから取り出した、例の『マヨネーズ』を添えた温野菜と卵料理だった。
道三は一口、それを口に運ぶ。
……その瞬間、彼は箸を止め、私を射貫くような目で見つめた。
「……小娘。これは、ただの美味い料理ではないな」
「流石は蝮の旦那。お気づきですか。」
私は一歩前に出て、道三の耳元で囁くように続けた。
「このタレの原料は卵と油。そしてこれらを大量に、安定して作る『仕組み』を、私は既に尾張に築いています。この一皿の後ろには、一万羽の鶏と、それらを動かす『帳簿』がある。旦那……あんたが兵を鍛えている間に、私たちは『飢えをなくす工場』を作っているんです。」
道三の目が細くなる。彼はこの料理に、信長の背後に控える「未来の兵站」を見たのだ。
「もし殿(信長)を討てば、この知恵は永久に失われます。旦那……あんたなら、どちらが『利』があるか、計算できるはずだ。」
道三は沈黙した。
武力で尾張を奪ったとしても、この少女が持つ「異世界の知恵」までは奪えない。むしろ、信長という器を認め、この知恵を味方に引き入れる方が、美濃の安泰に繋がる。
「……くっ、くかかか! 見事よ。食い扶持を握る者が天下を握るか。信長、貴様の勝ちだ。わしのような古い蛇は、この新しき理には勝てぬわ。」
道三はそう言い残し、満足げに寺を去っていった。
戦わずして「未来のビジョン」で勝つ。これが三十路無職おじさんの、生存戦略だった。
さて、尾張に戻ると、信長様から「あの計画を始めろ」と命じられた。
そこで紹介されたのが、あの猿のように落ち着きのない男、木下藤吉郎だった。
「お初にお目に掛かりまする! 織田家に仕えたばかりの藤吉郎と申しまする!」
「藤吉郎さんだね。私は百舌鳥。これから君には、尾張を卵の海にしてもらうよ。」
藤吉郎はニカッと笑って平伏した。
現代の「養鶏システム」を戦国に持ち込む。雷蔵には不審者の警護を、茶々丸には鶏の体調管理を任せ、私たちは怒涛の勢いで拠点を築き上げた。
だが、順調な時ほど、不穏な影は忍び寄る。
数カ月後、藤吉郎が真っ青な顔で駆け込んできた。
「百舌鳥様! 卵の流通を不当に操作しようとする奴らが現れました! そいつら、『損益分岐点』だの『市場独占』だの、聞き慣れぬ言葉を使っております!」
(……間違いない。中身に『現代の汚い大人』が入ってる。)
私は『不思議ポケット』の中の『コルトマムシ』を撫でた。
「藤吉郎さん、面白いね。効率主義のCEOだか何だか知らないけど……おじさんの『適当な美学』を舐めちゃいけないよ。」
雷蔵が鋭く吠える。
私の「内政チート」に、ついに同じ知識を持つ「天敵」が牙を剥き始めていた。




