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こだわりというか、わだかまりというか  作者: 白山月


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メカニカルキーボード

滑らかな樹脂の打鍵音が響いている。 カタカタカタカタ…… カタカタ。 カタカタカタカッ!ターン!ターン!

「ゆ・Uが効かない……」

システム開発部の一条哲也は困り果てていた。

「一条さん、壊れたキーボードの代わりを探したんですけど、予備の在庫がなかったんですよ。新しいの購入するので、何か希望はありますか?」 同じ職場の山崎洋介が心配して声をかけた。

キーボードの好み……。 キーボードは毎日一番長く手に触れる道具だ。 慎重に選ばないとな。

今の不満は……。 なんだか、体が常にねじれているような違和感がある。 画面が2画面だからと思って、横並びから縦2枚に変更したけど、改善していない。 うーむ……。 体の正面にキーボードを置くと……あれ?なんだ?この身体のねじれ感は。 もしかして、このテンキーがあるから、体のセンターがずれるのか? キーボードの**[G]と[H]**のキーを身体の真正面に置くと……ねじれはなくなるな。 でも、このテンキーが横に出っ張っているのは……うーむ、しっくりしない。 やはりテンキーは邪魔なのか?

山崎にこの思いを伝えてみた。 「OETのハッピーハッピーキーボードですか!?あれはいい評判は聞きますが、高いですよね」 「高いのがいいわけじゃなくて、キー配列の中心が、筐体の中心にあるキーボードが欲しいんだ。メーカーはどこでも構わない。そういうモデルはないだろうか?」

山崎は少し考えた。 「せっかくだから、この機会に、いいやつ買っちゃいましょうか」 キーボードのホームページを見ながら、自分だけいいものを買うようで申し訳ない気持ちはあるが、新しいものに対するワクワク感がどんどん膨らんでいく。

その時、同じフロアの若手、高瀬 晶が通りがかった。 一条のキーボードのホームページを見て、声をかけてきた。 「そのキーボード、すごくいいですよ。 私、それ使ってから、腰痛も収まるし、肩こりも楽になりました。 なんか、目の疲れも減ったような気がして…… キーボードに文字が書いてない**(無刻印)から、キーボードを目で見る必要が**なくなって、視線を下ろすことも減ったんですよね」 「そうか!そんなにいいのか!」 一条は興奮気味だ。

「これだけ熱く語ってくれたら安心だな」 一条は尋ねた。 「ところで、高瀬さんは会社支給のキーボードはどうしたの?」 「あぁ、まだ新品で箱に入ったままロッカーに置いてますよ。私の箱入り娘です、なんてね」 山崎は、一条のキーボードが壊れて、在庫がないことを説明し、その未使用のキーボードを譲ってもらえないか交渉した。

「いいっすよ」 いわゆる高瀬の即答である。

一条が熱望した高級メカニカルキーボードが、遠くの夢として消えていく瞬間だった。 「あぁ、私のハッピーは何処へ……」

短い糠喜びだった。




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