煮炊きの話
冬なのに、突然 雷鳴が響いた。
「お母さん、冬の北陸で雷が鳴ることを、**『ぶり起こし』**というそうだよ。」
「分かってますよ。 毎年毎年、言ってますからね。」
お母さんとは、妻の一条美奈子である。
「そうですよ、 そして、夕飯はぶり大根を食べたいって言い出すのよね。」
「それじゃあ、今日はぶり大根にしますね。メアリー、聞こえた? 材料の手配お願いね。」
メアリーとは、一条家のスマートスピーカーの名前だ。
「御意! ぶり大根と、ブリの刺身、そしてブリの刺身に合う熱燗用の日本酒を手配するでござる!」
「メアリー、標準語でいいのよ。」
「御意! ドロン!」
シュタタタタタタタ・・・・・
メアリーは、効果音を残して走り去った**体**にした。
◇◇◇
夕飯の支度をする時間になってきた。
ピンポーン♪
メアリーからのインフォメーションだ。
「宅配業者から、あと5分で荷物が届くという連絡がありました。受け取りお願いいたします。」
一条哲也が窓から外を見ると、光を点滅させながら**『7』**と書いてあるドローンが近づいてきた。
窓を開け、ドローンから荷物を受け取った。
「7号さん、いつもご苦労さん。気をつけて帰ってね。」
いそいそと、ダンボールを台所にいる妻に持って行った。
「お母さん、材料届いたよ。ブリと大根、炊いたんお願いね。」
(炊いたん!?)炊くのはご飯です! いつもそこが気になる。
この人、いつも何でもかんでも、「炊いた、炊いた、炊いた!」
もー! 違和感だわ!
そして出来上がり、夕食が始まる。
「お父さんて、いつも煮物を、**『炊いた』とか『炊いたん』**って言ってるけど。これってブリと大根を炊いたん?」
哲也は笑顔になった。
「そう! 関西弁わかってきたね!」
ご機嫌そうに言われると、イラッとする。
「じゃあ、大根炊いたん? ブリ炊いたん?」
哲也は頷いている。
美奈子は気合を入れて言った。
「ダイコーーーーン タイタン! ブリタイタン! って変じゃない?」
哲也はびっくりしている。
「おぉ! なんか合体するロボットみたいだ! 今まで普通の言葉だったから意識しなかった。これからはこれをネタにしよう!」
がっくし、、、、
美奈子の思いは何も伝わらなかった。
そして、オヤジギャグのレパートリーまで増やしてしまった。。。。
美奈子は自分だけ、刺身を食べ、皿に残った上質なぶりの油を熱燗で流し込む。
「これがあるから我慢できるのよねぇ。」
余韻で悦に浸っている。
「お母さん、わしの刺身は?」
何がいけなかったのか、理解できない哲也であった。




