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こだわりというか、わだかまりというか  作者: 白山月


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MTが好き

会社の給湯室で自分のインスタントコーヒーを入れていると、一条哲也さんがやってきた。


「山崎洋介くん、君はマニュアル(MT)車に乗ってきたような気がするんだが。」


(洋介の心の声) 哲也さん、いきなり車の話か?


「この前、自動車のディーラーに行った時に、『なぜオートマ(AT)ではダメなんですか?』って店員に言われたんだ!」


(洋介の心の声) どうやら、車を見に行って、勧められた車がオートマ(AT)しかなかったらしい。


哲也さんは、店員に、自分が今までずっとMTに乗ってきたこと、そしてこれからもMTにずっと乗り続けていたいこと、その熱い気持ちを伝えるために、MTの好きなところを熱心に説いたそうだ。


「アクセルを離せばすぐエンジンブレーキがかかる。その結果、自然に荷重が前に来て、安定してブレーキが踏めるし、ハンドルも切れる。MTは操作と荷重移動が無意識で連動しているのだ!」


(洋介の心の声) なるほど、意識している荷重移動が、MTだと意識せずにできているのか…。 意識せずにできるなら、別にMTでなくてもいいんじゃないかな。


「シフトを変更するたびに、毎回、エンジンのパワー・トルクを意識するから、自然に車と繋がっているような気分になれる。まるで自分とエンジンが協力して車を進めているのだ。」


(洋介の心の声) 車を進めてるって感じるのは、シフト選択が理由ってことね。 いつも、そんなこと感じているのか……。


「例えば、交差点に入る時、ウインカー、クラッチ操作、シフトダウン、ブレーキという全てが一連の動作なのだ。ATだと左手が宙を舞うばかりで。」


(洋介の心の声) それは、ATが悪いわけじゃなくて、哲也さんの習慣が抜けないだけだろうけど……。 習慣は努力で慣れるものって言うしかないか。


「ATが楽だと言って、シフトチェンジは本来楽しいことなのに、よくも人から楽しいことを奪って、何が楽だ!」


(洋介の心の声) 好きなものを好きと言えるのは素晴らしいよな。


哲也さんは、上記のような話をさまざま、一時間以上かけて説明したそうだ。 話を聞かされた店員が、なんだかかわいそうになってきた。


「わしも石頭ではないのだ。ATに乗る人がいるのは、別に構わん。でも、わしの乗る車にとやかく言うのは断じて許さん!」


(洋介の心の声) いいえ哲也さん、十分石頭ですよ。 だいたい、MT車にしか興味がないのに、なぜAT車しかない車の説明を長々とさせたのか。 そこが謎……。


それよりも、僕にとってもっと謎なのは、なぜ車を持っていない僕をMT車に乗っていると勘違いしてるんだろう?


「私も昔、いすゞの117クーペに憧れていてね。山崎君も好きだったとは驚いたよ。 しかも、そのコラボしたコーヒーがあるとはね。」


僕の持っているインスタントコーヒーの瓶には「117」と書いてある。


(洋介の心の声) あ、これ、ブレンドナンバーなんですけど……。

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