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第68話 勧誘

 俺たちは深夜一時過ぎに解散した。今はルーナさんと二人きりで夜中の街を歩いている。


 パーティはまだ続いていたが、俺やルーナさんは十七時からずっと会場にいたから疲れも溜まってきていた。そのため騒いでいる他の冒険者たちを残して、会場を後にしたのだった。


 ちなみに女将さんは十九時くらいに先に帰った。ソフィアさんはさっきまで一緒にいたが今日はギルドホテルに泊まるらしく酒場を出たところでお別れをした。ルーナさんもギルドのホテルに泊まるのかと思ったら、普段借りている家に今日は帰るようだった。


 ギルドから出ると、いつの間にか雪が降っていた。石畳の通りや建物の屋根にはすでに雪が積もっていた。街の灯りが雪に反射してどこか幻想的に見える。


「ふう……、こんなに飲んだの久しぶりです! あー楽しかった!」

 隣を歩くルーナさんはそう口にした。笑みを浮かべているその頬は酒のためか赤くなっていて色っぽい。


 モルドで1番の冒険者であり、街のアイドルと言っても過言ではない人と二人きりで歩いていることが夢のようで、俺の心はドキドキしていた。


「普段あまり飲まないんですか? 」

「普段はあんまり。でも嬉しかったことや良いことがあった時は飲みます。アヤトさんは?」

「僕も似たような感じです」

「そうなんですね」


 俺とルーナさんは色々な話をしながら、ゆっくりと街を歩いて行った。しばらくして、会話がふと途切れた時に、ルーナさんは足を止め、声をかけてきた。

 

「あの、アヤトさん」


「はい」

 ルーナさんの声に振り返るとルーナさんは足を止めていた。


「実は大切なお話があるんです。聞いていただいても良いですか?」


「あっ、はい。大丈夫です」

 何やら思わせぶりな言葉に心臓が高鳴ってしまう。


(っていうかルーナさん可愛すぎる。これは反則だろ!)


 ルーナさんは真っ直ぐにこちらを見つめて来ていたが、そのあまりの美しさに真っ直ぐに目を見れなかった。仕方がなく俺は、おでこの少し上の辺りを見ながらそう答えた。


「えっ? どこ見てるんですか? 微妙に目が合ってないですよね? 大事な話ですからちゃんと目を合わせてください!」


 ルーナさんはそう言うと、側に近づき、俺の顔の前に自分の顔を近づけてきた。


 間近で見るルーナさんの顔の美しさを直視した俺は一歩下がり、別の方向を向いてしまった。


「す、すみません。あまり、人の目を見て話すのが昔から苦手で。特に女性の人とは」


「そうだったんですね。ごめんなさい。」

「……」

「えいっ!」

 ルーナさんはそう言いながらも再び俺の前に顔を近づけてくる。不意の出来事に俺はルーナさんをまじまじと見てしまった。そのあまりの可愛さにみるみるうちに鼓動が早くなっていくのがわかった。顔も火照ってしまう。


「あはは!! 本当に苦手なんですね! 真っ赤になっちゃいましたね。すみません」


 小悪魔のような顔で微笑むルーナさんがまた可愛くて俺は胸がドキドキしてしまう。


「だっ、大丈夫です」


「ごめんなさい。じゃあ私がいつでも練習に付き合いますからね。ちゃんと目を見て話ができるようになるまで。特訓しましょう」


 嬉しいのと情けなさが入り混じった気持ちになりながらも俺は、

「ありがとうございます」

 と答えた。


 ルーナさんの天真爛漫な性格が酒によってさらに強化されているのか、とにかく俺はドキドキさせられっぱなしだ。


「それで、話ってなんなんですか?」


 俺は、平静を装いつつ尋ねる。


「そうそう。その話なんですけど……」


「アヤトさん、私たちのパーティに入って頂けませんか?」


「へっ?」


 あまりにも突然の話に俺は変な声を出してしまった。頭の中は混乱でいっぱいだった。


「もう一度言いますね。アヤトさんに私たちのパーティに入って欲しいんです」


「ルーナさんのパーティに俺がですか?」

「そうです。私たちのパーティ【白銀の翼】へのお誘いです」


 ルーナさんは真剣な表情を浮かべている。


(なにかの冗談かな? だってルーナさんのパーティってモルド一の実力だよな。ランキングのトップ10に三人も名前があったし……。そこに、俺が? いや、それはないだろ。俺の力はまだそこまでのレベルじゃない)


「本気で言っているんですか?」


 心の中では嬉しさが爆発しそうだったが、あまりにも非現実な話につい尋ねてしまった。今ならまだ冗談でしたと言われても落ち込まずにすむ。


「本気も本気ですよ! 私たちのパーティにはアヤトさんが必要なんです。ぜひとも入ってください」


(まじか! 冗談じゃないのか? ルーナさんと同じパーティ? すげぇ。嬉しすぎる! いや、まてまて。そんなに人生うまく行くわけないよな。なにか落とし穴があるはずだ。喜ぶのは完全に幸せが確定してからだ)


 人生の中でこれほどまでに幸せになった経験があまりないため、俺はどうしても疑ってかかってしまう。悪い癖だと分かってはいてもどうしてもやめられない。


「ありがたい話ですが、ルーナさんのパーティって確かあと二人いましたよね。さっき会ったソフィアさんと……、あと、えーっと」


「エマですね。はい。私たちは三人のパーティですよ」


「その、ソフィアさんとエマさんのお二人も僕がパーティに入ることは了承しているんですか?」


「ソフィアは大賛成ですよ。さっきだって、別れ際にちゃんと誘うんだよって言われました。でも、エマにはまだ言えてないんです。帰還した後にすぐに実家に帰ってしまいましたから。」


「そうなんですか」


「でも、エマは間違いなく賛成してくれると思いますよ。エマにとってもアヤトさんは命の恩人ですし。アヤトさんの凄さは身に染みて感じていると思います」


「そうですか」

「はい。だから、アヤトさんは何も心配しないでただ私達のパーティに入ってください」


「……」


 俺はしばらく考え込んでしまった。物凄くありがたい話なのはわかっていたがすぐに決断するにはあまりにも大きな話だった。


(本当に俺なんかが入って良いものなのか? 間違いなく、ルーナさんのファン達からは反感を買うだろうな。それに、今の俺の実力はルーナさんたちに全然釣り合っていない。じいちゃんの刀を使えば役に立てるとは思うけど、あれはチートみたいな力だし、あまり頼りたくはない)


(それに女性の三人パーティだろ? ただでさえ女の人と話すのが苦手な俺なんかが入ってうまく行くのか? なんか変な空気になるに決まってるよな? やばい。怖くなってきたな。なんか迷惑をかけてしまいそうだ)


 考えている俺をルーナさんは真剣な目で見つめてくる。


「あの、ありがたい話なのですが、少し考える時間をもらっても良いですか?」


「もちろん大丈夫ですよ。大切な事ですもんね。でも、私たち【白銀の翼】はここの所三年間はずっとトップのパーティですよ。仲も良いですし。きっと後悔させないはずです!」


「あ、ありがとうございます。前向きに考えさせて頂きます」


 俺とルーナさんは再び歩き始めた。深夜2時をすぎているためか辺りには人影はない。足音と優しい風の音だけが響いている。


「あの、私たちのパーティに入るのに、なにか引っかかることでもあるんですか?」


「ないですよ。ただ、本当に僕で良いのかなって……」

「と言いますと?」


「ほら、さっきも言ったじゃないですか。俺は元々、本当に弱い人間なんですよ。人生を振り返ってみると挫折と失敗ばっかりでなにも誇れるものがありません。最近は変わろう頑張ってきましたが、正直まだ、自分にあまり自信がないんです」


 俺がそう口にするとルーナさんは立ち止まり俺の手を掴んできた。柔らかい感触に再び鼓動が早まってしまう。


「まったく! アヤトさんって損な性格してますね!! そんなんじゃ自分が苦しいだけですよ。さっきも言いましたが、もう少し自分を褒めてあげてください! さっきのパーティ会場でなにを見ていたんですか! 数えきれない人たちがアヤトさんのことを大絶賛していたじゃないですか!!」


「それは、そうでしたけど……」


(トップパーティに入るというのはまた少し話が違うよな……)


「何度も言いますがアヤトさんは素晴らしいですよ。このモルドにいる全ての人間の中でアヤトさんしか私たちを助けることはできませんでした。というか、この街のトップ冒険者である私ですら特級ダンジョンに一人では入りません」


「わかりますか? あなたはこの町で一番の英雄で最も勇気がある人間なんです!」


「昔のことなんて関係ありません。大切なのは今です。今までアヤトさんは自分を変えようと頑張ってきました。その結果、街の英雄と呼ばれるほどの実力を示したんです! 自分を卑下するのはやめて、もっと自信をもってください! 」


「ありがとうございます」

 ルーナさんの優しい励ましについまた涙が流れてしまう。ルーナさんの一言一言はいつも心に染み込んでくる。そして暖かい光になって身体を包んでくれるようでもあった。


(ほんと、この人はいつも最高の言葉で俺を励ましてくれるな。神か何かなのかな……。眩しすぎるよ……)


「アヤトさん! 難しいことは考えないで早く私たちのパーティに入ってください!  絶対に損はさせませんから!」


(一番信頼している人がここまで言ってくれているんだ。断るわけにはいかないな)

 俺は溢れ出る喜びを胸に覚悟を決めた。


「わかりました。どこまで力になれるか分かりませんが、僕もパーティに入れてもらいたいです。その……エマさんが許可してくれたらですが」


「本当ですか! やったぁーー!! ソフィアも喜びますよ!! 嬉しいーー!」


 子供みたいに無邪気に喜ぶルーナさんはどこまでも素敵だった。ルーナさんと出会えた奇跡を俺はひたすら噛み締めた。


 





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