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第66話 一言

(話すことなんて何も考えてないぞ。どうしよう……)


 前に立つと、数えきれない数の人が押し寄せていた。それを見て俺は冷や汗をかいつしまう。人前で話すのは昔から苦手だった。

 

 ギルドの職員から20センチほどの短い棒を渡されたルーナさんはその棒を口の前に持って行く。おそらく地球でいうところのマイクなのだろう。そういえば、さっきのギルマスもこの棒を使っていた。


 ルーナさんは特に緊張した様子もなく、すぐに話し始めた。


「みなさん。この度は私たち「白銀の翼」がご心配をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。また、たくさんの応援をいただいたにも関わらず、攻略に失敗してしまいました。重ねてお詫びいたします」


 ルーナさんは丁寧に頭を下げる。


「48階までは順調に進んでいたのですが、私が、転移罠を踏んでしまったせいで、仲間を危険な目に合わせてしまいました。転移先にいたモンスターは【エターナルドラゴン】。特級ダンジョン「ドラグスト」の裏ボスでした」


 「通常のボスよりも遥かに強いモンスターに、仲間は瀕死の状況に追い込まれ、私も死を覚悟していました。しかし、その時にここにいる、アヤトさんが助けに来てくれたんです。

帰還の翼を私に渡すと、アヤトさんは私が仲間を助ける時間を稼ぐため、一人で敵を引き付けてくれました。全身血だらけで、誰よりも傷ついていたのに……」


 いつしか、ルーナさんの声は少し涙声になっていた。横から顔を見ると瞳に涙を浮かべていた。


 「私は仲間たちをギルドに転送すると、なんとか、アヤトさんを連れて戻りました。もしも、アヤトさんが来てくれなかったら、間違いなく、私や仲間たちの命はありませんでした。アヤトさんは紛れもなく私たちの恩人です!」


 ルーナさんは左手で涙を拭い、さらに話を続ける。


 「あとで知ったのですが、普段使っている武器は今加護師に預けているため、武器がありませんでした。そのため、ギルドにある短刀を一つだけ買って突入してくれたんです。忠誠も得ていない、ただの短刀を持って……」


「私はこれほどまでに勇気があって、心の強さを持っている人に今まで出会ったことがありません!! アヤトさん。ありがとうございました」


 割れんばかりの拍手が会場に広がった。俺は心の底から嬉しかった。しかし、マイクが回ってくると、緊張してしまい焦ってしまう。数百人の視線が俺に集まっていた。俺の頭の中は真っ白になってしまう。


「大丈夫ですよ。アヤトさん」


 そんな俺に気づいたのか、ルーナさんが優しい声でそう囁いてくれた。俺は意を決して話し始めた。


「ルーナさんは、以前、僕の命を救ってくれました。だから、なんとしても死なせたくなかったんです。下層に向かって夢中で走っている最中、あまりの痛みに一度、諦めそうになりました。痛みや恐怖から逃げ出したくて……」


「でも、そのときに僕を助けてくれた時のルーナさんが頭に浮かんできたんです。あの時の嬉しさや、感謝の気持ちが次々に溢れてきました。その時、僕は決めたんです! 死んでもルーナさんを助けてみせるって! そこからは、恐怖はなくなりました。頭がぼーっとしていたので、記憶はあまりないのですが、なんとかルーナさんの元に辿り着くことができ、帰還の翼を渡すことができました」


 馬鹿でかい拍手や歓声が再び起こった。俺は音が鳴り止むのを待つ。


(俺が生きてられるのも、ここまで強くなれたのも、トラウマを克服できたのも、全部ルーナさんのおかげなんだよな……。ああ、本当にルーナさんには感謝してもしたりない)


(ルーナさん。この歓声も、称賛も、拍手も、本当は全てあなたのものだ)


 話している間、ルーナさんへの感謝の気持ちが次々と込み上げてきてしまう。


「今話したとおり、ルーナさんがいなければ僕もとうに死んでいました。また、ここまで成長することもできませんでした!」


 ついに涙が込み上げてきてしまった。言葉では言い表せないほどの感謝を俺はどうにか伝えようとする。


「お礼を伝えたいのは僕の方です! ルーナさん! 本当にありがとうございました!!」


 会場からは、大きな拍手が起こった。顔を挙げてみると、涙を流している人が何人もいた。

俺は少し恥ずかしくなって、ルーナさんの方を向いた。すると、ルーナさんが思い切り抱きついてきた。


「ありがとうございます」


 ルーナさんも泣いていた。


俺は精一杯の気持ちを込めて、もう一度、

「ありがとうございました」

と伝えた。


今日一番の拍手はいつまでも鳴り響いていた。


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