第65話 謝罪
酒場に入ると、中も人でいっぱいだった。100は超えるであろうテーブルに隙間なく人が座っている。
「おっ! 主役の登場だ!」
誰かが叫ぶとと大きな拍手が広がった。歩いている間もたくさんの温かい言葉がが聞こえてくる。
「ファンになりました!」
「上級ダンジョンをソロで攻略しただけあるぜ!」
「まともな武器を持たずに助けに行くとはな」
「あの決死の救出は伝説だよ!」
「アヤト、後でサインくれよ!」
俺はどこか恥ずかしい気持ちを抱えながらも、嬉しさも感じていた。
ルーナさんと一緒に1番前まで歩いて行くと、そこのテーブルには女将さんともう一人の女性が座っていた。
女将さんは俺をみるとすぐに抱きしめてくれた。目に涙を浮かべ。
「無茶しすぎだよ。でも、よくやったね」
と声をかけてくれた。心配してくれる気持ちが伝わってきて胸が熱くなった。
女将さんが俺から離れると直ぐに一人の女性が話しかけてきた。
「あなたがアヤトさんですね!! 」
「あっ、はい」
俺はこの女性のことは何回か見たことがあった。
「私は、白銀の翼に所属しているソフィア=トロニカと言います。危ないところを助けて頂いて本当にありがとうございました!!」
間近で見ると、ルーナさんに引けを取らないほど綺麗な人だった。長い金髪は少しだけウェーブがかかっている。また、柔らかく穏やかな印象を受ける垂れ目が特徴的だった。ふんわりとした優しい雰囲気を纏っていた。
超有名人のソフィアさんに話しかけられ、俺はめちゃくちゃ緊張してしまう。
「はじめまして! あの、その……、ご無事で良かったです!!」
「おまえさん、なに緊張してるんだい!!」
女将さんの一言で、周りにいた人たちは笑った。
でもソフィアさんは真剣な表情を崩さず、俺の右手を両手で掴んできた。
「映像を見ました……。本当に凄かったです!アヤトさんは紛れもなく私の恩人です。困った時は、なんでも言ってくださいね!! 絶対に力になりますから!!」
「ありがとうございます!」
ソフィアさんの目には涙が浮かんでいた。短い言葉の中でもしっかりと感謝の気持ちが伝わってきた。
(ルーナさんの親友だもんな。そりゃ良い人だよな)
わずかな時間話しただけでもソフィアさんがとても良い人だというのがわかった。
「本当はもう一人のメンバーのエマと会わせたかったんですけど、昨日のことで心配した家族に会いに行ってるので、また今度紹介しますね」
ルーナさんがそう口にしたところで酒場中の照明が消え、酒場の前方だけがライトで明るく照らされた。明かりの中にはギルドマスターを先頭に、ギルドの従業員たちが一列に並んでいる。一番後ろには、ハルさんも立っていた。
大勢いるのに酒場は静まりかえっていた。みな、ギルドマスターの声を待っているようだった。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます。本日は昨日、特級ダンジョンから生還を果たした白銀の翼の皆様。そして奇跡の救出とも言うべき偉業を成し遂げたアヤト様を祝して、盛大なパーティを準備させて頂きました。長らくお待ちいただいてる皆様には申し訳ありませんが、パーティを始める前に、お詫びしなければならないことがあります」
ギルドマスターは続ける。
「この度、私どもギルド側の浅はかな考えで、アヤト様に非常に苦しい思いをさせてしまいました。今までの記録をソロで塗り替えていくアヤト様の攻略のあまりの早さに、私を初め、ギルドの何人かも疑いの目でみてしまっておりました。しかし、先日の特級ダンジョン【ドラグスト】への救出動画を見て、私どもの目は覚めました。たった一人で特級ダンジョンの深層に辿り着き、白銀の翼の皆様を救出してくる圧倒的な実力と勇気。それも2時間53分という信じられない速さで……」
ギルドマスターをそこまで話すと、一度深く息を吸う。そして再び口を開いた。
「配信されるアヤトさんの攻略映像を見て、正直、私たちは自分たちが恥ずかしくなりました。こんなに命懸けで人を救おうとする人を疑ってしまったことに……。アヤト様、私たちギルドの対応は完全に間違っておりました。申し訳ありませんでした」
ギルドマスターの声に合わせて並んでいるギルドの従業員十数名が同時に頭を下げた。
俺はそのギルドマスターと、ギルド職員の姿を見て充分心がスッキリした。ギルドマスターの話す様子からも心がこもっているのが伝わってきた。
(じいちゃんの刀に頼りすぎちゃった俺にも原因があったな……。俺も反省しなきゃな……)
わだかまりが消えたからか、俺は素直にそう考えることができた。
ギルドマスターはなおも話を続けた。
「疑ってしまったお詫びとして、私どものホテルの一室をこれから先ずっと無償提供させて頂きます。もちろんスイートルームです。お好きな時に宿泊してください。当然ですが冒険者ライセンスの剥奪も取り消します。本当に申し訳ありませんでした」
ギルドマスターが再び頭を下げると会場には大きな拍手が広がった。やがて、拍手が収まるのを待って再びギルドマスターが口を開く。
「また、お集まりの皆様、今回は私ども、ギルドの不手際で周りの冒険者様や街のみなさんにもあらぬ疑惑を与え、混乱を招いてしまいました。重ねてお詫びします」
ギルドの従業員たちは再び丁寧に頭を下げた。
「お詫びのしるしに、今日のパーティでは皆様が飲食した分は全て、私共モルド冒険者ギルドが負担させて頂きます。どうか、楽しい夜をお過ごしください。そして、これからも冒険者ギルドをよろしくお願いいたします」
ギルドマスターの挨拶が終わると、大きな拍手と歓声が広がった。
ギルドマスターが下がった後、副ギルドマスターを名乗る男が
「ぜひ、白銀の翼のリーダーであるルーナさんと、アヤトさんから一言頂けませんか」
と口にし、会場にいた人達から大きな拍手が起こってしまった。
(勘弁してくれよ。余計なことを……)
と内心腹が立ったが、ルーナさんに
「行きましょうアヤトさん」
と笑顔で言われたため、仕方なく席を立った。




