第64話 伝説の配信
「そういえばアヤトさん。お腹空いてますか?」
「なんか、丸一日寝ていたことがわかってから急にお腹空いてきました」
「ちょうど良かったです! この後、五時から、パーティがあるんです。一緒に行きませんか?」
「パーティ? なんのパーティなんですか?」
「私たち「白銀の翼」の帰還と、アヤトさんによる奇跡的な救助を祝うパーティですよ。アヤトさんがいなきゃ始まりません! ぜひ行きましょう! 」
「えっ? 僕がですか!?」
「当たり前じゃないですか! あれだけの事をやってのけたんですから! 町中の人がここの酒場に集まりますよ」
「えっ、場所って、ギルド直営の酒場なんですか?」
「そうですよ」
ギルドと聞いて嫌な記憶を思い出してしまう。一瞬、複雑な表情を浮かべてしまう。
その様子に気付いたのか、ルーナさんが口を開く。
「大丈夫ですよ。アヤトさんへの誤解は完全に解けたと聞いています。多分、今日のパーティの中で、ギルド側から話があると思いますよ」
「そう……ですか」
「大変でしたね。私はここの所、ダンジョンにいたので、アヤトさんにかけられた疑惑について全く知らなかったんです。すみません、困っている時にお力になれなくて」
ルーナさんは心から申し訳なさそうにしている。ルーナさんの優しさが嬉しかった。
「それにしてもギルドの対応は許せませんね!証拠もないのに、アヤトさんを疑うなんて!
私は昨日、ギルドマスターに怒っちゃいましたよ! アヤトさんに冒険者ライセンスを返さないなら、私がこのギルドを出てくって!」
「ルーナさん……」
俺のために動いてくれたことを知り胸が熱くなってくる。
(どこまで良い人なんだ! この人は!)
「だから、大丈夫だと思いますよ! ギルド側の対応を待ちましょう」
「はい。本当にありがとうございます!」
「十五分前には行きましょうか。私たちの席は当然用意されていると思いますが、たぶんすごい数の人が来ますからね。」
「わかりました」
「私はちょっと用があるので一旦出かけますね。四時四十五分には戻ってくるので一緒に行きましょう」
ルーナさんはしばらくして部屋を出ていった。
パーティと聞いて、服装とかどうしようと思っていたが、部屋を出て行く前に尋ねたら、いつも通りの服装でいいと言われた。
そのため普段と同じ冒険者スタイルの服をアイテムボックスから出し、着替えを済ました。
♢ ♢ ♢ ♢
「えっ? なんですかこれ?」
俺は目の前に広がる光景に呆気に取られてしまう。
ルーナさんと一緒に階段を降りギルド受付がある1階に降りようとすると、そこはおびただしい数の人間で埋め尽くされていた。
まるで満員電車の中のように、身動き取るのも難しい状況だった。一見冒険者が多いように見えたがよく見ると市民も多いことがわかった。俺とルーナさんは階段の途中で止まった。
「いや、これは凄いですね! 私もこんなに人が集まっているのは初めて見ました! みんな配信を見てアヤトさんのファンになった人達だと思いますよ」
「配信ってなんのことですか?」
ルーナさんから信じられない言葉が飛び出し、俺は固まってしまう。
「えっ!? アヤトさん、知らなかったんですか? 誰かがダンジョンに飛び込むアヤトさんに中継トンボを纏わせたらしいですよ。それでアヤトさんの配信を多くの人が見たらしいですよ! だから、私がダンジョンから戻ってきた時にはもう凄い数の人がギルドに集まってましたよ」
(まじか……。全然気づかなかった。確かに、探知スキルを使った時に、離れた場所に何か飛んでるなとは思ったけど、まさかそれが配信トンボだったとは……)
攻略でそれどころではなかったから無視してしまっていた。
(くそっ! 結局勝手に配信されてしまったのか! あれほど拒否したのに。まじかあのギルマス!)
俺の中で再び怒りが込み上げそうになる、しかし次のルーナさんの言葉で怒りは直ぐに消えることになった。
「実は私も見たんです。あの後、何回も再配信がされてましたから。夜中に変装して周りの皆さんに混じって……」
そこまで口にすると、ルーナさんの瞳がうるうるし始めた。
「見ていて本当に感動しました。たぶん私、ずっと泣いていたと思います。アヤトさんがあまりに格好良くて……凄すぎて……。見ていて死ぬほど感動しました。だめだ、思い出しただけで我慢できなくなっちゃう」
ルーナさんの瞳からは次々に涙が溢れ始めた。ルーナさんは服から出したハンカチで顔を涙を拭いた。
「ほんと、最高でしたよ! あれを見たら誰だってアヤトさんの大ファンになっちゃいますよ!! 周りで見ていた人達は配信が終わったあと、みんな泣いてましたよ。伝説の配信だって言って!」
「あ、ありがとうございます」
ルーナさんの嬉しそうな姿を見ていたら、ギルマスへの怒りはどこかに吹っ飛んでしまった。怒りの気持ちよりも、
(また、かっこいいって言ってもらえた……)
と言う嬉しさの方がずっと上だった。
♢ ♢ ♢ ♢
「アヤトさんがいるぞ!!」
「本当だ!! すげぇ!! ルーナさんも一緒だ!」
階段から降りられずに困っていると。誰かがこちらに気づいたようだ。一人目の声で、みんながこちらに気づき、次々に声が投げかけられる。
「アヤトさん!! あんたすげぇよ!!」
「感動したよ!!」
「ファンになりました! 握手してください!
「ルーナさん! 無事で良かったよ!! おかえり!」
堰を切ったように何人もの人間が叫び始め俺は戸惑ってしまう。褒めてもらえるのは嬉しいが、みんなの興奮状態があまりに高く、パニックになってしまいそうな雰囲気があった。
困惑していると、ルーナさんが両手をパンッと鳴らした。馬鹿でかい音がフロアに広がって行き、みんなは静まり返った。
「みなさん。温かい言葉をありがとうございます! 一人一人と時間をとってお話したいのですが、もうすぐパーティが始まってしまいます。それにアヤトさんは先ほど目覚めたばかりで疲れが残っています。どうか本日はご勘弁ください」
ルーナさんの一言で群衆は落ち着きを取り戻した。そして、なんとか俺たちが通れるように道をあけてくれ、ギルド酒場に入ることができた。




