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第63話 幸せな時間

 感情が落ち着いてくると、顔に当たる柔らかいものが気になってきてしまう。


「ありがとうございます! もう大丈夫です!」

 本当はずっとこうしていたかったが、それもどうかと思いそう口にした。


「落ち着きましたか?」

 ルーナさんはその大きな瞳で俺を心配そうに見てくる。


「ありがとうございます。もう大丈夫です」


 俺の顔を見るとルーナさんは優しく微笑んだ。


「あっ! 喉乾いてないですか? 今、紅茶を入れますね」

「ありがとうございます」


(またみっともないとこ見せちゃったな……)


 部屋を出て行くルーナさんの後ろ姿を見ながらそんなことを考えてしまう。


 でもそんな思いよりも、ルーナさんを救い出せたことや、抱きしめてもらえたことの方が遥かに嬉しくて、俺の心は喜びでいっぱいだった。


 しばらくするとルーナさんが紅茶を運んできてくれた。先ほどの水色の寝巻きとは異なり、普段よく見る服装をしていた。もう少し寝巻き姿を見ていたかったがいつもの服装もやはり魅力的だった。


「お待たせしました」

 ルーナさんはベッドから少し離れた所にある木のテーブルに紅茶を置いてくれた。


 俺がベッドから出ると、自分の服が変わっていることに気がついた。


「あれ? この服って……」


 上も下も白いスウェットのような服を着ていた。血だらけでボロボロの服を着ていたはずだったが。


「ごめんなさい。あまりにボロボロだったので、着替えさせてしまいました。あっ、安心してくださいね。服を着替えさせたのはギルドに併設された治療所の治癒師の皆さんが変えてくれたので、私は何もしていませんよ」


 ルーナさんは珍しく少し焦ったように表情をしていた。そんな顔もとても可愛らしかった。


「ありがとうございます。体も治癒師の方が拭いてくださったんですか? 僕、血まみれでしたよね?」


「いえ、それはソフィアがやりました。ソフィアは【浄化スキル】を持っているので」


「浄化スキルってそんなこともできるんですね!」

「戦闘には使えませんが便利なスキルですよね。ソフィアがパーティにいてくれて助かってますよ」


「ソフィアさんにもお世話になってしまったみたいですね」

「とんでもありません! 世話になったのは私達のほうです。ソフィアもアヤトさんにお礼をしたがってましたよ」


(良かった。ルーナさんを助けられたのはもちろんだけど、ルーナさんの大切な仲間も助けることができて……。あそこで諦めないで本当に良かったな)


 目が覚めた時はあまり意識していなかったが、ルーナさんと話しているうちに少しずつ、全員が無事に帰ってくることが出来たことが実感できた。


「チュンチュン」


 という鳥の鳴き声が外から聞こえてきて俺は窓を見る、ここからは夕焼けに染まる空しか見えない。


「ルーナさん、そういえばここってどこなんですか? 治療室じゃないですよね? こんなに広い部屋……」


 俺は辺りを見渡す。ここは寝室なのだろうが、かなり広い。窓にかかっているカーテンや壁にかけられている絵画、そしてベッドや今座っている椅子など、どれも高価な物に見える。


「ここは、ギルドホテルの私の部屋ですよ」


「えっ? ルーナさんの部屋?」

「はい」


「えっ! すみませんでした。そうとは知らずベッドをお借りしてしまって!」


(まじか! ルーナさんの部屋だったのか!ってことはさっき寝ていたベッドはルーナさんの?)


 俺は衝撃の事実を知り焦ってしまう。


「良いんですよ」


「ちなみに今って何時ですか? 」

「今ですか? えーっと、今は午後四時です」


(えーっと、俺がダンジョンに飛び込んだのが確か午後1時ぐらいだから……あれ?)


 考えてみると、どうしても時間の計算が合わなかった。俺が40階に到着した時が確か午後三時半だった。


「あの、すみません。僕ってどれぐらい寝ていたんですか?」


「丸一日寝ていましたよ」

「えっ!? それじゃあ?」

「昨日の今ぐらいの時間ですね。アヤトさんが私たちを助けてくれたのは」

「ってことは、僕は丸一日、ルーナさんにお世話になってたってことですよね! すみませんでした!」


 俺は深く頭を下げる。


「謝らないでください。実は、エリクサーで回復したあと、眠ったアヤトさんを治癒師達が治療室に運ぼうとしたんですが。私が無理言ってこの部屋に運んだんです」


「えっ? ルーナさんが運んでくれたんですか? すみません! でも、どうして、医務室じゃなくてルーナさんの部屋に?」


 俺は素朴な疑問を口にした。するとルーナさんは急に顔を赤らめ、少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「すみません。勝手なことをして。でも、アヤトさんは私達のためにぼろぼろになりながら助けに来てくれたので。私の手でお世話したかったんです。傷ついているアヤトさんを見ていたので、いてもたってもいられなくなってしまって……」


 ルーナさんは恥ずかしそうにしている。


「それに、目を覚ましたアヤトさんとすぐ話したかったですし……。あっ! お世話したと言っても、へっ、変なことは一切してないですよ! 少し額をタオルで冷やしたり、いつ起きるかと隣で見ていただけです!」



(まじか! この人ほんとに可愛いな! しかも、直ぐ話したかったって言ってくれたし。っていうか恥ずかしがっているルーナさんは反則だろ! ミサイル並みの威力があるぞ! あと、変なことってなんのことだ? なんか気になるな……)


 俺はルーナさんの可愛さに脳がやられ、にやにやしてしまいそうになる。だが、顔だけはなんとか通常状態を保った。


「ありがとうございます。ルーナさんにそう言ってもらえて僕は死ぬほど嬉しいです!」


 大ファンであるルーナさんにここまでしてもらえたかと思うと幸せな気持ちだった。


「私は、あれだけのことをアヤトさんにしてもらったので、できることはなんでもしたかったんです」


 ルーナさんの誠実な思いが伝わってきて俺はジーンとしてしまう。


(ああ、やっぱりルーナさんは素晴らしい人だな。助けてもらった日からずっと分かっていたけど。確かに今回俺は頑張ったけどさ……)


(そりゃあれだけの絶大な人気を誇るわけだよ。女神かと思うほど美しいのに、この街トップの冒険者で、性格まで良いんだから……)


 一番の憧れの人が俺の思っていた通りの人で、なぜか俺は誇らしくなってしまった。


(やっぱりルーナさんは最高だ! これからも一ファンとして、ずっとルーナさんを応援していこう!! )


 俺は強い決意を固めた。



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