第60話 最後の力
突然現れた男の人は、右肘から先が無かった。傷口に巻いてある布からは血が滴っている。それに加え左耳も見当たらない。ボロボロの左手には短刀を握っていた。
全身血まみれでで、上から下まで全ての服や防具が真っ赤に染まっていた。私はそのあまりに悲惨な姿に言葉を失ってしまう。
ふと、エターナルドラゴンを見るとなぜか攻撃を止めており、様子を見ているようだった。
「ルーナさん」
名前を呼ばれ、私の心は大きく震えた。
(間違いない。アヤトさんだ!)
血だらけで表情はよくわからないが声で確信した。彼の姿を見て私の胸は未だかつてないほど鼓動を速めていく。
(そんな。どうして……アヤトさんが……)
(助けに来てくれたの?)
(ここまで一人で?)
(いや、一人で来れるわけがない。そんなこと私にもできない)
(怪我が酷すぎる。早く助けなきゃ)
色々な疑問で頭がいっぱいになり思考が追いつかない。
そんな私に、アヤトさんは足を引き摺るようにして近づいて来た。間近で見ると、全身がズタボロで目も当てられない。なんで生きていられるのかと思うほどだった。
しかし、アヤトさんの眼だけはあの日と同じように真剣で力強かった。
「ル、ルーナさん。これを……」
差し出してきたのは三枚の帰還の翼。
私が受け取ると、アヤトさんが口を開いた。
「ぼ、僕があいつを引きつけます。早くそれで仲間と一緒に帰還してください」
「アヤトさんは?」
「僕はここにもう一枚持ってます。ルーナさんたちが消えたら僕も行きます」
アヤトさんは懐をポンと叩いた。
「でも……」
私が躊躇っていると彼は叫んだ。
「あいつが動きます! はやく!」
アヤトさんに言われるがまま、私はエマとソフィアが倒れている岩の裏まで走った。
二人が生きているかどうかはわからなかった。何時間も敵を自分に引きつけていため近づくことすらできなかった。
(神様! どうか……)
私は祈るような気持ちで岩の裏に回った。
二人に駆け寄るとすぐに声をかけ、呼吸を確認する。
二人とも反応はなかったが、胸がわずかに上下に動いていた。
「良かった!!」
私はアヤトさんからもらった帰還の翼を二人の上で振った。すると羽から金色の粉が落ち、それが二人にかかると二人の姿は瞬時に消えた。
私が岩陰から出ると、エターナルドラゴンの口には今までにないほど大きな光のエネルギーが集まっていて私の方に向かって放出されそうになっていた。
「しまった!」
近くにはアヤトさんが血だらけで倒れているのが見えた。ボロボロの身体であのモンスターに挑み、私たちを助けるためのほんの僅かな時間を作ってくれたことがわかり、胸が熱くなる。
しかし、何時間も戦ってきたから理解してしまった。あのモーションに入ってしまったらあと0.1秒後にはフレアを撃って来てしまう。
一瞬の出来事に、私は一歩も動けなかった。
しかし、私が避けるのを諦めて呆然と立ち尽くしていると、フレアが放たれる直前、倒れていたはずのアヤトさんの姿が消えた。
そして、次の瞬間にはエターナルドラゴンの頭に飛びかかり左眼を短刀で突き刺していた。
「ギャオオォォーー」
エターナルドラゴンは耳をつんざくような叫び声をあげながら尻尾を振り回す。
振り回した尻尾でアヤトさんは飛ばされ壁にぶつかると動かなくなった。私は直ぐにアヤトさんの元に向かって走る。
エターナルドラゴンは頭を振り回しながら暴れていた。そして、先ほど集めた莫大なエネルギーが篭ったフレアを上に向かって放出した。
フロア全体が白い光に包まれるほどのエネルギーの塊は天井に当たると爆発した。
それにより崩れた天井の岩が次々に落ちてきて地面を揺らす。
なんとかアヤトさんの元にたどり着いた私は、すぐに彼を抱きかかえ、落ちてくる岩を避け続けた。
岩が落ちてこなくなった。あたりには砂埃が舞い上がっていて何も見えない。
私は、地面に降ろしたアヤトさんの懐に手を入れると急いで帰還の翼を取り出した。
「えっ?」
(なんでこんなボロボロなの!)
その帰還の翼は嘘みたいにぐしゃぐしゃで、しかも血で汚れていた。こんな状態で使用できるのか不安だ。
しかし考えている時間はなかった。再び後ろの方で叫び声が上がり、光が一箇所に集まり始めた。おそらく向こうは私達をすでに補足しているのだろう。
(もしダメだったら私が残ろう)
私はボロボロの帰還の翼をアヤトさんの上で使った。すると、いつもより少ないが、金色の粉が舞い落ち、アヤトさんの身体の上に降りかかっていった。
「おねがい!」
何も変化が起きなかったため、一瞬諦めかけたが、やがてアヤトさんの身体は輝きだし、次の瞬間には見えなくなった。
アヤトさんが消えるのを確認すると、私も翼を使った。




