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第59話 限界

 私はずっと最強だった。十八歳でモルドの街に来てから、二年で冒険者ランキング一位まで駆け上がった。初めて一位になったときは幼少期からの努力が実を結び、嬉しかったのを覚えている。それから一年間、一度も一位から落ちたことはない。


 小さい頃から負けず嫌いだった。相手が大人でも負けたら悔しくて涙が止まらなかった。でもその性格があったからか、私はここまで強くなることができた。

 

 特級ダンジョン「ドラグスト」の裏ボス「エターナルドラゴン」と長時間渡り合えるほどに。


 私の目の前には、大きな闘技場のように丸く広いフロアが広がっている。天井は良く見えない程高い。私の前で巨大な羽を羽ばたかせ、巨大な竜が空中に浮いている。全身を真っ白い鱗に包まれているが、攻撃をするときは虹色の光が体を包み込む。もしも、敵でなかったとしたら、いつまでも見ていたくなるほど美しいドラゴンだった。


 ここに転移したころは傷一つない美しい闘技場が広がっていたが、長きにわたる戦闘で、壁や地面は崩壊し大小さまざまな岩が転がっている。


 渡り合えると言っても戦えているわけじゃない。冒険者ランキング一位の私でも、ソロでこんな化け物を相手にできるわけがなかった。


 私たちがここに転移されて戸惑っているときに奴が繰り出した広範囲への光線で、ソフィアとエマは戦闘不能になってしまった。私が懐にしまっていたアイテムボックスも、二人が持っていた物も最初の攻撃で破壊されてしまった。


 一瞬の隙をついて二人を岩場の陰に寝かした私は、二人の方に攻撃が向かわないように、ドラゴンの注意を私に向かせ続けた。エマとソフィアがいる方に絶対に行かせないように、私だけを攻撃してくるように、攻撃を加えては回避する動きをひたすら繰り返してきた。


 しかし、終わりの見えない強敵との戦闘で私の体力はすでに限界を迎えていた。


 スキルの過剰使用による副作用の頭痛、そして手足のしびれ、私の身体はだんだんと言うことを聞かなくなってきている。


「もう無理だ」


 私は、何回目ともわからない言葉を吐く。しかし、すぐに自分に喝を入れる。


「いや、私が倒れたらエマとソフィアも殺されてしまう。耐えなきゃ!! 死んでも二人を守って見せる」


 その後も限界を超えて戦い続けた。


(あと少し、あと少し耐えたら誰かが助けに来てくれる)


 そんな小さな希望にすがり、必死で戦ってきたが、エターナルドラゴンの高速の突進をかわした時に、ドラゴンの翼が私の右腕にぶつかった。


「ベキッ」

 鈍い音と共に右手首の骨が折れ、激しい痛みが脳に伝わってくる。握っていたレイピアが地面に音を立てて落ちるが、私はすぐに左手でそれを拾いあげる。

 

 エターナルドラゴンは、その勢いのまま、ダンジョンの壁に突っ込んでいたが、すぐに体勢を立て直すとこちらを向き、大きな雄たけびを上げた。


(最悪だ……)

 

  左手ではレイピアを自由に操ることはできない。これでは、もうまともに戦うことができない。


「もうだめだ」


 私の心に絶望が一気に広がっていき、堪えてきた涙が堰をきったように流れてきてしまう。


 エターナルドラゴンは口元にエネルギーの光を充填し始めた。また、強力なフレアが来る。

 私は、崩れ落ちて膝をついてしまう。もう心も体も限界だった。数秒後に放たれる攻撃を避ける気力もなかった。


 本当は初めからわかっていた。短時間でこんな場所にたどり着ける人などいないことは……。


 全員、特級冒険者のパーティである自分たちだって9日間かけてやっと地下48階までたどり着いたのだ。私たち以外のパーティが、短時間でここまでたどり着ける可能性なんて初めからなかった。


 でも、死ぬのが嫌で……。

仲間を失う現実を見つめたくなくて……。

ここまで必死で考えないようにしていた。


「ごめん。エマ、ソフィア。助けてあげられなくて」

 涙が溢れてきて止まらない。自分が死ぬことよりも大切な親友を失うことの方が耐えられなった。エターナルドラゴンの口にたまったエネルギーはどんどん大きくなっていく。


 その中で、私の頭の中に突然、1人の男の人が浮かび上がった。


 それは以前、困っていた時に助けた人。大雪の晩に誰もいない路地で一人で寒さに震えていた人。


「たしかアヤトさんって言ったっけ」


 私は、不思議とその人の顔を思い出す。あの人は少し前に、貸したお金を返してくれた。


 前に私が助けた時とは比べ物にならない程逞しく、かっこよくなっていて驚いたのを覚えている。


 あの人はその時、言っていた。


「困ったことがあったら、僕が必ず助けます」と。


(私のことを助けると言ったのはあの人が初めてだった。私はいつも強かったから、いつも助ける側だった。でも、あの人だけは真っ直ぐに私を見て、どんな事があっても助けるって……)


 あの時は驚いてしまったけれど、もし本当に助けてくれるのであれば、いま助けてほしい。


私は祈るような気持ちで、


「たすけて」


とつぶやいた。


 すると、次の瞬間、私の前方五メートルほどの位置が突然輝き始めた。激しい光が消え、一人の人間が現れた。



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