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第58話 覚悟 


「はぁ……はぁ……。これはありがたいな……」


 走る俺の前にはモンスターを象る形で光の粒が輝いていた。俺はその光の粒の横を次々にすり抜けていく。


 俺は全力で走っていた。先ほどの階段から、4フロアは降りたから今はおそらく地下46階だろう。モンスターの気配を先読みしては最短ルートで特級ダンジョンを攻略して行った。


 ありがたいことに、今走っているこの階からは、光り輝くモンスターの残滓が残っていた。ルーナさんたちが攻略したルートを最短で進んで行くことができる。たった一人だったダンジョン攻略だが、今はルーナさん達の息吹が感じられ、進むごとに勇気が湧いてきていた。


(ルーナさん。すぐに行きます。なんとか、生きていてください!)


 「死んでも助ける」という絶対の覚悟が決まったからか、不思議と身体がさっきよりも軽くなった。


 身体はボロボロのはずだが、痛みもましになっていた。おそらく極度の興奮状態にあるため、痛覚が麻痺しているのだろう。


 それでも、また時間が経てばあの耐え難い痛みが襲ってくるのはわかっていた。


でも、


(逃げないぞ! もう俺は逃げない! 何度だってあの痛みに耐えてやる! ルーナさんを助けるまでは!)


 俺は絶対の覚悟を決めていた。一人で帰還する気なんてない。たとえ自分が死んでもルーナさんたちを救うつもりだ。


 走る速度をさらにあげていく。探知スキルによる副作用の頭痛も今は弱まっていた。


(もうすぐ死ぬのかもな……)

そんなことを考えてしまうほど不思議と身体が軽い。


 俺は次々にフロアを突き進んでいく。しかし、階段まであと少しというところで俺はやつを見つけてしまった。最悪のモンスターを。


 キラータイガーは細い通路のど真ん中に佇んでいた。やつも匂いか何かで俺に気づいていたのかも知れない。視認できる距離まで近づいた時にはもうすでに涎を大量に垂らし、あの残忍な笑みを浮かべていた。


 モンスターは階を跨いで移動することはできないから、さっきの奴とは別個体なのは間違いないが性格は同じのようだ。


 俺は、十メートルほどの距離をとって走るのを止めた。


(でやがったな。クソ猫。)


 47階に続く階段はこの通路を抜けた五十メートルほど先にある。今の俺の速さだと、奴の横をすり抜けても間違いないなく追いつかれてしまう。


「戦うしかない」


 俺は、短刀を懐から取り出した。


 俺とキラータイガーは八メートルほどの距離を挟んで向き合っている。奴を見ると先ほどの恐怖がまた込み上げそうになるが、俺はその感情を無理やり封じ込める。


「ふうっ」


そして小さく息を吐くと瞳を閉じた。


(前に進むと決めた時からずっと考え続けてきた。お前を倒すための方法を……)


「倒さないと前に進めないのなら。倒してやる! 今度こそ!」


 俺は姿勢を低くすると、顔の前で短刀を構える。敵の動きに全神経を集中させた。初撃を外したら間違いなく瞬殺されるほどの力の差があることはすでに分かっていた。しかし、絶対に死ぬわけにはいかないという覚悟が、より神経を研ぎ澄ませる。


 つぎの瞬間、キラータイガーは駆けだした。真っすぐ突っ込んでくると思いきや、左側の外壁を蹴り、天井を蹴とばし、斜め上からこちらに飛び掛かってきた。


 想像していなかった動きではあるが、俺はその動きの全てを予測していた。俺は、ほとんどの生物が持っている弱点に向かって最速で小刀を突き出した。


 突っ込んでくるキラータイガーの牙と爪はなんとか回避する。しかし、胴体の突進をまともに受け三メートルほど吹っ飛ばされた。

 

 しかし着地の際に受け身を取ったため衝撃は少なかった。体に着いた砂を払いながら起き上がる。視線の先では、右目を短刀で貫かれ叫び声を上げながら悶えている奴の姿があった。


「はあ……はあ……何とか成功した」


 絶空--師匠が短い修行期間の中で一つだけ教えてくれた技だ。


 相手の動きを先読みし、敵の弱点に向かって刀を突き立てる。相手の動きを完全に見切る力と、相手の弱点を正確に突く、技量が必要な難しい技だ。俺が持っているスキル【探知】で動きを捕捉し、【先読】で未来予測をする。そして【俊敏】で速度を上げ、敵の弱点に向かって刃物を突き入れる。


 全てのスキルを併用したカウンター技だった。


「悪いな。手段を選んでいられないんだ。帰るのはやめにしたんでな」


 俺は、足をバタバタさせて悶えているキラータイガーの右眼から短刀を引き抜くと、今度は左眼に突き刺した。脳まで届くように奥深くまで。


「ギャオオォおおおおおおおおおおおおおおお」


 キラータイガーはものすごい雄たけびを上げると、やがて動かなくなり、美しい光の粒になって消滅した。

 後には、五十センチを超える鋭い牙だけが残った。


 俺は、その牙を素早くアイテムボックスに入れようとした。


「あぁぁぁああぁぁぁーーー」


 その瞬間、耐え難い痛みが押し寄せてきて俺は叫んでしまう。限界を超えてスキルを使ったため、頭が割れるように痛い。あまりの痛みに倒れこみたくなるが、俺はなんとか堪える。


「はぁ……はぁ……。前に、前に進むんだ!!この先にルーナさんがいるんだ! 行くぞ!」


 俺は、鉛のように重たい身体にムチを打ち、再び走り始めた。



 

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