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第53話 別の世界の人間

 俺と女将さんがギルドに到着すると、まだ配信の十五分前だと言うのに大量の人間が押し寄せていた。ギルドのロビーには人がまるで祭りのようにごった返していた。


 何人かの冒険者が俺に気付いたようで、何かを仲間と話す姿も見られたが、あまり数は多くなかった。ほとんどの人間はルーナさんたちの攻略を見るために集まっているのだろう。


 俺は、自分に向けられている目が少ないことがわかり、少し心が軽くなった。

 女将さんに連れられて人ごみの中、一番大きい配信ホールまで歩いていく。


 階段状になっている巨大なホールはすでに人でいっぱいだったが、最後方の端っこになんとか座れる場所を見つけ、俺と女将さんを腰を掛けた。


「いやー危なかったね」

「はい。まさかここまで人が多いとは思いませんでした」

「まぁ、特級ダンジョンに挑むパーティが出るのは十数年ぶりだからね。みんな注目しているのさ。確か、あんたの師匠が攻略したのが最後だよ」


「師匠が?」

「ああ、【紅蓮の一団】っていうパーティで、かなりの実力だったよ。たしか特級ダンジョンを攻略し、すぐに王都に行ってしまったがね」


(まじか、師匠、特級ダンジョンを攻略していたのか。まぁでも考えてみたら確かに実力は半端ないしな。あの師匠に修行をつけてもらったのは幸運だったな)


 そんなことを考えながら、配信を待っていると、ホールの明かりが消えて、暗くなった。そして、配信が始まった。


 画面にはルーナさんと、ルーナさんの仲間なのだろう。二人の美しい女性が写り、こちらに向かって手を振っている。


「みなさん。今日も見に来ていただいてありがとうございます。これから、45階の攻略を始めていきます。応援よろしくお願いします」


 ルーナさんがそう口にすると、三人は深々と頭を下げた。そして、武器を手にしながら、ダンジョンの攻略を始めていった。


 ルーナさんたちの攻略は圧倒的だった。今の俺よりも遥かに強いモンスターを次々に倒していった。ワニ型モンスターや一つ目の巨大な猿、両翼が刃物のように鋭い蝙蝠など、明らかに強敵であるモンスターが次々に消滅していく。


 その度におそらく数千人は集まっているホールは雷鳴のような歓声が上がった。

 ルーナさんの仲間の二人の動きも実に素晴らしかったが、やはりこの街のトップ冒険者であるルーナさんの動きは卓越していた。


 俺だったら絶対に避けられないような敵の攻撃をいとも簡単に避け、次の瞬間にはモンスターの急所を持っている刀で一突きにしてしまう。蝶のように華麗な動きといとも簡単そうに敵を倒していく姿に俺は完全に見とれていた。


(これが、モルド一の冒険者の強さか。まじで半端ないな……。この前の配信はまだ全然本気じゃなかったんだ。凄すぎる!!)


 ルーナさんの動きは、一か月前に見た時とは比べ物にならない程の速さだった。おそらく前回はスキルを使っていなかったのだろう。また、ルーナさんが持つレイピアは風属性の攻撃を放つことができるようで、離れている敵も風の攻撃で次々に切り裂いていった。


(すごいな。本当に。自分が強くなったからこそルーナさんの凄さがよりリアルに感じられる。今の俺よりもおそらく十レベル以上、上なんだろうな……)


 しばらくして、ルーナさんたちは一体の巨人型モンスターを攻略したところで、今日の配信は終了となった。ルーナさんたちが始まるときと同じように丁寧にお辞儀をすると、今日の配信は終わりとなった。


 時計を見ると、いつの間にか十二時を指していた。

 ルーナさんの動きに見とれていてあっという間に時間が経ってしまったようだ。

 

 一時間の配信中、観客たちは大盛り上がりだった。その姿を見ていて改めてルーナさんの凄さを思い知ることになった。


(やっぱりルーナさんは半端ないな。あんなに強いのに俺なんかにも優しいし。ほんとに天使か何かなのか)


 ルーナさんの活躍する姿を見て、俺はとても幸せだったが、それと同時に俺の心は痛みも感じていた。

 

(俺は幸運にもルーナさんに助けてもらうことができた。この前話すことができて、俺の努力を認めてもらえた。お世辞でもかっこいいって言ってもらえた。俺の人生の中でルーナさんは間違いなく一番の恩人で、特別な存在だ。でも、ルーナさんはこの街の皆のアイドルでみんなの憧れの存在だ。ちょっと頑張ってみただけの俺なんかが、張り合える人ではなかった。何をうぬぼれていたんだ。)


 俺はあまりのルーナさんの人気と格上の実力に、ルーナさんが遠い存在の人間なのだと理解してしまった。自分とは住む世界が違う人間なのだと。


 これまで死ぬ気で頑張ってきて、自分も成長してきたが、それでもまだまだ埋めがたい圧倒的な差があることがわかってしまった。


 (ルーナさんは、俺がいくら手を伸ばしても絶対に手が届かない、まるで夜空で輝く星のような存在なんだ。これから先も大勢の人に愛され、多くの人を幸せにしていく、光の道を歩んでいく人間なんだ。俺みたいな挫折や失敗、逃避ばかりの人生を歩んできた人間が近づける人じゃなかったな。住む世界が違い過ぎる……)


 (助けてもらえただけ幸せだったんだ俺は……。もうルーナさんに執着しすぎるのはやめよう……。なにが助けてみせるだよ。いい歳してキモイよな。俺……。9歳も年下の女の子に……。いまだに過去のトラウマにやられて苦しんでいるくせに……)


(ルーナさんに恩返しするのなんて一生かかっても無理かもしれない……)


 自分の存在の小ささを認識し、俺はナイーブになってしまった。ルーナさんを見て、こういう気持ちになるのは初めてだった。


「どうだった?」

 配信が終わりと、周りの観客が次々に配信ホールを後にする中で女将さんが声をかけてきた。


「来てよかったです。ルーナさんの圧倒的な凄さがわかりましたから……」

 心に生まれてしまったネガティブな感情を隠すように笑みを浮かべ俺は答える。


「それは良かったよ。私は帰るけど、アヤトはどうする。もう少ししたら、今日までのダンジョン攻略の様子が再配信されるけど」

「そうなんですか。うーーん。じゃあ、僕はもう少し見ていきます」

「わかった。今日もおいしい夕飯作っておくから楽しみにしてなよ」

「ありがとうございます」


 そう言うと女将さんは帰っていった。俺は、しばらくして再配信されたルーナさんたちの映像を見始めた。




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