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第50話 気分転換

 俺はその日から三日間、部屋に引きこもり休養を取ったが、一向に体調は回復しなかった。夜寝ると毎晩嫌な記憶を思い出してしまい、その度に陰鬱な精神状態になってしまう。


 軽い吐き気と、頭痛も続いていた。日中、何かをしようとしてもなにもやる気が起こらず、師匠から言いつけられていた朝のトレーニングもずっとできていなかった。


 壁に掛けられている時計を見るともう昼の12時を過ぎていた。水でももらおうと下へ降りていくと椅子に座っている女将さんと目が合った。


「おや、今日も顔色が良くないねぇ。まだよくならないのかい?」

「はい」


「そうか。なかなか良くならないねぇ。そうだ、しばらく家にこもっていて良くならなかったんだから、たまには外を散歩でもしてきたらどうだい? 案外気分がすっきりするかもしれないよ」


「散歩ですか……」

「ああ、ずっと同じ部屋や建物の中にいたら逆に病気になっちまうよ。外に出て新鮮な空気でも吸っておいでよ」


(たしかにずっと宿の中にいたな……。あまり外には出たくないが、出てみるか。ギルドがある中心街ではなく人通りの少ない街のはずれを歩いてみるか……)


「わかりました。そうですね。ちょっと街をふらふらしてきます」


 俺は、そのまま宿を出ていこうとしたが、後ろから女将さんに呼び止められた。


「お待ち! せっかく外に行くんだからその伸びた無精ひげは剃って行きなよ。その方が気分も晴れると思うよ」


「それもそうですね。わかりました」


 俺は二階に戻って髭を剃り、着替えを済ますと宿から出た。


 外に出ると眩しい光が降り注いできて、思わず眼を細めてしまう。空には爽やかな青空が広がっていた。


「久しぶりに外に出たな。なんだか新鮮だ」


 今朝の夢も最悪で、ずいぶん苦しめられた。

気分は優れなかったが、雲一つなくか晴れ渡る青空を見て少しだけ気分がすっきりしたように感じた。


「よし、少し歩いてみるか」


 俺は、あてもなくモルドの街を歩き始めた。


 モルドの街は、前にテレビで見たヨーロッパの街とよく雰囲気が似ている。石畳が敷かれている通りの左右に、おそらく三階建ての建物が建ち並んでいる。建物は白やクリーム色の外壁が多いが、屋根の色は赤で統一されている。2階や3階の窓には鉢に植えられた花が飾ってあることが多かった。


 街は、お昼過ぎの時間でも活気があり、歩いていると様々な人を見ることができた。


 おもちゃの刀を使って遊んでいる二人の男の子や、パンや野菜がはみ出している紙袋を腕に抱えている女性、立ち話をしている冒険者と思われる三人組の男たち。


 忙しさのあまり、意識していなかったが、目の前には確かに異世界が広がっていた。


(思えばこうしてゆっくりと街を散策したことなかったな)


 日本に暮らしていた時も海外旅行は一度もしたことがなかった。今目の前に広がっている景色はどれも目新しく新鮮だった。


 俺は足取り軽く散歩を続けた。


 しばらく頭を空っぽにしてぼーっと歩いていたら二か月前、じいちゃんからもらった刀を調べてもらった武器屋が見えてきた。いつの間にか、西地区の端の方まで来てしまったみたいだ。


 店の看板を見て、あることを思い出し、店内に入った。すると、店の店主であるコルドさんが店の左の壁に掛けられている大剣を布で拭いていたため、後ろから声をかけた。


「コルドさん、お久しぶりです」


「はて、以前どこかでお前さんと会ったかな?」


 コルドさんは振り向いて俺の顔をまじまじと見たが、俺だとわからなかったのかぽかんとした顔をしてつぶやいた。



(まあ、三か月で、二十キロも瘦せたんだから気付かないのも無理ないよな)


 俺は内心苦笑しながらも、


「前に、三本の刀を見てもらったアヤトですよ。わからないですよね。痩せたんです」


「おおーーーーー!! アヤトか! すまん! 全く分からなかった!!」


「はは」


 驚くコルドさんの様子がおかしく俺は小さく笑ってしまう。


「見違えたぞ! ずいぶん精悍な顔立ちになったじゃないか。お前さんが尋ねてきたのはたしか三か月ぐらい前じゃったな。たった三か月でここまで人間が変わるんじゃな」


 コルドさんは興奮した様子で俺の身体を見回している。


「三か月、地獄みたいな修行を頑張りましたからね。ここのところ休んでいたので少しまた太ってしまったんですけど」


 昨日宿の部屋で計ったら、冒険者の活動をストップしてから五日間で2キロも太ってしまっていた。師匠にバレたら激怒されること間違いなしだ。


「いやいや! よく頑張ったな! かなりの努力を重ねたのじゃな。立派だよ!」


「ありがとうございます」


 以前の俺を知っている人は少ないため、劇的に痩せたとはいえ、褒めてもらう機会はあまり多くなかった。コルドさんに認めてもらえて、俺は嬉しい気持ちになった。


「それで、今日はどのような要件かな?」


「ダンジョン探索で武器をいくつか拾ったので、持ってきました。前に言ってましたよね。武器を拾ったら買い取りたいって」


「おお、武器を持ってきてくれたのか。悪いな。それじゃあ、鑑定するから、奥のカウンターの上に置いて行ってくれ」


「はい」


 俺とコルドさんは店の奥に移動した。俺は、アイテムボックスから、今までに拾った武器を次々に出していった。


ナイフ 七本  

片手剣 三本  

大剣 四本   

ハンマー 三本  

弓 六丁    

槍 二本    

斧 一本    


 カウンターの上には全て合わせて二十六個の武器があった。初級ダンジョン一つ、中級ダンジョン五つ、上級ダンジョン一つを隅々まで探索し攻略していたため、並べてみたらかなりの数があった。カウンターの上に乗りきらないものは作業机の上に置かれている。


 ほとんどは中級ダンジョンで手に入れたものであったが、何本かは上級ダンジョンで手に入れたものもあった。もちろん、入手した時点で、武器が俺に適合するかどうかは確かめてある。二十六個あってもどれも俺には適合しない武器であった。


「おおーすごい数じゃな。助かるよ。ではさっそく鑑定していくから。お前さんは少しあの椅子に座って待っていてくれ」


 コルドさんが指さした先には、小さな四角いテーブルと、椅子が一つ置かれていた。俺が言われた通り椅子に座るとコルドさんは

「おおーーーこれはなかなか」

「これもいい品じゃ」

「これは珍しい」

などの声を上げながら楽しそうに鑑定をしていった。


俺はその様子をぼーっと見つめていた。



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