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第45話 晴れやかな気持ち

 身体が回復すると四人の男たちは立ち上がり、俺の側に近づき、興奮した様子で声を駆けてきた。


「ありがとう!! あんたのお陰で命拾いした!! 本当にありがとう」

「君、名前は何と言うんだ?」

「ああ、名前を教えてくれ! 君は命の恩人だ! 是非、お礼をさせてくれ」

「俺らは、【美食のレガーロ】というんだ! 」

「お前さんの名前は?」

「……」


 宿の店主に尋ねられても俺は黙っていた。名前を言うべきかどうか迷っていたからだ。四人の男達の顔を見ていると、あの日の苦しみをどうしても思い出してしまう。


(命を助けることができたんだ。ルーナさんとの約束は果たした。もう十分だ。このまま立ち去ろう……)

 

 俺は、ぎゅっと拳を握りしめると、その場から立ち去ろうとした。しかし、その瞬間、宿の主人の男が、いきなり目を見開いて驚いたように声を発した。


「お前、お前さんは……、も、もしかして、前に俺の宿に尋ねてきた男か?」

「えっ?」

 周りの男たちも気づいたのか、驚愕の表情を浮かべている。

「あの、雪の晩に……」

宿の主人が俺を見てもう一度つぶやく。


「……はい」


 俺は立ち去るのを諦め、小さな声で答えた。思い出したくもない程苦しい思い出だった。四人は、俺の声を聞くとなんとも言えない表情を浮かべた。


「お前、助けてくれたのか……、あの日、お前を泊めてやらないどころか、散々コケにした俺たちを……」

 宿の主人だった男の表情には明らかな動揺の色が浮かんでいた。


「はい……」


「そうか……。おい、お前ら!!」

 俺の答えを聞くと、宿の主人だった男が大声で叫んだ。すると、四人は地面にひざまずき、深々と頭を下げてきた。そして、口々に謝罪の言葉を発し始めた。


「済まなかった!!」

「ああ、酔っていたとはいえ、あの日の俺たちは最低だった!! 本当に済まなかった!」

「あんなことをした俺たちを助けてくれたんだな。すまねぇ、恩に着る! 本当に助かった!」


 リーダー格と思われる宿の主人、そして周りの三人は地面に頭をこすりつけるほど深く頭を下げて謝ってきた。その姿勢と言葉からは深い謝罪と感謝の気持ちが感じられ、俺の心のわだかまりが少しずつなくなっていくのを感じた。

 

 何よりも、4人の表情には心からの感謝の気持ちと謝罪の念が浮かんでいた。


「無事で良かったです」


 4人の謝罪を受けて、俺は心からそう口にすることができた。自分でも不思議なほど、心はすっきりしていた。


♢     ♢     ♢     ♢


 数十分後、食事に誘われ、俺は美食のレガーロの四人と焚き火を囲んでいた。四人はそれぞれの焚き火台を使って、それぞれが様々な料理やおつまみを作ってくれた。


 正直、女将さんの料理と並び立つぐらいどれもおいしくて俺は驚いた。まるで超一流ホテルのディナーのようなクオリティだった。(そんな高級なホテルに泊まったこともないが……)


「本当はもっと良い腕しているんだけどよ。ダンジョンの中で作るにはこれぐらいが限界なんだ。勘弁してくれな」

「いえいえ、どれも非常においしかったです。ダンジョンの中でこんな素晴らしい料理を頂けるとは思いませんでした」


「へへ、ありがとよ!! だがな、俺らの本気はまだまだこんなものじゃねぇ。地上に戻ったら、いつでもうちの宿に来てくれ。最高のおもてなしをさせてもらうぜ」


(この人たちは、根っからの悪い人たちじゃなかった。俺もあの日は非常識だったからな。もうあの日のことは水に流そう)


 美食のレガーロの人たちは、がさつで言葉足らずな印象はあったが、気さくな人達でもあった。


 特に、宿のご主人であるロイドさんは豪快だが気配りもできる性格で、俺にとても良くしてくれたし、話も面白かった。レガーロの四人と話せば話すほど、俺はこの人たちに惹かれていった。


 やがて、食事も会話もひと段落した後、ロイドさんが口を開いた。


「どうして、俺らを助けてくれたんだ? 助ける前に俺らだって気付いただろう?」


 今まで話していたような明るい笑顔ではなく、真剣な表情を浮かべている。


「誰であれ、あの状況なら助けますよ。同じ冒険者ですし。それに、ある人と約束したんです。もし、困っている人がいたら誰であっても助けると……その約束を守っただけですよ」


「そうか。困っている人がいたら誰であっても助けるか……。いい考えだな……」

「はい」


「いや、今回は本当にありがとう。助かったよ。本当に……」

「いえ、力になれてよかったです」


 心からの謝罪を受け、しばらく楽しい時間を共にして、俺は完全にこの人たちに心を開いてしまっていた。今は心からこの人たちを助けて良かったと思える。


「アヤト、もう一度謝罪をさせてくれ。お前をみくびって馬鹿にして、少しも信じようとしなかった。俺らは本当に最低だった」


 ロイドさんの声を聞き、他の三人もそれに同調するように深くうなずいている。


「皆さん……」

「お前はそんな俺たちですら助けてくれたんだ! 俺らもこれからは困っている人に手を貸すようにしていくよ。 約束する! なぁお前ら!!」

「ああ! もちろんだ!」

「約束するよ!」

「絶対だ」


 四人はそう口にしながらまっすぐ俺の瞳を見てくる。その真剣な表情から強い決意が伝わってきて俺は嬉しかった。


 食事を終え道具の片付けした後、美食のレガーロの4人は帰還の翼を使ってギルドに戻っていった。死にかけたことから今回の攻略は中止することにしたらしい。別れる直前までお礼の言葉を口にしていたのが印象的だった。


 また別れ際、エリクサーの代金として百万ギルも渡してくれた。そして使った分のハイポーションや万能薬も渡してくれた。しかもそれに加え大量の高級食材ももらってしまった。


 姿を消す四人を見送ると、自分でも驚くほど晴れやかな気持ちを感じていた。


「あの人達と和解することができた。これもルーナさんのアドバイスのおかげだな。ありがとうルーナさん」


 四人がいなくなった後も少しだけゆっくりすると、俺は再びダンジョン攻略を開始した。




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