第43話 上級ダンジョン
ハルさんから上級冒険者手帳を受け取った俺は10日ぶりに女将さんが待つ宿に帰った。中級ミッションを全てクリアし、上級下位の冒険者になったことを伝えたら女将さんは自分のことのように喜んでくれた。
(あまり早いペースでダンジョンを攻略していったらまたイカサマを疑われちゃうからな。疲れも溜まったし、何日かのんびりしよう)
そう考えた俺は二日間、宿から出ることもせず、本を読んだり、ダンジョンで入手した食材で女将さんにとびきりの料理を作ってもらったり、髪を切ってもらったりして過ごした。
「体調も万全だし、そろそろ行くか!」
宿に泊まって三日目の朝、俺は女将さんに見送られながら宿を後にした。
二日間ゆっくり休んだこともあり体の調子はとても良かった。そして、ルーナさんとの約束を守り、積極的に人助けをするようになってから不思議と昔のトラウマが蘇ることも少なくなっていた。正直、不正を疑われたことは心外だったがこの二日間のんびりしたことで気持ちの整理はできていた。
不正をしていないことをいつかはわかってくれるだろうと信じ、もうあまり考えすぎないようにすることを決めた。今はもう早く上級ダンジョンへ行って攻略を始めたい気持ちでいっぱいだった。
向かう先は四つある上級ダンジョンの中では比較的攻略難易度が低いとされているダンジョン「レクノート」にした。
ギルドに入ると、いつものように受付でハルさんに一言声をかけ上級ダンジョンについての情報を教えてもらってからダンジョンに向かった。
ダンジョンの地下一階に到着すると、いつもと同じようにただの一本道が続いていた。石造りの通路の壁にかがり火が焚かれている。
(気を引き締めなきゃな……)
先ほどハルさんは、上級ダンジョンは急激に攻略の難易度が上がると言っていた。また、モルドで最も命を落とす冒険者が多いのが上級ダンジョンだとも口にしていた。
初級ダンジョンや中級ダンジョンとはどう違うのか俺が尋ねたらハルさんは「転移罠」について教えてくれた。
転移罠は冒険者が踏むと別の階に強制的に送られてしまうものらしい。厄介なことに踏まれる前は、薄い色でしか紋章が見えず、発見が難しいらしい。
踏むと魔物の群れの中に転移させられることもあれば、一気に下の階に飛ばされることもあるようだ。また、ごく低確率ではあるが、裏ボスと言われる。通常のダンジョンのボスよりも強力なモンスターがいるフロアに飛ばされてしまうことがあるらしい。
(じいちゃんの刀があるから万が一にも死ぬことはないと思うけど。警戒は怠らないようにしよう。俺は助けてくれる仲間もいないしな……)
ハルさんの話を聞いて俺は少し不安を感じていた。いつもよりも探知スキルを使用する回数を増やそうと思いながら探索を始めた。
♢ ♢ ♢ ♢
「ガハッ」
2メートルを超す巨大な緑色のゴブリンは血を吐いて倒れた。手に持っていた巨大な斧がガシャンと言う音を立てて地面に転がった。どうやら俺が胸やわき腹などを刺した攻撃がやっと致命傷になったようだ。やがて巨大なゴブリンは光の粒になって消滅していった。
上級ダンジョンを探索し始めてから三日が経っていた。今は午後6時過ぎだ。今は地下26階を探索している。
中級ダンジョンを攻略した時に比べ探索のスピードを落とし攻略を進めてきた。また、攻略記録を塗り替えてギルドや周りの冒険者に不正を疑われるのは嫌だったためわざと休憩を多くしたり、依頼品の魚を釣るのに、のんびり釣りをしたりして攻略時間を遅らせていた。
一日に付き8階ずつ攻略をしていき、三日目の今日は26階にいた。今は通路で見つけた巨大なゴブリンを倒したところだ。
「ふう……。なんとか倒したな……。こいつ、強かったな」
俺はドロップアイテムである斧を拾いながらつぶやく。
地下2階から地下20階までのモンスターは正直、中級ダンジョンの最下層のモンスターと同じぐらいの強さだったため、たまに近接戦闘の訓練をしたいときはあえてじいちゃんの刀を使わず、刃こぼれがひどいナイフで戦った。攻撃力も防御力もスピードも俺の方が上回っていたため、危なげもなく倒すことができた。
しかし、地下21階を過ぎたあたりからはモンスターの強さが、階を追うごとに増していき、いま俺が探索している。地下26階では、かなりの強さだった。今もあえてじいちゃんの剣を使わずに巨大ゴブリンを倒してみたが、【先読スキル】と【敏捷スキル】を活用しなければならないほど、モンスターは強力だった。
(26階でこのレベルのモンスターが出てくるのか。さすが上級ダンジョンだな。今のあいつはおそらくA級モンスターだろうな。もう少し進んだら、さらに強くなるだろう。こりゃ、最下層の辺りはじいちゃんの刀をフルで使っていかなきゃ攻略できそうもないな……)
俺は、ここまで来るまでに上級ダンジョンの難しさをひしひしとで感じていた。魔物が強いのは当たり前だが、それ以外にも雪で歩きずらいフロアや泥で抜かるんだフロア、フロア内が膝上ぐらいまで水に浸かっているフロアなど、探索するだけでも苦労するような特殊な階層が増えてきていた。
正直、じいちゃんの刀があるからためらいもなく前に進めているが、それでも一人でダンジョンで過ごしていると恐怖も感じてしまう。それほど上級ダンジョンの難易度は高いように感じていた。
やがて、俺がゴブリンと戦った通路から移動を始めると、通路の奥の方からとてつもなく大きな悲鳴が聞こえてきた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰か! 誰か助けてくれ! 」
その声からただならぬ様子を感じ取った俺は全速力で通路を駆けていった。




