第41話 快進撃
中級ダンジョン「ガロア」のボスは五メートルは超える騎士の形をした巨大な動く銅像だった。
銅像が動いた瞬間、俺はゼウスの斬撃を数回放った。すると銅像は細かく切断され動かなくなり、やがて光の粒になって消滅した。
「やっぱり強すぎるな。じいちゃんの刀……」
おそらくこのレベルのモンスターであればじいちゃんの刀を使わなくても倒せたとは思うが、俺は時間節約のためじいちゃんの刀を使った。
俺はボスのドロップアイテムである大剣をアイテムボックスにしまいながら考える。
(これではっきりしたな。中級ダンジョンは今の俺なら大したことない。さらに、じいちゃんの刀を使えば速攻クリアしていける)
俺は、二日間ほぼ走りっぱなしで攻略をしていたが、身体には驚くほど疲れが溜まっていなかった。完全に60kgの重りを背負って20kmの距離を走らされた成果が出ていた。
授業中は死ぬほど恨んでいた師匠に対して今となっては感謝の念しかなかった。
(よし、こうなったら最速で中級ダンジョンは終わらせちゃおう。ゆっくり休んでる時間が勿体無い。早く中級冒険者を卒業して少しでもルーナさんに追いつけるように頑張ろう!)
二日前にルーナさんに褒められたことが俺はいまだに嬉しかった。あの日のことを考えるだけでいくらでも頑張れる気がする。
俺は、モルドに帰る転移紋章を踏むと、一瞬でモルドの中級ダンジョンへ行くための紋章がある部屋に戻った。
俺はギルドの受付には向かわず、そのまま一つ隣にあった「レガリス」という名前のダンジョンの紋章を踏み抜いた。
♢ ♢ ♢ ♢
それから八日後の深夜0時、俺は中級ダンジョン「アルタール」の深層。地下37階にいた。
ダンジョン内で見つけた。美しい池のほとりで野営をしている。
食事を終えた俺は、焚き火をぼーっと見つめながらコーヒーを飲んでいた。
中級ダンジョンの攻略を1日も休まずやり続けた結果。今いる「アルタール」以外のダンジョンは全て攻略してしまった。
じいちゃんの刀はフル活用してしまったが、その分、素早く攻略することができた。
残すところは地下38階と地下39階。そして最後のボスだけだった。
「今回のボスだけはじいちゃんの刀無しで倒そう」
次のボスだけはじいちゃんの刀を封印すると決めていた。今まで散々頼ってきてしまったため、いまいち自分が戦っている実感が無かった。
(このままじゃいまいち達成感ないもんな……)
地下37階は珍しく、開けた林のようなのような景色が広がっていた。今目の前に広がっている池はかなり透き通っていて、沈んでいる木や岩などがよく見える。焚き火の炎がゆらめくととエメラルドグリーンの水面が一瞬だけ見える。その光景はとても美しかった。
俺はリラックスした気分でもう一口コーヒーを口にする。苦味の中にも深いコクがある。そして何より香りが素晴らしかった。
「はぁ……癒される。頑張って良かったな」
このコーヒーはある冒険者パーティから頂いたものだった。
ルーナさんが言っていた通り、ダンジョンの中では怪我人や窮地に陥っている冒険者が結構いた。俺は、ガロアで救助した女性の他にも多くの冒険者を助けていた。
ルーナさんに「困っている人がいたら助けてあげてください」と言われたことを俺は素直に実践していった。
中級ダンジョン「ミラージ」の地下8階層では数百匹の蜘蛛に襲われている男女二人組のパーティを助けた。
蜘蛛は1匹が20センチくらいのサイズがあり、女性達にまとわりついていたが、俺ははすぐにシヴァを取り出して周りにいた蜘蛛たちを凍らし、アグニで1匹1匹焼いて数を減らしていった。
二人は蜘蛛に噛まれ、身体はボロボロだったため、ハイポーションと毒消しを飲ませてあげた。
非常に感謝してくれた二人はモルドの西地区でコーヒーショップを開いている夫婦だった。二人は助けてくれたお礼に自家製のコーヒー豆を俺にくれた。
また、「ミラージ」の地下17階層では妻からプレゼントされた槍を激流の川に落としてしまった50代ぐらいの男性冒険者にでくわした。俺は探知スキルで位置を特定し、川の中に潜り取ってあげた。かなりの激流だったが、師匠の特別訓練で鍛えられていたため全く問題はなかった。
俺はお礼に東地区で人気の高級菓子をもらった。
他にも、オーク達に襲われている女子二人組や、食肉植物に捕獲され、溶かされかかっている若者男性パーティ。また、数十体の狼型モンスターに襲われていた三人組の若い男たちのパーティや蜘蛛型モンスターに糸でぐるぐる巻きにされていた四人組の中年女性で組まれたパーティなど、多くの冒険者を次々に救助していった。
大量に買っておいた、ポーションや、毒消し、万能薬、ハイポーションのお陰で、一人残らず救うことができた。
俺は毎回助けた後に感謝されるたびに、なぜか自分も心が暖かくなっていくのを感じていた。それに伴い、どの冒険者たちも、口々にお礼を言ってきてくれ、誇らしかった。じいちゃんの刀のお陰だと内心思ってはいたが、それでも感謝の言葉は嬉しかった。
誰かのために行動すればするほど、自分の心が前向きになっていくような気がした。心の中に潜むもやもやも少しずつ晴れていくようだった。
不思議と、眠りにつくたびに見ていた悪夢の回数が次第に減っていった。発作のようにトラウマが襲ってくることも少なくなっていた。
(ルーナさん……、ありがとうございます。ルーナさんのアドバイスのおかげで心が晴れやかになってきました)
やがて眠くなってきたため、俺はテントの周りを氷の壁で囲んでから中に入った。ルーナさんへの感謝の気持ちを抱きながら、俺は眠りについた。




