第39話 野営
深夜1時。俺は、場所はダンジョン内にある小川の横で慣れないテント設営にいそしんでいた。今いる場所はダンジョンの地下29階層。降りてきた階段からしばらく進んだ場所にある小川が流れる洞窟のような場所だ。小川の左右には二メートルほどの人が歩ける道があった。俺は、その小川の横に3メートル四方ほどの空間を見つけたため、この場所で野営をすることに決めた。
結局、あの後 14時間走り続け、40階あるうちの地下28階までの探索を終えた。28階分のフロアを全て回ったため、かなり疲れたが莫大な量のモンスターのドロップアイテムや、鉱物や食材などの素材を手に入れていた。1000個までしか入らないアイテムボックスがもう二つ分いっぱいになっていた。
流石に疲労が溜まってきたため、今日の攻略はここまでにした。
ほんとはもう少し上の階で休んでも良かったのだが27階と28階は他の冒険者たちのパーティがいくつかテントを立てていたため、もう一つ下の階に来たのだった。
俺は何とか、説明書を見ながらテントを設営した。この辺りにかがり火は無く、真っ暗だったため、先に焚き火台にセットした薪に火をつけると共に、以前、アイテムショップで買った二つのオイルランタンに灯りをともしていた。
テントの設営が終わると、今朝、アイテムショップで購入した持ち運びシャワーを浴び、体の汗を流した。シャワーと言っても簡易的なもので、ただ体を隠せるようなビニールみたいな素材で作られた仕切りを立て、上から一度だけお湯を放出することができる「温水結晶」と呼ばれるアイテムで頭から体を流すだけのものだったが、汗を流せるだけで十分快適だった。
焚き火で体を温めた後、アイテムボックスから以前入手していた紫紺水牛の霜降り肉500グラムを取り出すと、まな板の上で塩コショウをしてから焚き火台に備え付けた鉄板で焼き始めた。表と裏、そして側面を丁寧に焼いていき、頃合いを見て、まな板によけ薄切りにした。一つを口に放りこむと言葉にできない程の旨味と甘みが口の中で広がった。
俺は、アイテムボックスから今朝女将さんにもらったパンを取り出し、軽く焚き火台の網の上であぶってからバターを塗って食べた。自然の中で食べるパンは格別だった。
一通りの夕食を食べ終わると、しばらくぼーっと目の前に流れる川をみつめ、穏やかな時間を過ごした。
「なんかいいなこういうの。最近は修行ばかりでこんな時間を取れなかったしな……」
小川のせせらぎと目の前でパチパチと言う音を立てながら燃える薪の音が合わさってなんとも心地の良い空間が広がっていた。あまりにリラックスしてしまって俺はしばらくの間、うとうとしてしまった。
「あぶないあぶない。ちゃんと布団で寝なきゃ疲れが取れないよな。それに、焚き火の火を消さなきゃ……」
俺は焚き火にしっかり水をかけ消火すると、テントの中に入った。
あらかじめセットしておいたマットレスの寝心地は固すぎず柔らかすぎず、丁度いい感じだった。また、枕とバナナのような形をした抱き枕も肌触りが気持ちよく俺にぴったりだった。また、上から被る毛布はやや厚みがあるが、その分一枚でもとても暖かい。金額がそれなりにしただけあり、どれも満足が行く品だった。
俺は、心地いい寝具に包まれながら小川の音を聞きながら眠りに落ちていった。
♢ ♢ ♢ ♢
「ギャアオオオオ――――――――――――――――」
突然の叫び声に俺は慌てて眼を覚ました。慌ててテントから出ると、目の前の小川のすぐ横に魔物が立っていた。今にもこちらに飛び掛かってきそうだ。
「まじか!」
俺は直ぐに枕元に置いていたアグニを取り出すと炎を放出した。魔物はみるみるうちに焼き尽くされ、消滅していった。今倒した魔物は、3時間前にこの場所を見つけたときに倒した「ブルーオーク」だった。
「あー、ビビった! でも、一定時間で復活するって言ってたしな! ある意味当然だよな」
あまりに急な出来事に、心底驚いていた。心臓が今でもバクバク言っている。
このままだと今のブルーオークはまた三時間後には復活するのだろう。俺は考えを巡らせる。
(どうしよう……。そんな強くないモンスターとは言え、寝てるテントのそばに来られるのはやだな。他のみんなは寝る時どうしているのだろうな……)
「あっ!」
俺は、必死に対策を考えた上、良いアイデアが浮かんだ。シヴァを取り出すと、自分のテントを囲うように四方と上に厚さ5cmほどの氷の壁を出現させた。
「うん。これで魔物に睡眠の邪魔をされることもないだろう。これだけ空間があれば酸欠の心配はないだろうし」
俺は今度こそ安心して寝れると思い、布団に入った。さっきよりも川の音が聞こえにくくなってしまったのは残念だったが睡眠の質には変えられなかった。




