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第37話 再会 

「ルーナさん!」

「はい」


 俺の声で振り向いたルーナさんは、真っすぐに俺の眼を見つめてくる。その表情は、あの雪の日と同じで優しい笑みを浮かべていた。


 その吸い込まれそうなほどに美しい瞳を見て、俺は自分が呼び止めたはずなのに、言葉を発することができなかった。緊張しすぎているためか全身が熱い。体全体が震えているんじゃないかと思うほど心臓が高鳴っている。


「どうかしましたか?」

 ルーナさんは、俺の方に近づいてきてくれて、心配そうに見上げてくる。その表情がまたかわいくて、俺はさらに緊張してしまう。しかし、なんとか覚悟を決め、声を絞り出すように発した。


「ル、ルーナさん。ぼ、僕は、以前あなたに助けていただいた者です」

「えっ?」


 俺の言葉を聞いたルーナさんはまじまじと俺の顔を見てきた。


「その顔……、もしかして、あの雪の日?」


「はい」


「ええええぇぇぇぇぇ!! あの時、路地裏で凍えてた人ですか!!」


 ルーナさんはかなり驚いたのか、聞いたことがない程大きな声を出した。


「はい」

 俺はあの時の情けない自分の姿を思い出してしまって、少し恥ずかしい想いを抱えながらうなずいた。


「お兄さん!! すっごくかっこよくなりましたね!! 誰かわかりませんでしたよ!」


 ルーナさんの「かっこよくなった」という言葉を聞いて、俺は言葉にできない程嬉しかった。お世辞なのはもちろんわかっていたが、それでも自分の憧れの人からそんなことを言ってもらえるとは夢にも思わなかった。にやけそうになる顔を必死に我慢し、


「あ、ありがとうございます!」


 と、なんとか答えた。


「本当にかっこいいですよ!! 前に会ったのは確か三か月前ぐらいでしたよね!! お兄さん、頑張ったんですね!!」


「ありがとうございます!」


「お兄さん、名前はなんて言うんですか? まだ聞いていませんでしたよね?」

「僕は、影山絢斗といいます」

「アヤトさんですか。いい名前ですね」


 ルーナさんの一言一言がなぜか全て心を貫いてくる。嬉しすぎて、涙が出そうになってしまう。やっぱりルーナさんはあの日となにも変わっていない。とてつもなく優しい人だ。


「あれから、自分なりに頑張りました。さっき、初級ダンジョンも攻略することができました!」


 ルーナさんが褒めてくれるのがあまりに嬉しくて、俺は初級ダンジョンを攻略したことも話してしまった。

 

 憧れの人に少しでも認めてもらいたくて……。格好つけたくて……。


 でも口にしてみて俺は失敗に気が付いた。ルーナさんはこの町のトップに君臨する冒険者だ。1800人以上いる冒険者の中で正真正銘のナンバーワンだ。そんな人に初級ダンジョンをクリアしたぐらいのことを報告してどうする。


(馬鹿だな。俺は……)


 俺は、自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られてしまう。しかし、


「すごいじゃないですか! 初級ダンジョン攻略おめでとうございます!! 私にはわかりますよ! どんなにアヤトさんが努力をしてきたかが! あの時よりもかなり体も鍛えられてますね! 本当に頑張ったんですね!!」


 そんな俺のネガティブな感情も包み込んでしまうほど、ルーナさんは優しかった。


「ありがとうございます」


 俺は、胸がいっぱいになってしまい、涙がこみあげてきていたが、これ以上恥ずかしいところは見せまいと何とか封じ込める。


「これ、あの日借りたお金です。何も包みがなくすみません」

 俺は、アイテムボックスからボロボロの封筒を取り出すと、五万ギルを取り出し、ルーナさんに差し出した。


「もうお金は大丈夫なんですか?」

「はい」

「じゃあ、ありがたく頂きますね!」


 なんで、こうなることを予想して封筒の一つも買っておかなかったんだと、俺は過去の自分を殴りたくなる。しかし、ルーナさんはあくまでも笑顔でお金を受け取ってくれた。


「その、ルーナさん! あの日、ぼくは本当に死んでしまうところでした。ルーナさんのお陰で生きながらえることができたんです!! 本当にありがとうございました!」

 

 俺は、今までずっと心に秘めてきた莫大な感謝の想いを込めて頭を下げる。


「死んじゃうところだったなんて大げさですよ。私は別にそんな大したことしたわけじゃないですから」


 そう言葉にしたルーナさんは、心からそう言っているように見えた。なんて謙虚な人なんだろう。


「いえ、僕は本当に感謝しているんです。あなたのおかげで生きながらえることができたんです!」


「あはは!! アヤトさんって大げさですね! 少しお金を貸しただけですよ? 私が貸さなくてもきっと誰かが助けてくれていましたよ! でも、覚えててくださりありがとうございます! アヤトさんが困っているときに力になれたのなら本当に良かったです!」


 ルーナさんは本当に自分がすごいことをしたとは思っていないのだろう。それは表情から伝わってきた。ただ、五万ギルを貸しただけだと……。


(でも、俺にとって、あの時のルーナさんがいたから今の俺があるんだ。それは絶対に間違いない。なんとしてでもルーナさんに恩返ししなくては!)


「僕は、あの日のことをずっと忘れません! もしも困ったことがあったらなんでも言ってください! ルーナさんが困っていたら絶対に力になりますから!」


「私は大丈夫ですよ! じゃあ、もし、あの時のアヤトさんみたいに困ってる人がいたら助けてあげてください。ダンジョンの中って、助けが必要な人が結構いるんです!」


「わかりました! でも、ルーナさんにも必ずこの恩は返します。もしも、ルーナさんに何かあった時には必ず僕が助けます!」


「はい!! ありがとうございます! アヤトさんって、ものすごく真面目なんですね! 助けるなんて初めて言われました!」


 ルーナさんの言葉を聞いて、俺ははっとした。町のトップの冒険者に、自分よりはるかに格上の人に、「自分が助ける」なんて言ってしまった。それがどんなに愚かで、失礼なことか、言ってから気付いた。俺は、再び自分をぶん殴りたい衝動がふつふつとこみ上げてくる。


「じゃあ、もしもの時はよろしくおねがいします!」


 しかし、ルーナさんはとびきりの笑顔でそう言ってくれた。どこまでも、優しく、気遣いのできる女性だった。


「はい!」

 俺は精一杯の気持ちでそう答えた。


「じゃあ私、もう行きますね。また!」

「はい」


 ルーナさんが立ち去った後も、俺はずっとその場に立ち尽くしていた。恰好いいって言ってくれた言葉や、頑張りを認めてくれた言葉が頭の中で何度も何度も繰り返されて、天にも昇るような心地だった。あまりにも嬉しすぎて、言葉にできないほどだった。


(いつか、ルーナさんに本当の意味で恩返しできるように、自分を鍛えよう!)

 俺のモチベーションは最大まで高まった。心の中はやる気に満ちていた。


 しばらくして、冒険者手帳の発行待ちだったことを思い出した俺は、急いでギルドに向かった。案の丈、何回も呼ばれた後だったらしく、ハルさんに少し怒られてしまった。


 ハルさんから、初級ミッションの達成報酬として俺は、約180万ギルのお金を受け取った。

5時間の働きに対する報酬としては十分すぎるほでの額だった。


 中級冒険者手帳をもらった俺は、女将さんがいる宿「ロベルタ」に向かった。


 久しぶりにあった女将さんは俺の体型の変化に大笑いしたあと、いつものように快く迎え入れてくれた。


 夕食後、修行の話や、初級ダンジョンを攻略したこと、ルーナさんに金を返したことなどを伝えると女将さんは喜んでくれた。


 俺は、ルーナさんとの会話を思い出しながら幸せな気持ちで眠りについた。

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