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第30話 配信

無事冒険者登録を済ませた俺は、少し建物内を散策してみることにした。建物内は、中世ヨーロッパを思わせる調度品が並んでおり、歩いているだけで楽しかった。


 ギルドのカウンターの前の通路を入り口から向かってまっすぐ進んでいくと、巨大な酒場があった。テーブルがずらっと並んでおり、さながらパーティ会場のような広さだった。


 テーブルにはまだ午前中だと言うのに多くの人が酒を飲んで楽しんでいた。


「いいなぁ、こんな時間から楽しんでいて。俺もちょっとくらい飲んでいこうかな……」


 想像を絶するような厳しい修行を終えてから、まともに休んでもいなかったため、そんな考えが浮かんできてしまう。俺は、誘われるように酒場に入ろうとしたが、入り口の前で足を止めた。


(いやいや、だめだ。俺は何しにギルドに来たんだ。やっと冒険者になったんだろう。ゆっくり休憩するのは今度にしよう)


 なんとか誘惑に打ち勝ち、俺は、来た道を引き返していった。先ほど受付をすましたカウンターの前を通り過ぎ、しばらく通路を進んでいくと、突然、通路の奥からルーナさんの声が聞こえた。


「えっ? ルーナさん?」 

 俺は、声がした方向に向かって急いだ。


 通路の先に進んでいくと、突然左側に大学のホールのような劇場が現れた。


 階段状になっている席に、おびただしい数の人間が座っており、目の前に広がる巨大なスクリーンを見ていた。


 スクリーンにはルーナさんが映っていた。喋りながら目の前に佇む3頭のイノシシのようなモンスターと戦っている。久しぶりに見た動くルーナさんに俺は胸の鼓動が高鳴ってしまう。


「えっ? 配信? どういうこと?」

 俺は、目の前の状況にわけがわからず戸惑ってしまう。まるで日本で配信チャンネルを見ているかのようだった。


(ここは異世界だよな。文明レベルだって地球に比べたらはるかに劣る。この世界に配信ができるシステムまであるのか? だって、カメラや電波などの通信技術だって必要だろう)


「あ、あの? これって今の映像が配信されているんですか?」

 俺は、たまらず、近くに座っていた。商人風のおじさんに話しかけた。


「えっ? そうだよ?」

 おじさんは、驚いたような顔でそう答えた。


「どういう仕組みなんですか? この配信って」

「どうって、君、冒険者だろう。そんなことも知らないのかい?」

「すみません」

「中継トンボが見つかったのはもう十年も前だよ。不思議な人だね」

「中継トンボってなんですか?」

「この映像を撮影しているトンボだよ。映像を撮影して特別な電波に変えて送ってくれるんだ。後ろを見てごらん」



 俺は、おじさんが指を指した先を見た。すると、壁に一匹のトンボが止まっており、そのトンボの眼から光が発せられ、スクリーンに映っていた。


「あれが映写トンボだよ。中継トンボがとった映像と音をこうして写してくれるんだ」

「すごいですね!!」


「ああ、わかったら静かにしてくれ。配信が見たいんだ。俺はルーナちゃんの大ファンでね!」


 おじさんは、再び、スクリーンの方を向いて黙ってしまった。


(すごいな。まるで映画館みたいだ。なんかほんと、科学技術がアンバランスだな。まあ俺が地球から来たからこんなことを思うんだろうが。まぁいいや。難しいことを考えるのはやめて、俺も配信を見よう。せっかくルーナさんが映っているんだから)


 俺も配信を見ようと階段状の席に座った。大理石のような石でできているからか、席はひんやりしていた。


 ルーナさんは三頭の巨大なイノシシ型モンスターと向かい合っている。緑色の刀身を持つ美しいレイピアを手にしている。


 ルーナさんを囲むように立っているイノシシ型モンスターは、体長4メートル以上はありそうだ。全身が鱗のようなもので覆われているのが見える。明らかに高ランクのモンスターだった。


「堅牢イノシシの弱点は後ろ足の付け根です。そこの部分だけが、肉質やわらかくなっていて攻撃が通りやすいです。他の部分を攻撃しても、あまりダメージは入りません」


 ルーナさんはそう口にすると、いきなり姿を消した。いや、正確には残像なようなものが一瞬見えている。あまりにも動きが速すぎて映像が追いつかないのだろう。

 

 いつの間にか、イノシシの後方に姿を現わしたルーナさんは、見ている人にもわかりやすく、弱点である後ろ足の付け根をレイピアで突き刺した。


 すると、イノシシは声を上げながら倒れ、光の粒となって消滅した。ルーナさんは目にも止まらぬ速さで動き周り、残りの二頭も仕留めていった。


「すげぇ!! なんて速さだ!! かっこいい!」


 俺は、配信を見ている他の観客たちを同じように配信に夢中になっていた。

 ルーナさんの戦いを見て、その実力は一目で分かった。師匠の速さと同等かそれ以上の速度でルーナさんは動き回っていた。


「今の俺では先読を使っても絶対に避けきれないな! 速すぎる!」

 自分とルーナさんが仮に戦ったとしたら、一瞬で倒されるだろうなと思う。そう感じてしまうほどルーナの動きは圧倒的だった。


 しかも速さだけではなく、相手の攻撃をかわす柔軟性や、正確に弱点を攻撃する技術も群を抜いていた。すべての力が超一流であることが見て取れた。


 その映像を見ていて次第に俺の胸の鼓動は高鳴っていく。憧れの人の戦う姿の美しさ、華麗さ、そして圧倒的な強さに俺は感動していた。


「すごい!! ルーナさんは本当にすごい!! これが、モルド一の冒険者の強さか!!」

 恩人でもあり、憧れの人でもあるルーナさんの芸術的なまでの強さに俺は圧倒されてしまう。


(ああなりたい! 俺もあそこまで強くなりたい!!)

 そんな気持ちが心の底から込み上げてきた。


 それからもルーナさんは現れる様々なモンスターを次々と倒していった。

 解説をしながら、汗一つもかかず、呼吸が乱れることもなく。その姿を俺はしばらくの間見続けていた。


「はい。今日の配信はここまでです。見てくれた皆さん。ありがとうございました」


 しばらくたった後、ルーナはこちらに向かって丁寧に頭を下げると、映像は消えた。見ていた。300人以上の客たちからは大きな拍手が起こった。


  俺は、映像が流れている間、ルーナさんの姿にずっと見とれていた。


(なんて凄い人なんだろう。こんなにすごい人に俺は救われたんだ……)


 改めて、あの日のルーナさんの姿が思い起こされ、俺は胸がいっぱいになっていた。映像が途切れ、他の客たちが席を立っていく中、俺はしばらく呆然としていた。



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