第29話 初ギルド
俺はモルドに到着すると早速ギルドに向かって歩き始めた。女将さんの話によると、冒険者ギルドは町の中心部にあるらしい。この町に来て、しばらく経つがまだ訪れたことはなかった。
町の中心に向かえば向かうほど、冒険者アーマーを着こんだ人間を見かけることが多くなった。俺は、初めてのギルドに胸を弾ませながら歩いて行った。
「うおーー!! すげぇ!!」
歩き始めてから十五分ほどで俺は冒険者ギルドに到着した。冒険者ギルドは、いつかテレビで見た大きな城のような外観をしていた。その建物の高さからおそらく五階以上はあるだろう。俺は、ワクワクした気持ちでギルドの扉を開いた。
建物の中には広い空間が広がっていた。冒険者と思われる人間たちがたくさんいる。左奥にはギルド受付と書かれたカウンターが広がっており、カウンターの前にはいくつものソアーが置かれていた。
多くの冒険者がソファーに座って順番を待っている。冒険者たちの話し声がいたるところから聞こえてきてとても賑やかな場所だった。
建物の入り口から見て左手には武器屋や防具屋と思われる店が並んでいた。また、右手には、アイテムショップと思われる店と治療所と書かれた店があった。
最低限の道具はここでも手に入るようになっているようだった。
俺は、受付に行くと、番号札を渡された。他の冒険者たちと同じようにソファーに座って待っていると、30分ほどで呼ばれたため、カウンターに向かった。
「こんにちはー。あれ? お客さん、見ない顔ですね。ひょっとしてうちのギルドは初めてですか?」
カウンターに立っていた女性は20代前半ぐらいに見える若い女性だった。黒髪ロングの髪形に白い帽子を被っていた。
「はい。初めてなんです。よ、よろしくお願いします」
人と話すのが苦手な俺は、少しどもりながらなんとか言葉を発した。やっぱり初対面はなかなか慣れない。特に若い女性は苦手だった。
「そうなんですね。私は、ギルドの受付嬢をしているハルと申します。よろしくお願いします」
そんな俺のコミュ障な態度を意に介さない様子で、受付嬢は明るい笑顔を向けてくる。
「あっ、影山絢斗と言います。よろしくお願いします」
「では、絢斗さん冒険者ライセンスの提示をお願いします」
「すみません。まだ、冒険者ではなくて……。ライセンスを持ってないんです」
「あっ、そうだってんですね。すみません。では、養成所を卒業された方ですか?」
「はい」
「大変失礼いたしました」
ハルさんは丁寧に頭を下げてきた。
(たぶん俺の年齢がかなり高かったから、冒険者と勘違いさせてしまったんだろうな。ごめんお姉さん)
たぶんこの年から冒険者になる人なんてあまりいないんだろうな。養成所の試験のときもみんな若かったしな。
「では、養成所の卒業証書をご提示ください」
そんなことを考えていると、ハルさんがそう声をかけてくる。俺は、アイテムボックスから師匠にもらった卒業証書を取り出すとハルさんに渡した。やはり少し、薄汚れていて恥ずかしかった。
「えっ? これって……。すみません。ちょっとお待ちください」
ハルさんは俺の卒業証書を見ると、目の色を変えたように驚いていた。何やら慌てた様子でカウンターの裏にある部屋へ入って行った。
(おいおい。大丈夫か? 頼むぞ師匠!)
俺はその様子を見て不安になってしまった。もしかしたら、紙が古すぎて、証書と認められないのかもしれないとか、何か不備があったのでは、と不安が込み上げてきてしまう。
「すみません。お待たせしました」
しばらくしてハルさんはカウンターに戻ってきた。俺は心配だったためすぐに尋ねる。
「あのっ? 大丈夫ですか? 何かその証書に不備でもありましたか?」
「い、いえ、違うんです。大丈夫ですよ! この書類でちゃんと冒険者として登録ができますから」
「良かった」
「アヤトさんは、特別教官から指導を受けられたんですね!! すごいです!! 特別卒業証書を見たことがなかったので驚いてしまいました。先輩に聞いたのですが、この証書を持つ人が来たのがなんでも、五年ぶりらしいです」
「そうなんですね」
(五年ぶり? たしか師匠は最後の弟子は十年以上前って言ってたけどな……。そうか、確か特別教官ってもう一人いるんだよな。五年前の人はそっちの卒業生か)
俺は、もう一人特別教官がいることを思い出し、納得した。
「アヤトさんは将来有望ですね! 特別教官の指導を受けられるってことは本当に幸運なことなんですよ! すごいです!」
「ありがとうございます」
(ギルドの受付嬢がここまで興奮するなんて。特別教官に教えてもらえるってすごいことなんだな。俺が思っていた以上に師匠はすごい人なのかもな)
ハルさんは瞳を輝かせている。テンションもさっきよりも相当高い。その様子をみていて俺は、だんだんと、自分がいかに幸運だったかがわかってきた。
「では、改めて、冒険者登録について説明をさせていただきますね。実は、特別卒業証書を持っている方にはいろいろな特典があるんです」
ハルさんは特別卒業証書による特典を一つ一つ説明してくれた。内容をまとめると、
①初級冒険者としてではなく、中級冒険者から冒険者を始めることができる。
②防具や貴重なアイテムなどを無償提供してもらえる。
③治療所での無料サービスやギルドがある建物の2階に併設されたホテルに半額で泊まれる。
とのことだった。
そのあまりの待遇の良さに申し訳なくなってしまった俺が
「そんなにしてもらって良いんですか?」
と聞いたところ、
「特別教官コースを卒業した人は、それだけ期待されているってことですよ」
と言われてしまった。
「では、中級冒険者からのスタートでよろしいでしょうか?」
「いや、初級からでお願いします!」
「いいんですか? せっかく中級から始められるのに」
「はい」
「わかりました。では、一番下のランクである初級下位冒険者として登録しますね」
「お願いします」
中級冒険者から始められると聞いて少し迷ったが、やっぱりせっかく異世界に来たんだし、最初のダンジョンから攻略してみたかった。これでも俺は、子供の頃かなりRPGゲームが好きだった。そのため、ゲームを途中の町から始めるようなことはしたくなかった。
(せっかく異世界に来たんだからな。ちゃんと一番下から攻略していこう)
そんなことを考えていると、冒険者ライセンスが出来上がったようで、ハルさんが手渡してくれた。見た目は緑色の手帳だった。なんか高校生の時に使っていた生徒手帳に少し似ていた。手帳を開くと、そこには、顔写真付きで、初級下位冒険者「アヤト=カゲヤマ」と書かれていた。
「えっ? 写真付き? いつ取ったんですか? というかカメラあるんですか?」
「カメラって何ですか? すみません。説明していなかったですね。このカウンターに来ていただいた時点で、あの撮影カメレオンが写真を取ってくれるんです」
ハルさんが指さしたカウンター奥の棚の上には一メートルほどのカメレオンが乗っていた。大きな目をきょろきょろさせている。
「でかっ!」
思わず俺は声を発してしまった。
「大きいですよね。うちの撮影カメレオンのレオンちゃんです」
巨大な目をきょろきょろさせている。
「あんなの棚の上にいましたっけ?」
「レオンちゃんは透明になれるんです」
「そういうことか」
俺がレオンを見ていると、一瞬で姿を消した。おそらく背景と同化したのだろう。
(異世界ってすごいな。この世界はモンスターの力をうまく利用して暮らしているんだな)
俺がそんなことを考えていると、ハルさんは目の前のカウンターに、腰につけるポーチのような物を置き口を開いた。
「では、さっそく提供されるアイテムの説明をしますね」
ハルさんはそう口にすると、目の前に置かれたポーチから次々にアイテムを出していった。
カウンターの上に並べられたアイテムは、以下の物だった。
・エリクサー1個
・ハイポーション5個
・ポーション10個
・万能薬2個
・毒消し5個
・帰還の翼5枚
帰還の翼は直接見るのは初めてだったが、師匠からもらった冒険者心得に情報は乗っていた。確か、ダンジョン内で使用すれば、ダンジョンの入り口までワープすることができるアイテムだと書いてあった。
しかし、エリクサーまでもらえるのは驚きだった。エリクサーは100万はすると冒険者心得に書かれていたからだ。
「エリクサーまでもらっちゃっていいんですか?」
「はい。あの、アヤトさん。一年間にどれぐらいの人がダンジョン内で亡くなるか知っていますか?」
「いや、わかりません」
「毎年100人以上が亡くなっているんです。昨年度は134人でした」
「そんなに多いんですね」
「はい。 つい最近も、私が担当した、新人の冒険者が一人亡くなりました。つらいものです。知り合いの死は」
「……」
「アヤトさんは死なないでくださいね! 危なくなったらエリクサーを使うか、すぐに帰還の翼を使ってください! 絶対に無理は禁止です」
「わ、わかりました」
どうやらハルさんは情に厚いタイプのようだ。俺は、受付を後にした。




