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第28話 卒業 

修行を開始してから二ヶ月が経過した頃から、訓練は一気に激しくなった。


 早朝の食材調達から始まる朝昼晩の食事の準備。


 朝食後から昼食まで4時間ぶっ通しで行われる立会形式での戦闘訓練。


 昼食後に夕方まで日替わりで行われる特別訓練。


 夕方から始まるレベル×2Kgの重りを背負っての20キロマラソン。


 俺は、息つく暇もない過酷な修行に死に物狂いで挑んでいた。特に日替わりで行なわれる特別訓練は地獄だった。


 激流の川で迫りくる土砂を避けながら上流に向かって泳ぎ続ける「スタミナ強化訓練」、落下してくる巨大な岩や礫をを避け続ける「回避力強化訓練」、暗闇が広がる洞窟の奥に置いてきぼりにされる「探知力強化訓練」


 それに加え最近は、野生大型モンスターをナイフ一本だけで討伐するという無茶な訓練も始まっていた。


 毎日、動けなくなるまで無茶をやらせる師匠の修行は鬼畜だった。冗談抜きで毎日

(これはもう死んだ方がましだろ)

 と感じるほど苦しい日々だった。


 何度も逃げ出しそうになったり、強くなるのを諦めそうになったりしたが、その度にじいちゃんのことやルーナさんのことを思い出し、必死で食らいついていった。


 その甲斐があってから、レベルはさらに上昇し、【先読】と【探知】のスキル熟練度もどんどん上がっていった。


 また、85kgあった体重もみるみるうちに落ちてきていた。


 俺は、「絶対に強くなる」という強い情熱を胸に、常に限界を超える努力を続けていった。


 ♢ ♢ ♢ ♢  ♢


「よし! ステータスを見せてみろ!」

「わかりました!」


 三ヶ月の修行期間が今朝、終わった。

 俺と師匠は朝食を食べ終えた後、囲炉裏を囲んで座っている。


 俺は自分のステータスを開くと、師匠にも見えるように数値を書いていった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 氏名  影山絢斗 

 年齢  三十歳 

 レベル  30

 スキル 【先読】熟練度7

     【探知】熟練度5

     【敏捷】熟練度1

 基礎ステータス レベル強化ステータス


 体力  134 体力  2125

 攻撃力 128 攻撃力 2030

 防御力 121 防御力 1919

 素早さ 136 素早さ 2157


 −−−−−−−–−−–−−−−−−−−−–−−−−


「よくやったよ! お前は!! 」

 師匠は珍しく俺のことを褒めてくれた。その真剣な表情から演技ではないことが伝わってくる。 


「ありがとうございます!」

 俺は嬉しくなって深々と頭を下げた。



「いやー、正直、ここまでレベルをあげるとは思ってなかった! お前には30まで上げろと言ったが、絶対に無理だと思っていたぜ! 20レベルから30レベルにあげるには俺の修行をまともやっても一年はかかるからな。しかもお前はレベルが4からだったし」


(んっ? 普通なら無理だった? どういうことだ?)

 俺は、師匠の言葉を聞いて疑問が浮かんだ。


「えっ? じゃあなんで僕のレベルは3ヶ月で30まで上がったんですか? 師匠に言われた通りの修行をしただけですよ?」


「いやさ、お前がなんか強くなりたいとか、バッキバキのやばい顔で言ってたからさ、どこまで本気なのか試してみたくなっちゃってな。実は、いつもよりも三倍ぐらい厳しい課題にしてみたんだ!」


「えっ⁉︎」

 俺は師匠の話を聞き言葉を失ってしまう。


「いや、お前がすぐに音を上げると思ったんだが、お前が一度ももう無理ですって言ってこなかったから、俺も面白くなってな。どんどんエスカレートしちまったんだ! 悪い悪い!今までの弟子たちは三日目ぐらいで音をあげたからさ……」


「……」

 衝撃の事実を聞き、俺はまだ言葉を見つけられない。


「あまりにもお前が折れないもんだからさ、特別訓練とか言ってな、途中からさらに無茶な修行をやらせてみたんだが、それでもお前は喰らい付いてくるからびっくりしたよ……」


「師匠!!」


 あまりの言葉につい今まで堪えてきた怒りが溢れそうになる。


「まぁ、そう怒るなって! 結果的にお前は異常な成長を遂げたんだから! 今までの弟子の中でお前が1番だったぜ!」


 師匠の言葉を聞き、俺は嬉しくなってしまった。上手く丸め込まれたような気もするが。


「【先読】と【探知】の熟練度もよく上げたな! 昨日新しく得た【敏捷】のスキルも素早さが高いお前に合ってるぜ。これからも磨いていけよ!」

「はい!」


 師匠に褒められ、俺は素直に嬉しかった。というのも、この三ヶ月間、師匠はあまり褒めてくれなかったからだ。頑張りを労ってくれることはたまにあったが……。


「よしっ! 良いだろう! ちょっと待ってな!」


 そう言うと師匠は立ち上がり、どこかへ行った。しばらくして戻ってくると俺に一枚の紙を手渡してきた。

 そこには【冒険者養成所 卒業証書、特別教官コース アヤト=カゲヤマ】と書かれていた。


「おぉ! 卒業証書ですね! うれし……」

 俺は証書をもらえたことが嬉しく、テンションが上がりかけたが、その紙をよく見ると、

 紙は黄ばんでいたり、シワが入っていたり、何かを溢したような後もあった。それを見て、若干萎えた俺は師匠に尋ねた。


「このシワって……?」

「許せ! ここ十年弟子をとってなかったんだ。探してみたが、それしか無かったんだ!

 でも大丈夫だ!紙は本物だから! 普通の卒業証と違ってな。特別証書だからな、冒険者登録をする際はなにか特典があったはずだぜ! 忘れちまったけど!」


「ありがとうございました!」

(ここまで指導してくれたんだ。これぐらい我慢しよう……。特典もあると言っていたし)

 そう考えた俺は不満を抑え込んだ。そして、

 三ヶ月間、気になっていたことを尋ねた。


「お金はいくらお支払いすればいいでしょうか?」

「あっ? 金なんていらねょよ。 飯も風呂もお前がやってたんだ! それで十分だ!」

「師匠……」

「それに。おれは冒険者をやってた三十年間で使いきれねぇほどの金を稼いだからな! 金はいらねぇよ」

「ありがとうございます!」


 師匠は間違いなく超ドSで異常者で、鬼畜だったが、最高の師匠だった。前のパワハラ上司と同じに考えた自分をぶん殴ってやりたいぐらいだった。ぶっきらぼうで良い加減だが、漢気や優しさも併せ持っていた。そしてアドバイスはいつも的確でわかりやすかった。


 今なら、この人がなぜ元モルド一の冒険者で、養成所に二人しかいない特別教官なのかということが理解できる。


 俺は深く深く、頭を下げた。


「そういえばお前、初級者向けコースは卒業だが、上級者向けコースはまだ残ってるぞ! 

 お前さえ良ければいつでも来いよ!! 二ヶ月でさらに強くなれるぞ!」


「えっ? そんなのもあるんですか?」

「ああ、見込みがありそうな奴だけだがな」

「是非受けたいです!」


「わかった。ならとりあえず、冒険者ランクを上級ぐらいまではあげてこい。その間に特訓プランを立てといてやるから」

「ありがとうございます! そっちのコースも無料ですか?」

「いや、そっちはただじゃねぇ。俺の技術の全てを教え込むんだ! 流石にな」


(そっか、そうだよな……。いくらだ? 五百万でも一千万でも受ける価値あるぞ)


「あの? いくらですか?」

「うまい酒百本だ! 酒の種類や価格は問わねぇが、この町では手に入らないやつもちゃんと混ぜろよ!」


 それを聞いて、実に師匠らしいなと思ってしまった。


「わかりました。最高のやつを用意します!」

 俺は、最高の笑顔でそう口にした。












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