第26話 因縁
次の日、師匠が俺を連れていった場所は洞窟だった。かなり入り組んでいて長い道を俺と師匠は奥へ進んでいった。師匠が洞窟内の生き物や植物を解説してくれるため、俺は楽しかった。
しかし、一時間ほど歩き続けたとき、師匠が急に「アイテムボックスと武器をよこせ」と言ってきた。
嫌な予感を感じながらそれらを師匠に渡すと、「スキルを使って戻ってこい! と言って走ってどこかへ行ってしまった」
真っ暗闇の中、服以外何も身につけていない俺は取り残されてしまった。
師匠の鬼畜ぶりは散々わかっていたつもりだったが、俺は自分の認識が甘かったことを痛感した。
しかし、
(絶対に強くなる)
と完全に心が定まっていた俺は前のようにそこまで動揺はしなかった。ただ、
(あいついつか殴ってやる!)
という強い思いを胸に、俺は歩き始めた。
結局俺はその後、七時間かけて洞窟から抜け出した。
探知スキルは初めは自分の周囲五メートルの様子しか探知できなかったが、使い続けていたら熟練度が二になり、探知できる範囲が周囲十メートルまで広がった。洞窟内は迷宮のように広がっていたが、なんとか脱出した。
山小屋に戻った時、師匠は酒を飲んでいたようで、酒瓶の横で腹出して仰向けに寝ていた。頭を蹴り上げてやろうかと真剣に悩んだが、なんとか理性が勝ち、俺は日課の十キロランニングをするために山小屋を後にした。
その後もこの洞窟探索トレーニングは三日に一度の頻度でやらされ、俺の探知スキルはさらに熟練度を高めていった。
修行期間が二ヶ月を超えると、一日に二時間だけ、師匠が格闘術や、剣術などを教えてくれた。
もっとも師匠が強すぎるため相手にならず、一方的にあらゆる攻撃を受け続ける時間がほとんどだった。しかし、それでも師匠は、
「俺の攻撃を受けるだけで強くなるから安心しろ。見切る力も防御力も上がっていくから」と言っていたため、俺は信じて鍛錬に取り組んで行った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「いやー、なんか久しぶりだなあ」
修行を開始してからもうすぐ三ヶ月が経過しようとしている頃、俺は、久しぶりにモルドに来ていた。夕飯前にタバコと酒のストックがないことに気づいたらしく、俺が急遽、街まで買いに行くことになったのだ。
買い物を終えた俺は、北門近くにある「アルベルティ」という名前の酒場の前に通りかかった。人が出てきたタイミングで店内がちらっと見えたが、かなり広いようだ。大勢の客で賑わっているように見えた。
「良いなぁ。俺も久しぶりに飲みたいな」
そんな事を考えながら店の前を歩いて行くと、店の裏側から物々しい雰囲気の声が聞こえてきた。
「ガイア! 頼む! 許してくれぇ!! これ以上は!! お願いだぁ! 頼むよ! 死んじまうよ!」
「残念だが、それは無理だな! お前がぶつかってきたせいで俺様の服が汚れたんだ!! 罪は償ってもらわなくちゃな!」
「金ならもう20万ギルも払ったじゃないか! 許してくれよ!」
「だめだ! 俺はお前のようなカスを見ていると虫唾が走るんだよ!自分の身の程ってやつを教えてやるよ」
ガイアと呼ばれた刺青の男は、土下座をしている小太りの男性の頭を蹴ろうとした。
その瞬間、俺は素早く動き、男性を抱えて移動した。そして、アイテムボックスから一瞬でポーションを取り出し、男性に飲ませた。男性の傷は、みるみる回復していった。
「誰だ?てめぇ。邪魔してんじゃねーよ。殺されたいのか!」
その声に振り向くと、そこには刺青を全身に入れた男が立っていた。以前、俺に因縁をつけ、危害を加えてきた奴だった。あの時と同じように、養成所の試験の後絡んできたアルトと、もう一人もいた。俺にポーションを飲ませてきた男だ。
そのことに気がつくと、俺の心の中で、あの時の痛みや恐怖が込み上がってきた。
(落ち着け! 俺はもうあの頃の俺じゃない! 死ぬほど努力してきただろ!! ビビるな!)
俺は弱気になる自分に喝を入れた。
(こういう奴らには、毅然とした態度で接しなきゃだめだ!! よしっ!)
覚悟を決めると、俺は口を開いた。
「またお前たちはこんなことをやっているのか。全くロクでもないな!」
「どこかで見た顔だな?お前。もしかしてあの時のデブか?」
「ああ」
(気づいたか。 前よりも随分痩せたんだけどな。まぁいい。とりあえずこの人は逃がそう)
「もう逃げても大丈夫ですよ。今のうちに」
「あ、ありがとうございます!」
俺が声をかけると、男は逃げるように去っていった。
「何してくれてんだ! お前! またボコられてぇのか!! 」
ガイアはものすごい怒声をぶつけてくる。あまりの剣幕にビビりそうになるが、俺もまるでヤンキーにでもなったつもりで応戦しようとする。
「お前たちさぁ、まじでみっともねぇよ! 弱い者をいじめて、ストレスを発散して。しかも一人に対して三人でなんて。この世の生き物の中で一番醜い生き物に見えるぞ!!」
必死で考えた言葉は、なぜか煽り口調になってしまった
「ああ! 調子に乗るなカスが!」
刺青の冒険者、ガイヤは俺の顔面めがけて殴りかかってきた。俺は、その拳を右手で受け止めた。
「なっ? お前!!」
「ずっと聞きたかったんだよ。お前たちみたいな簡単に周りの人間を傷つけられる奴らに。どうして、お前たちはよく知りもしない人間をそこまでバカにして、蔑んで、傷つけることができるんだ!」
「ちっ! ちょっとレベルアップしたからって調子に乗りやがって! そんなの答えは決まってる! カスの人生なんて知ったこっちゃない! 傷つこうが死のうがしらねぇよ!! 弱い奴らは俺らの養分になって犠牲になるために産まれてきたんだよ! 恨むなら自分の生まれ持った弱さを恨むんだな」
ガイアの言葉を聞いて、俺は心の底から怒りが込み上げてくるのを感じた。
(どこにでもいるこういう人間が、俺みたいな人間をどれだけ傷つけてきたと思っているんだ! それに、こいつは、暴力を振るってきただけじゃなく、じいちゃんの刀まで踏みつけやがった! 許せない)
この前の光景が浮かんできて、俺の怒りも頂点に達する。
「呆れて言葉も出ない! 来いよ。その傲慢な心を潰してやる!」
「お前、よく前にあれだけボコボコにされておいてそこまで生きがれるな! 面白え、自分がゴミだってことに今度こそ気づかせてやるよ!おい! コスタ! アルト! 客を呼んでこい!」
「はい!」
「あそこでやるぞ」
俺は決闘サークルに入った。
「それで、ルールはどうするんだ?」
「ルール?」
「まじかよ、そんなことも知らないで俺と戦うのか!」
いつのまにか集まってきた野次馬たちが大きな声で笑っている。暇な奴らめ。
「おい。コスタ、説明しろ」
コスタと呼ばれた男が決闘の種類を説明していった。コスタによると決闘には三種類があるらしい。
一つ目は、スキルも武器も使わない。純粋な素手で行う決闘。
二つ目は、スキルも使用できる決闘。
三つ目はスキルに加えて武器も使用できる決闘。
「で、どれにするんだ! 選ばせてやるよ」
「別に、どれでも構わない」
「そうか。どうせお前みたいなカス冒険者は、ろくなスキルも武器も持ってねぇだろうから素手のみの決闘にしてやるよ!」
「ヒュー! やっさしい!」
「それで条件はどうする? お前から言っていいぜ」
「俺が勝ったらもうこの国から出ていけ」
「いいぜ! 負けないから」
「よっしゃ、次は俺の条件だ。俺が勝ったら、これだ!」
そういうと男は懐から黒い首輪のような物を取り出した。
「なんだそれは?」
「この首輪はな、ただの首輪じゃない! 爆弾がついているんだ。最近王都で囚人用に開発されたんだけどな、すげぇ代物だぜ! これは!
首輪をつけられた相手は、つけた相手が決めた四つのルールを破ったら爆発しちまうんだ!! どんなに離れていてもな!! 」
そこまでガイヤが口にしたところで、周りの連中がざわざわしはじめる。
「あんな物、どこで手に入れたんだ……」
「前々からいやれた野郎だとは思っていたが、ここまでとはな……」
などの声が聞こえてくる。
「ちなみに、相手に課すことができるルールは四つまでだ! これは首輪をつけた相手しか絶対に外すことができねぇ!! ハハハ! どうだすげぇ代物だろう! 横流しされたものを大枚を叩いて手に入れたんだ!! 俺が勝ったら、お前にこれをつける!お前を奴隷第一号にしてやるよ! 死ぬまでどぶさらいをさせてこき使ってやるぜ!」
狂ったように笑う姿を見て。
(こいつは絶対に野放しにしちゃいけないやつだ)
と俺は確信した。
「どうする? やるのか、やらないのか?」
「流石に条件が釣り合ってないな。お前のようなやつを国外に出したら他の国に悪い。俺が勝ったらその首輪、お前がつけろ! 奴隷なんて俺はいらないが、仕方がない」
「どこまでもスカしたやろうだ! いいぜ! 条件を飲もう! 三ヶ月前にレベル四だったやつに負けるわけないからな! この場にいるすべての観客が証人だ!」




