第24話 特訓の日々
(あのクソ師匠!いつかぜってーぶん殴ってやる!ふざけやがって…!)
二ヶ月後、俺は前日に大雨が降り、濁流となっている川を上流に向かって泳いでいた。いや、泳いでいると言っても滝のような水の勢いに少しも進んでは行かない。下流に流されないだけで精一杯だった。
(馬鹿野郎! クソ野郎! 鬼畜野郎! こんなことさせるなんて普通じゃない! アイツより強くなったらいつか痛い目に合わせてやる!!)
俺は文字通り、生き延びるために全力で泳ぎ続けるしかなかった。
俺の師匠はイカれていた。初めからなんとなく感じてはいたが、思っていた以上のイカれ具合だった。
修行が始まってからあっという間に二ヶ月が経過していた。ここまでの期間を一言で言うと地獄だった。
まず、師匠が俺に課した一日の修行メニューは、朝十キロ、夜十キロの合計二十キロのランニング。腕立て、腹筋、背筋、懸垂、ダッシュ、スクワットをそれぞれ三百回ずつ。
それに加え、三食の食事の準備、風呂の準備もあった。
ランニングと筋トレは死ぬほど苦しかったが、必死の努力で何とか乗り越えてきた。しかし、食事と風呂の準備がめちゃくちゃ苦しかった。
師匠は原始的な生活を送っていて、風呂の準備をするためには川まで500メートルはある急斜面の距離を十リットルほどしか入らない桶を持ちながら往復しなければ行けなかった。
俺は一日の訓練が終わった後に、たかが風呂のために何往復も崖を上り下りするしかなかった。それがなによりもきつかった。
また、食事の準備に関しては、師匠から食材は全て森の中から集めて来るように言われた。俺は毎朝五時に起き、朝一番に狩に行かなければならなかった。
さらに修行が始まって1ヶ月が経過した頃には、特別メニューも追加されていった。そのうちの一つが、今行っている激流登りだ。
初めは穏やかな流れから始まったが、一ヶ月経過した今では、川の一番流れが激しい場所を泳がされている。しかも今日は昨日深夜に降った大雨で、川は濁流になっている。
俺は、下流に流されないように必死で水をかきながら、上流から流れてくる流木や石などを左右にかわしていく。
俺の身体能力レベルは二ヶ月間で十九レベルへと上がっていた。それによりあらゆるステータスは上昇し、以前よりも身体能力ははるかに上がっていた。
でも……、だからといって……
(これはありえないだろ! 命をなんだと思っているんだ!)
俺の顔スレスレの場所を鋭利に尖った根をもつ大木が勢いよく流れていった。
(危なっ!)
防御力が上がっているとしても、下手したら大怪我を負うだろう。こんな無茶なことを考える師匠に悪態をつきながらも、集中力を高める。修行を開始してすぐ十レベルを超えた俺は、スキルを一つ獲得していた。
獲得したスキルは【先読】。このスキルは対象の動きをわずかな時間先読みすることができる。俺はこのスキルを使って上流から流れてくる土砂を交し続けていた。
スキルの熟練度はまだ二しかなく、少ししか先読みすることはできなかったが、今の俺にとってはありがたかった。
俺はその後、なんとか三時間泳ぎ続け、へとへとになりながら山小屋に向かった。
「おっ! 戻ったか! 今日も上手い飯を頼むぜ!」
(また飲んでるのか。死ぬんじゃないかと思うほどしんどい修行から帰ってきたんだ。お疲れぐらい言ってくれれば良いのに……)
山小屋に入ると師匠は囲炉裏の横で胡座をかき、酒を飲んでいた。まともな人間なら絶対に考えないような修行を俺に課しておきながら、それを気にもとめない師匠に対して毎日怒りを抱いていた。
しかし、「俺は変わるためにここに来たんじゃないか」と自分に言い聞かせ、全ての訓練に必死で食らいついていた。
「どうだ!先読のスキルは。」
夕食を食べ終えると、師匠が口を開いた。串のような物で歯に挟まったゴミをとっている。
「熟練度が三になりました。」
「よし、それなら明日から新しい訓練を始められるぞ!」
俺は嫌な予感がしたが、その予感は次の日的中することになった。
次の日、午前の訓練を終え、昼食を食べ終えた俺は師匠に呼ばれ、山小屋から十五分ほどの距離にある崖の下に連れて行かれた。
崖の高さは約二十メートル。灰色の岩肌が剥き出しになっている切り立った崖だった。
「お前はここで待て」
師匠はそう口にすると、ものすごい勢いで跳躍し、崖の中腹の辺りを蹴飛ばしたかと思うと、一瞬で崖の上に降り立った。
「すげぇ!!」
(この壁をたった2回のジャンプで飛び越えられるのか…!なんだかんだ言って師匠はすごい人なのかもしれない……)
そんなことを考えていると、崖の上から声がかかった。
「準備はいいかー?行くぞー!」
「えっ…!!」
訳がわからず、呆然と突っ立っていると、崖の上からおびただしい数の石が落ちてきた。
俺はたまらずスキルを発動させ、先読の力を使い落ちてくる石を交わし続けた。
一分ほど経つとやっと石は落ちてこなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
突然の出来事に、俺は死ぬ気で避け続けた。今何が起こったか理解できず、呆然と立ち尽くしている。すると崖の上から再び声がかかった。
「大丈夫だったかー?」
「大丈夫な訳ないだろ!頭おかしいのかアンタは!この、異常者が!」
と、叫びたい気持ちをなんとか抑え、俺は
「大丈夫です」とだけ答えた。さすがに師匠に向かって、面と向かって悪態をつくことはできない。
「よし! じゃあ次行くぞー」
「えっ?」
再び大量の岩が落とされ、俺は必死で避けていった。この日は結局、合計10回この訓練を繰り返した。何度か避けそこね、腕が折れたり、背中を切ったりしたが、後で師匠がポーションで回復してくれた。
「岩落とすなら先に言ってくださいよ!」
「あれ? 言わなかったっけ? まぁ、無事だったんだから良かったじゃねぇか!」
山小屋への帰り道、俺は不満を伝えたが、師匠はそんな感じだった。でも、師匠の話によると、この訓練を続ければ相手の攻撃を回避する技術が身につくらしい。さらに先読みスキルの熟練度も高められることから俺にはぴったりの訓練だという話だった。
夕食後に、風呂の湯を溜める為に湧水場から山小屋までを往復していると、俺のレベルが上がり二十レベルになった。慌ててステータスを確認してみると【先読】スキルの横に新しく【探知】スキルと表示されていた。
俺は急いで、水を汲み終えると、晩酌をしている師匠の元へ急いだ。




