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第23話 師匠

 建物の灯りを頼りに舗装されていない砂利の坂を登っていると、やっと建物が現れた。丸太を組み合わせて作られた丸太小屋のような外観をしている。


 俺がノックをすると、「入れ!」ということが聞こえ、俺は中に入った。 


 建物の中央には囲炉裏のような物があり、燃え盛る火の上に鍋が吊るされている。壁には槍や刀や鎌など、様々な武器がかけられていた。


「よろしくお願いします!」

 俺は、囲炉裏の横に座って酒を飲んでいる師匠に近づき、深々と頭を下げた。


「よく来たな! 堅苦しい挨拶は抜きにして、早速修行の話をしよう」

 師匠は器を置き、口を開いた。


「冒険者の強さはな、武器の力が4割、戦闘技術や身体能力、スキルなどの個人の力量が6割と言われている。自分に合った強力な武器を見つけるのは自分でやるしかない。俺が力になれるのは残りの6割の方だけだ」


「すなわち、修行の目的はこうだ。今日からの二ヶ月間、徹底的に身体に負荷をかけ、レベルを上げ、基礎的な身体能力を底上げしていく。そして、それと並行してスキルの熟練度をあげる修行を行なっていく。そして最後の一ヶ月間でできる限りの戦闘技術を仕込んでやる。」

「わかりました。よろしくお願いします!」

 

 どんな修行でも頑張るつもりだ。俺は深々と頭を下げる。


「よし! では初めに、お前のステータスを見せてもらおうか。人のステータスは見ることができない。自分で見て、この紙に書くんだ」

師匠は紙とペンを俺に渡してくる。


「わかりました」

俺は頭の中でステータスと唱えると、表示されている数値をそのまま書き写していった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 氏名  影山絢斗 

 年齢  三十歳 

 レベル  4

 スキル なし

 基礎ステータス レベル強化ステータス


 生命力 23 生命力 33

 攻撃力 12 攻撃力 15

 防御力 15 防御力 19

 素早さ 7 素早さ 9


 −−−−−−−–−−–−−−−−−−−−–−−−−

 俺は、ステータスを書いた紙を師匠に見せた。すると、一瞬の静寂のあと、大声で笑い始めた。


「まじかよこれ!! あっはっはっは!! 信じられねぇ!!」


 俺は、若干の恥ずかしさをあったが、強くなると決めた以上、今の弱さは受け入れるしかないと思っていたため、前ほどではなかった。

 

 それにしても、ちょっと笑いすぎだ。床をバンバン手で叩いて笑っている。


 しばらくして、やっと笑いが収まっできたのか、師匠が口を開いた。まだ、口元はにやけていたが。


「いや、すまんすまん。こんなステータス初めて見たんでな。ちょっと笑いすぎた! いやー、でもお前、よくこんなレベルで養成所の試験を受けようと思ったな! 逆にすげーよ!」

「低くてすみません!!」

「いや、別にかまわねぇよ! 俺の修行をこなせばめちゃくちゃ上がるしな。むしろここからどこまで上がるか楽しみだぜ! 頑張れよ!」

「はい!」


「でも、それにしても三十歳でこのレベルって、お前は宇宙人かなんかなのか? 普通子供でもこれぐらいのレベルは行くからな」

「ははは」


 俺は笑ってごまかしたが、

(その通りなんだよ)

と心の中で呟いた。


「よし、じゃあ、ステータスについての話をするぞ。分かると思うが、左側の基礎ステータスってやつが、お前の現在の身体能力だ。筋肉の量だったり、身体のバネだったり、色々な要素が計算され、そこに表示されている」


「はい」

「そして右側だ。右側のレベル強化ステータスはお前の基礎ステータスに、レベルに応じてプラスの補正がされて表示されているんだ」

「なるほど」


「そのレベル補正は1レベルにつき、約1.1倍がかけられているんだ。だから例えば、お前の生命力は23の基礎ステータスに1.1が3回かけられて、33に補正されている」


(なるほど、そういう仕組みになっていたのか。この人、大雑把に見えて、ちゃんとそういう説明はしてくれるんだな。ありがたい)


 思っていたよりも師匠は几帳面な性格のようだ。俺は話を聞き漏らさないように集中する。


「俺の訓練は短期間でレベル30まで到達させることを目標としている。お前の生命力が23だとして、お前が死ぬ気でがんばり、レベルが30までいったとする。その時のお前の生命力は23に、1.1が29回かけられて、うーんと、そうだな。ああ、364まで上昇する」

「なるほど」


「お前、この364という数字を見てどう思う?」

師匠は紙に書いた数字を指差し尋ねてくる。


「えーと、正直、こんなに上がるんだなと……」


俺の答えを聞くと、師匠は呆れたような顔をして叫ぶ。


「ばかやろう!! 30までレベルを上げといて364だなんて低すぎなんだよ!! お前は基礎ステータスが低すぎるんだ! どれだけ生ぬるい人生を過ごしてきたら、ここまで低い能力になるんだよ! 」

「す、すみません」


「いいか? 俺の基礎体力はな、189だ! 50歳になった今でもこれだけあるんだ。まぁ、かつてモルド最強の冒険者だった俺と比較するのは酷だけどよ。お前の基礎身体能力が低すぎるんだ! 少なくとも3ヶ月で全てのステータスを100にはあげろ! そうすればレベルによる補正もさらにかかって、なかなかの数値になる!」


「はい!」

「そのために、本来はやらせないような特別な訓練もやらせるからな!! 覚悟しろよ!」

「わかりました!」


 師匠の説明はわかりやすかった。俺は、この人についていこうと改めて決意を深くする。



「じゃあ、修行期間中のルールを伝える」

「はい!」

「一つ、俺の指示は絶対だ! 口答えは許さない!」

「はい!」


「二つ、よく食べ、よく寝ろ! それも大事な修行だ!」

「はい!」


「三つ、死ぬ気でやれ! 人の十倍やるぐらいじゃないとお前は周りの奴らに追いつけないぞ!!」

「わかりました!」


「よし! では修行を開始する! まずは酒のつまみを作れ!」

「えっ?」

 最初の指示を聞いて俺は戸惑ってしまった。夜の筋トレとかランニング、または立ち合い稽古のようなものを想像していたからだ。


「えっ、じゃない! 師匠に給仕するのも修行の一つだ! 今日から、飯も、風呂も、酒のつまみも、掃除も、全てお前がやるんだ!!」

「わかりました!」


 しかし、これも修行という言葉を聞いて、俺は覚悟を決めた。


(俺は強くなるためにここに来たんだ!! 師匠を信じて突き進むしかない!! どんなことでもやってやるぞ!!)


こうして俺の修行生活が始まった。



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