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第21話 じいちゃん

「三本とも神聖武器をはるかに上回る強さを秘めている。本当に信じられん! お前さん、この刀はどこで手に入れたんだ?」


「こ、この刀はじいちゃんが昔……」


 俺は子供の頃に今は亡きじいちゃんに三つの刀をもらったことを伝えた。


「そうか」

 店主はそう口にすると、何かを考えるように黙り込んでしまった。


「どうして、じいちゃんの剣が……」


(ただの木でできたおもちゃのはずだよな?

じぃちゃんは間違いなく普通の人間だったし……。意味がわからない……)


 そんなことを考えていると、店主がおもむろに口を開いた。


「昔、私は祖父に聞いたことがある。神聖武器は鍛冶職人の特別な想いを受けて作られると。武器にこめた職人の想いが強ければ強いほど、武器の力は高まるのだと。もしかしたら、お前の祖父は、その刀に愛情や願いなどの特別な想いを込めたのかもしれないな」

 

 店主の話を聞いた時、俺の心臓はドクンッと脈打った。頭の中で何かが弾け、昔の記憶が蘇ってくる。


 それは、じいちゃんの声を最後に聞いた日のことだった。

 

 中学二年生の頃、俺はいじめられて家に引きこもっていた。初めは優しかった両親も、月日が経つにつれ、次第に俺を見る目が変わっていった。


 明日は学校に行くと言っておきながら、約束を破り続けた俺も悪かったが、次第に両親の俺への扱いは冷たいものに変わっていった。腫れ物に触るような……。おかしな物でも見るような……。

 

 そんなある日じいちゃんが家に来た。一階のリビングで両親と何か会話をしているのがわかった。


 俺は自分の部屋にいて、話の内容はあまり聞こえてこなかった。でも、一つの言葉だけは完全に聞き取れた。


「あいつはダメなんかじゃねぇ! お前たちが信じてあげられねぇでどうするんだ!」

 

 部屋で聞いていた俺は、涙をながしていた。


 そして、話が終わるとじいちゃんは俺の部屋の前にやって来た。話をしないかと言われたが、俺は何も答えることが出来なかった。じいちゃんはそれでも、扉の前で叫んでくれた。


「絢斗、お前はダメな奴なんかじゃない!! きっとお前は将来立派な人間になる! それは間違いない! だから、今どんなに辛い状況にあっても、お前がお前のことを諦めるなよ! じいちゃんはずっとお前の幸せを願っているからな!!」

 

 その言葉は確かに俺の心に届いていた。しかし、今の情けない姿を見せたくなくて、俺はその時扉を開けることができなかった。


 それがじいちゃんとの最後の会話になった。


 その映像が頭の中で流れ終わった時、俺は両眼から溢れ落ちる涙をどうすることもできなかった。


(なんで、なんで忘れてたんだ。こんな大事な記憶……。こんな年になるまで……)


 (じいちゃんはずっと、俺のことを信じていてくれたんだ。子供の頃からずっと。俺のことを……。)

 心の中を激しい後悔と暖かい愛情が駆け巡っていく。


 俺の頭の中で、今までに経験した辛いこと、苦しかったこと、トラウマになっている出来事が走馬灯のように駆け巡っていく。


 クラスメイトに虐められ、好きだった子には避けられ、受験には失敗し、家族にも冷たくされた。友達には裏切られ、上司からはパワハラを受け、異世界では理不尽な暴力も受けた。

 何度も何度も引きこもりになっては、自堕落に、無気力に生きてきた。


 俺はたぶん、人よりも虐げられて生きてきた。存在を否定され、お前はダメな奴だと言われ続けた人生だった。


 そして、俺の人生は確かに、最悪な人間、最低な人間に何度も台無しにされた。それは間違いない。


 でも……。でも最後は、俺が俺を諦めてしまったんだ。俺が自分で自分を否定して、小さなからに閉じこもっていったんだ。そこからは人生の坂を転がり落ちるように駄目になっていった。


 他人の悪意や中傷で傷ついた心に、俺の弱さが混ざり合い、絡まり合ってここまで来てしまったんだ……。


 どんなに辛いことがあっても自殺だけはしないでにここまで生きてきたことは自分を褒めてあげたい。


 でも……。

 

 俺の中で燃えるような決意が込み上げてくる。


(このままじゃだめだ!!このままじゃ俺は変われない!! 強くなれない!! 今度こそ弱い自分とおさらばしよう!!)


(あの時、「あいつはダメじゃない」と叫んでくれたじいちゃんのためにも! 亡くなってからもずっと俺を支えてくれる刀を作ってくれたじいちゃんのためにも!!)


 俺の身体の中には今までにない熱い思いがこみあげてくるのを感じる。頭の思考は冴え渡り、心の底からとめどなくエネルギーが溢れてくるのがわかる。


 俺は心の中でじいちゃんに対して語りかける。


(ごめん。じいちゃん……。じいちゃんはこんなにも俺の幸せを願っていてくれていたのに……。俺、元の世界ではうまくやれなかったよ……。現実の辛さから逃げて逃げて逃げて。みんなの期待を裏切った。でも、今度こそ、今度こそ成長して立派になってみせるよ! じいちゃんが天国から安心して見ていられる自分に!)


 俺は握りしめた手にさらに力をこめる。


(俺は変わる! 絶対に変わるぞ!! 強くなるんだ! なんとしても!!)


 くめども尽きない泉のように、熱い思いが心の底から溢れてくるのを感じていた。俺は、覚悟を決めた。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「お前さん。 大丈夫か?」

 店主のおじいさんの声が聞こえてきて、俺は涙を腕で拭った。

「大丈夫です。すみません。ちょっと昔のことを思い出しちゃってました」

「そ、そうか。いや、良いんだ。気分でも悪くなったのかと思っただけだから」

「大丈夫です。ご心配をおかけしました」


 俺は、作業机の上に置かれていた。三本の刀に視線を向けた。この刀たちに込められたじいちゃんの愛情や期待が、今ならわかる。

 俺が、一見ただのおもちゃである刀たちをお守り代わりにしてきた理由も。


(ありがとうじいちゃん。俺、がんばるからな!)

 

 俺は、店主に視線を写し、口を開いた。


「この刀たちはじいちゃんが俺の幸せを願って作ってくれた物でした。今まで、忘れてましたが、今でははっきりとじいちゃんの想いを感じられます!」

「そうか。それは良かった!」


 主人がそう口にしたタイミングで、いきなり店の外から陽気な声が聞こえてきた。


「やったぜぇー!!」

「ああ! 最高だぁー!! イェー」

 どうやら路上で飲み食いしているようだ。


「流石にすごい騒ぎじゃな!! まああのレヴィナントが倒されたんだから、騒ぐのもしかたあるまいがな! 領主様がレヴィナントように貯めておいた食料を全て領民に解放してくれたそうだし、そりゃあお祭り騒ぎにもなるか」


「みんな嬉しそうですね」


「それにしても不可解じゃよ。あのレヴィナントが討伐されるなんて……。王都の冒険者でも無理だったのに……。んっ?」


 そこまで口にすると爺さんは何かに気付いた顔をしながら、俺と作業机の上の刀を交互に見てきた。


「ま、まさか!! レヴィナントは、お前さんが……!!」


 俺は、しまったと思ったが、鑑定してもらう以上こうなることを少し予想もしてはいた。

「まあ、たまたま、うまくいっただけですよ」


「やっぱりか!! こんな聖剣以上の代物を持っているんだ! そうじゃないかと思ったよ!!  おまえさんはこのことを誰かに言ったのか?」

「いえ」

「なぜじゃ!! 街の、いや世界の英雄になれると言うのに!! 未だかつて厄災モンスターを倒せた者はいないんじゃぞ! 一躍時の人だ!! こうしちゃおれん! わしが代わりに伝えてやろう!」

 

 爺さんは興奮した様子で、外に走って行こうとした。俺は慌てて爺さんを静止する。


「やめてください!! 僕は注目されるのは好きじゃないんです! それにあいつを倒せたのはじいちゃんの刀のおかげです! 僕の力じゃない!!」


「謙遜するな! さっき話したとおり、武器から忠誠を得るだけでもすごく難しいことなのだ! 冒険者の実力には武器の力も百パーセント含まれる。これはこの世界の常識じゃ!!」


「すみません。それでも僕は、じいちゃんの刀で有名になりたくはありません。ご主人! このことはここだけの秘密にしてくれませんか? この通りです!!」


 俺は深々と頭を下げた。


「はぁ……、わかったよ」

 おじいさんは諦めたかのようにため息を吐く。


「全く、このおいぼれにこんな大きな秘密を抱えろと言うのか。なんて酷な」

「すみません。都合がいいのはわかってます。あの、秘密にしていただけるならお金も払います」

 

 俺は、金が入った封筒をアイテムボックスから取り出そうとした。


「いや、待て待て! この世界の悩みの種を一つ消してくれた英雄に金など払わせるわけないじゃろう!! わかった。誰にも言わないよ」

「ありがとうございます!」

「礼を言うのはこちらの方じゃ、あいつを倒してくれてありがとう。町の住人を代表して言わせてもらうよ」

「いえいえ」


「まだ聞いてなかったな。お前さん、名前はなんというんじゃ?」

「影山絢斗です」

「そうか。わしは50年この町で武器屋をやっているコルドだ。アヤト、たまにはこの店に顔を出してくれよな! お前さんにもう武器は必要ないかもしれないがな!」


「わかりました。あの、僕もう行きますね! 鑑定料はいくらでしょうか!」

「街の英雄から金を取るわけないじゃろ!」

「えっ? でも……」

「もし、良い武器をダンジョンとかで拾ったら買い取らせておくれ」

「わかりました。本当にありがとうございました!」


 俺はコルドさんに深々と頭を下げ、武器屋を後にした。







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