第14話 スキル
「あら、お疲れ様。今日も泊まっていく?」
宿の扉をあけると受付に座っていた女将さんは笑顔で受け入れてくれた。
「すみません。今日も良いですか?」
「もちろん構わないよ。泊まってくれると助かるよ。最近安い宿が増えて、満室になることも減ったしね」
「ありがとうございます。その、ここって連泊とかってできたりするんでしょうか? 正直、あまり他に行くあてがなくて……」
金も持たずに泊めさせてもらおうとしたんだ、他の宿屋からの印象は最悪だろう。お金があれとはいえ、行くのはためらってしまう。
「連泊? もちろんできるよ。連泊してくれたらうちも助かるよ! 連泊サービスってのもやってて、少し割引もできるよ!」
「ありがとうございます。じゃあお願いしても良いですか?」
「何日ぐらい泊まっていく?」
「予定は決まっていないのですが、とりあえず五泊ぐらいでお願いします」
「わかった。じゃあ一泊七千ギルの所、連泊割りで一泊六千にできるから五日間で三万ギルだね。お金の方は平気なのかい?」
俺がルーナさんからお金を借りていることを知っているから気を遣って尋ねてくれたのだろう。俺はおばさんの言葉に笑顔で答える。
「大丈夫です」
俺は、女将さんにならいいと思って、先ほど買取所で得た封筒を取り出し中身を見せた。
「えっ? すごいじゃないか!」
「今日の狩りで頑張ったら、これだけの額になりました」
「やるねー! 一日でこんなにかい! 一流の冒険者が稼ぐ額だよ! いや、たまげた!!」
「実は、まだ換金してないアイテムもあるんです。しばらくはお金の心配は大丈夫そうです」
「いやー。本当に凄い! よく頑張ったね!」
女将さんに褒められて、嬉しかったが、俺は逆に女将さんへの感謝の気持ちが込み上げてきた。
「女将さんのおかげですよ。髪や服装を整えてくださったので、今日は誰からも白い目で見られませんでした。おかげで色々なことがうまくいきました」
「そうかい。それは良かったよ。まぁ私はこの街に住んで長いし色々なことを知ってるから、困ったことがあったらいつでも頼んな!」
「ありがとうございます」
女将さんの言葉が胸に響いてきて心が暖かくなってくる。まじで良い人だ。
「なので、連泊割引とかは使わなくて大丈夫です。ちゃんと割引前の金額でお支払いしますよ」
俺は、少しでも女将さんに恩返ししたかったため、そう口にする。
しかし、
「バカ言っちゃいけないよ。サービスはサービスだ。割引させておくれ。あんたも大切な客の一人だからね! 甘えるわけには行かないよ!」
女将さんの言葉を聞いて、この人はかっこいいなと素直に感心してしまった。とても芯がしっかりしてる性格のようだ。ここまで言われたらもうなにを言ってもだめだろう。
しかし、このままじゃ、俺の気が収まらない。俺は考えた挙句、あることを閃き、口を開く。
「わかりました。では女将さんのお言葉に甘えさせてもらいます。お金を今お支払いしても良いですか?」
「ああ、構わないよ。五泊で三万ギルだよ」
俺は封筒からお金を取り出すと女将さんに渡した。そして、女将さんがお金をしまうのを確認すると、口を開いた。
「女将さん。すみませんがお願いしたいことがあります」
「んっ? なんだい?」
頼られるのが好きなのか女将さんは笑みを浮かべている。
「実は、今日手に入れた食材で食べてみたいのがあって、それをお渡しするので泊まっている間に調理して頂いて食事の時に出して頂きたいのですが……」
「食材の持ち込みだね? 構わないよ。むしろ助かるよ! どんな食材なんだい?」
「ここに出しても良いですか?」
俺はテーブルを指さしながらそう口にする。
「ああ、構わないよ」
俺はアイテムボックスから
【三又角鹿の霜降り肉】二キログラム
【紫紺水牛の霜降り肉】二キログラム.
【華蜜蟻の蜜】五百グラム瓶
を出し、それぞれの品の名前を伝えた。
「ええ! こんな高級食材を使っちゃって良いのかい? っていうかすごい量だけど!」
「僕が食べてみたいだけなので、もし余った分は他のお客さんに回したり女将さんも食べてください」
俺の話を聞くと、女将さんは一瞬、申し訳なさそうな顔をしたが、俺の意図が分かったのかすぐに笑顔になった。
「よし! なら腕によりをかけて美味いものを作るよ。今日はもう作ってあるから明日からだけど」
「ありがとうございます」
ささやかな恩返しだけど、喜んでもらえたみたいだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
その後、部屋に案内され、ゆっくり風呂に入った俺は夜八時ごろ夕食でロビーに呼ばれた。
今日は他にも三人ほど客がいるらしいが、みんなもう夕食を食べ終わって部屋に戻っているらしく、ロビーのテーブルには俺と女将さんしかいなかった。
部屋の天井には六箇所であかりが灯されているため夜でも結構明るい。おかみさんが出してくれた夕食は魚料理が中心のものだったがとても美味しかった。
「明日は、冒険者養成所に行って、試験を受けようと思うのですが、なにか持ち物っているんですかね?」
女将さんもテーブルに座ってくつろいでいたため、食事を食べ終わったタイミングで気になっていたことを聞いてみた。
「いや、持ち物は試験料があれば大丈夫なはずだよ! でもアヤト、明日はそもそも試験をやってないよ!」
「えっ?」
「養成所の入学試験は十日、二十日、三十日と、0がつく日しか行われないんだ。明日は十九日だから開催されない。行くなら明後日だね!」
「そうだったんですね。全然知らなかった!」
女将さんの話を聞き、俺はショックを受けた。やはり俺は知らない事ばかりだ。でも、まだ試験日が明後日で良かった。十日後とかだったら最悪だった。
それにしても俺はこの世界のことを知らなすぎる。これは命取りになるなもっと学ばなければ。そう考えた俺は、女将さんに気になっていたことを尋ねてみた。
「スキルってどういうものなんですか?」
俺の質問に女将さんは目を見開いている。
「へっ? あんた、スキルのことを知らないのかい?」
「はい」
「驚いた!今までどうやって生きてきたんだい。スキルを知らないなんて……」
「僕が生きていた国では、スキルというものがなかったので……すみません」
「いやいや、別に謝ることじゃない。世界にはスキルがない国があるのかもしれないしな。気にしないでくれ。私で良かったら知ってることを話すよ」
「お願いします」
「あんた、私の料理食べてみてどう思った?」
「正直、めちゃくちゃ美味しかったです。今まで食べてきた中でも1番って言って良いぐらい」
「うれしいね。じゃあ、私が切った髪型は見てどう思った?」
「めちゃくちゃ僕に似合っていて、気に入っています」
今、口にしたことは、お世辞ではなく本当に思っていることだった。正直日本にいた頃に切ってもらっていた床屋より今の方が遥かに良い。
「これがスキルの力なんだ。スキルは人間の限界を超えた不思議な力をもたらしてくれるんだ。私は今まで、真剣に料理の勉強をしたことも髪を切る練習をしたこともない。でも、できてしまうんだ。スキルがあれば」
「レベルが上がると身体能力が上がることはしってるかい?」
「はい」
「レベルが10上がるごとにスキルは一つ手に入るんだ。私は若い頃に21レベルまであげたから二つのスキルを手に入れられたんだ。それは【調理】スキルと【散髪】スキルの二つさ」
「名前の通り調理スキルは料理のコツが直感でわかるようになる。散髪スキルは髪を切るコツがわかる。そのスキルを手に入れた瞬間からね」
「すごいですね!」
現代の地球では考えられない力に素直に驚いてしまう。
「ああ。それと、スキルには熟練度があってな。スキルを使えば使うほど熟練度が上がって、能力が増すんだ。熟練度は十段階あって、私の調理スキルはレベル6で散髪スキルはレベル3さ」
「なるほど。スキルってすごいんですね! 他にも種類ってあるんですか?」
「他にもあるよ。確か現時点で三十種類以上は確認されてたんじゃないかな? 私もあまり詳しくは無いけど……」
「えっ? そんなに種類があるんですか?」
「ああ、冒険者向けのスキルも多いよ。空中に浮くことができるスキルだったり、足が速くなるスキルだったり、力が強くなるスキルもある」
俺はその話を聞いて興奮してしまう。人間の力を超えた超常的な力は子供の頃からずっと欲しかったものだった。
「ええ! すごいですねそれ! 良いなぁ!」
「詳しく知りたかったら、明後日養成所に行った時に教官に聞いてみな。全部教えてくれるよ。私は冒険者じゃないから、そこまで詳しくないんだ」
「わかりました。ちなみにレベルってどうすれば上がるんですか? たくさんモンスターを倒したのに上がらなかったので……」
俺は気になっていたことを尋ねた。
「レベルはさ、自分の体や心を鍛えることでしか上がらないんだよ。私も若い頃はスキルを手に入れるために毎日トレーニングをしたよ」
「えっ? 女将さんも? 」
「そうさ。私も昔は冒険者に憧れていたからね。まぁ、一つ目のスキルも二つ目のスキルも冒険者向けじゃなかったからすぐ諦めたけどね」
「スキルの獲得ってランダムなんですか?」
「色々な説があってね。ランダムだとも必然だとも言われてるんだ。私の場合、結果としてはいまのスキルで助かってるよ」
「そうなんですね。あれ? でも、スキルって10レベルごとに獲得できるんですよね? 女将さんの場合、次は30レベルで……」
「20レベルと30レベルの間には大きな壁がまだあるんだよ。だからほとんどの人は30レベルにたどり着けない。30レベルを超えていけるのは一流の冒険者たちだけなんだ。よほど厳しい訓練を積まなきゃいけない」
「そうなんですね」
「だからこの町のほとんどの人間は二十レベルちょっとさ。でも、あんたは冒険者になるんだから30レベルの壁も越えていかなきゃな」
「頑張ります!」
他にも1ヶ月が36日あることやモンスターの素材を使った製品のことなど、色々なことを女将さんは教えてくれ、俺は少しだけこの世界のことを知ることができた。
いつのまにか22時を超えていてしまったため、俺は女将さんに礼を伝えると部屋に戻った。




