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第91話 猛毒の経過


 猛毒はやがて柊の肌を溶かし、体内へ。


 「俺の毒は粒子が残ってりゃ、そこからどんどん毒性を増していくぜ。つまり完全に除去するのは不可能に近いってわけだ。ましてや、おめぇみたいに全身に被っちまった時はな」


 「不可能だ、とは言わないんだね」


 柊が全身に術水の膜を張る。

 溶けた肌がそこらに散らないようにするためだ。


 「っにしてもまだ死なねぇたぁ、おめぇの肉体もなかなか強靭だな」


 「猛毒がその程度だったってことじゃない?」


 煽る様に柊が言うと、獰猛に牙を剥き出し、波論が毒麟芽爪を構えた。


 「もっと欲しいってんならそう言えや」


 (さっきは身体の半分くらいしか見れなかったけど、一つわかったことがある。こいつ、体内の臓器の構造が歪だ。そこに、破毒律(はどくりつ)の絡繰があるのだとしたら、もっと深くまで見ないとダメか)


 柊の両眼は【体内を覗く可能性】により蒼白く輝いている。だが、その輝きには先ほどまでなかった、濁りがあった。


 既に猛毒が柊の両目まで浸透し始めているのだ。

 猶予は幾許もないだろう。


 柊が攻撃を仕掛ける。


 「仮想実現、可能性の剣」


 正面の術印に術水を注ぐと、柊の周囲に弧を描く様に二〇本の剣が現れた。


 柊がクイッと人差し指を曲げると、それを合図に二〇本の剣が一斉に飛び出した。その全ての剣の標的は、波論に向いている。


 「腐らせてやる」


 無作為に飛び交う剣の一本目を波論は身を捻って躱し、二本目から一〇本目を爪でいとも簡単に弾き飛ばした。


 毒麟芽爪によって弾かれた可能性の剣は腐り果て、ボロボロと地へ落ちていく。


 残る一〇本の剣も躱し、あるいは爪で弾く。


 「追加」


 柊の周囲に新たに三〇本の可能性の剣が造られた。


 「いくらやっても変わらんぜ、そんな鈍剣(なまくら)じゃあな。完全体の本気、見せてみろや」


 先ほど放った二〇本の剣のうち波論が躱した数本の剣が旋回し、再び背から波論に襲いかかる。


 「鬱陶しいなぁ」


 視線は柊をまっすぐに射抜いたまま、波論は背後から迫り来る数本の剣を全て蹴り砕いた。


 その瞬間、柊の周囲に再び造られた三〇本の可能性の剣が放たれる。


 「倍は()ぇとものの数じゃねぇ」


 三〇本の放たれた剣を追うように柊も飛び出す。


 柊の目の前で剣が波論と対峙してはその瞬間に砕かれ、剣身の破片がそこらに散らばる。


 半分ほどが砕かれたところで柊が波論の懐へ飛び込んだ。


 「うぉっと……」


 だが柊も、闇雲に突っ込めば波論の懐には到底入りきれぬことは分かり切っている。


 【自身を刀身と誤認させる可能性】。


 深紋に少し干渉することで、より精密な術水操作を行う。深紋の影響を受けた可能性の実現ならば、波論の目をも欺けると実行した賭けの飛び込みである。


 柊の思惑通り、波論の目には三〇本の剣の中に、剣に変装した柊がいることを見抜けなかった。故に懐へ入り込むことが出来たのだ。


 「ほほう」


 柊が自身の懐へ潜り込み肉薄したと認識してから一秒にも満たず、波論は爪撃を繰り出した。


 眼前のその身を八つ裂きにするも、それは先ほど同様、既に過去の身体だ。引き裂かれたところで、現在を生きる柊は既に後退している。


 「俺の目を欺くたぁやるじゃねぇの」


 関心を装ったような乾いた言葉だった。


 「分かったよ。君の権能の絡繰が」


 「ほう。なら適応してみろやっ」


 言葉と同時に波論が爪撃を繰り出す。


 一発目を術水の壁で防ぐも、その壁にはすぐに亀裂が入った。二撃受け止めたところで亀裂が広がり、三撃目で粉々に砕かれた。


 「戦いながらじゃぁ厳しいんじゃねぇか?」


 「毒を以て毒を制す、いや、毒を取り込み毒を制す。こんくらい、すぐに済むさ」


 「あっそうかよ」


 瞬きひとつで爪撃が術水の壁をすり抜け、身を引き裂かれるほどの緊張が柊に走る。


 実際、一瞬でも油断をすれば、波論の嵐のように繰り出される爪撃に身を裂かれるだろう。


 「くっそ……」


 「おぉ、ついに視界まで奪っちまったか?ほら出し抜いてみろよ、この俺をよぉ」


 刹那に繰り出された毒麟芽爪の一撃が、柊の術水の壁を破り腹部まで到達した。


 全身に張っている術水の膜が意味を成さぬほどの一撃に、柊の腹部が大きく削られる。同時に大量の鮮血が散った——否、散ったのは赤が腐ったかのような黒色の血だ。


 「——!?」


 それを見た波論が、一瞬表情を強張らせた。


 同時に、柊が身を捻って蹴りを放つ。波論の毒麟芽爪が、放たれた蹴り脚をそのまま引き裂くと、下段から剣閃が迸る。


 黒みを帯びた術水の太刀が振るわれ、波論の身体を袈裟掛けに斬り裂いた。


 咄嗟に身を引いた波論だが、斬り裂かれた身体からは、柊のものと同じ黒い血がぽたぽたと垂れ落ちる。まるで、柊と波論の血液が同じものになったかのようだ。


 「おめぇ、まさか」


 黒き術水の太刀を斜めに構え、柊が正面に《顕現印》を描く。


 「うん。破毒律が完成した」


 信じられぬといった表情をしていた波論だったが、直後その表情が獰猛な笑みを覗かせる。


 「面白(おもしれ)ぇ。これが完全体の忌み子かよ。いいぜ、もっと俺を唸らせてみろやっ!」


 波論が毒麟芽爪を上段に構え、それを柊目掛けて振り下ろす。だが、それを黒き術水の太刀が受け止めていた。


 「空中で戦うなんざ洒落くせぇぜっ!」


 波論が全幅の膂力を込める。


 それに押し込まれ、柊と波論はそのまま大地へと落ちてゆく。


 「破毒律を完成したのはいいものの、これ常時機能させるの難しくない?これが自動的に行われるってんだろうから、羨ましいよ」


 「権能が絶対なら、おめぇに再現されてねぇよ。試しにその領域まで行ってみな」


 黒き術水の太刀で毒麟芽爪を弾き、柊が答えた。


 「望むところだよ」




 

 

毒を制す、同じ権能を得た柊が篤馬波論へ迫る——

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