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第76話 可能性の凶閃

 

 猛き狂う津波が次々と巨大な赤鳥を飲み込み、その身をズタズタに引き裂いてゆく。


 一方で、絶え間なく撃ち放たれる銃弾が空気をも劈き、それを尾にして赤鳥をぶち抜いた。


 また一方では、空間を震撼する波紋が、美しくも呪いを宿す唄声と共に赤鳥の内臓を揺さぶる。


 混沌とした夢境の中、絶え間なく術式が放たれ、その度に衝撃が世界を揺るがしていた。


 されど、それを一身に浴びる宵為鴉たちの数は減ることはない。


 「《銃門印》三式——」


 宵為鴉の軍勢と相対する虹の正面に展開されるのは、銃口のような模様をした術印だ。


 「[淼装填砲撃]」


 銃口の如き術印から放たれるは、まるで水面に広がる波紋を彷彿とさせるような衝撃波だ。


 広範囲に広がった波紋の銃弾が捉えた宵為鴉の全身が撃ち抜かれ、何度も鮮血が散る。


 「速煌翼——」


 術式を撃ち終えた虹の背後から更に二体の宵為鴉が詠唱をしながら襲い掛かる。


 翼を羽撃かせた巨躯が燃え盛るような紅の魔源を帯びて、虹へ向かって突撃した。


 「——《突撃》」


 神速で間合いを詰め、宵為鴉が一瞬で虹の懐へ嘴を突き刺した。


 「——!?」


 本能的な判断で虹が咄嗟に宵為鴉の片口をがっしりと掴む。


 「止まれやぁぁぁっ!」


 虹が宵為鴉の片口を掴む手を離し、ぐいっと左の方へ身を捻る。


 虹の腹部を僅かに突き刺す嘴が抜けるのと同時に、慣性によって宵為鴉は嘴を突き出したまま遥か遠くへとすっ飛んで行った。


 「あー、クソッ。全然数が減んねぇ……!」


 虹、輪慧、美乃梨を取り囲むように次々に襲い掛かる宵為鴉は、堕雨の魔術によって増幅する一方だ。


 地上で無数の宵為鴉が跋扈する上空に、それらの親玉たる巨大な黒鳥と、それと対峙する人影が浮遊していた。


 「数日ぶりだな、また落とされたいか?」


 片手に術水を収束しながら、俯瞰するように柊が言う。


 「此処ハ夢境。我ガ無限ナル岐路ヲ叶エル独壇場デアル。貴様ヲ殺シタ後、アノ三人モマトメテ擦リ潰シテ飢エヲ満タシ——」


 七夢の堕雨は全身から魔源を放出した。


 「数千年ヲ経タ呪縛ヲ解ク、術ヲ得ル」


 「呪縛って言うのは、かつての英雄、柊國俊の術式によるものかな?」


 くつくつと喉を鳴らしながら不適な笑みを浮かべ、柊が収束した術水を空に放つ。


 「お前を真の意味で殺す術が、そこに隠されている気がするね、勘だけど」


 空に放たれた術水の一端を柊が掴むと、そこから術水が縦に伸びながら凝固してゆく。


 やがて刀身の象ると、そこに現れたのは蒼き術水の太刀だ。


 「夢境の中ならお前は本物なんだろ?でも、かつての英雄たる國俊にはお前を殺すことは出来なかった。それはなぜなのか——」


 空を蹴ると、柊の身体が正面へ進む。

 そのまま術水の太刀を振りかぶった。


 「それを探るために、一暴れさせてもらうよ」


 術水の尾を引きながら振り下ろされた剣閃を、堕雨は魔源を帯びた嘴で受け止めた。


 「【頭蓋を両断する可能性】」


 柊の空想実現によって可能性が実現する。


 バチバチと火花を散らせていた剣と嘴、その輪郭が溶け込み、可能性を実現させた術印の太刀が嘴を裂き、そのまま堕雨の頭蓋を一刀両断した。


 「《贄沸る拷火(カル・ネージ)》」


 縦に一刀両断され半分に分かれたたはずの堕雨の嘴は、連動したかのように動きその魔術を唱える。


 瞬間、柊の持つ術水の太刀にボゥっと火が付いたかと思えば、そこから瞬く間に炎上し、忽ち柊の身体に燃え移った。


 「夢境ノ中デアル限リ、貴様ラノ勝機ハ万ニ一モ有リ得ヌ。諦メテ燃エ散ル事ヨ」


 宙でゆらゆらと燃える火柱だが、しかしそれは薙ぎ払われ、全ての火が消失する。


 「仮想実現」


 全身が黒灰と化した柊だが、構わず術水放出を行う。仮想実現によりそれらの術水は、二〇本もの剣となる。それらが柊の合図で一息に放たれた。


 「《魂の鎮痕歌(イデア・レクイエム)》」


 魔源の成す純白の球体が無数に飛び交い、二〇本の術水の剣を迎え撃つ。


 「小手調べごときで終わると思うなよ」


 純白の球体は術水の剣により斬り裂かれる。だが、その特性により、斬り裂かれても分裂して柊に迫っている。


 「ソレハコチラノ台詞デアル」


 二〇本の術水の剣をすり抜けた純白の球体が、黒灰となった柊の身体に着弾する。瞬間、黒灰の身体を包み込む様に純白の球体は膨張し、馬鹿でかい風船の様に宙を浮遊し始めた。


 「終ワリデアル」


 馬鹿でかい風船が派手に爆ぜ、柊の黒灰の身体は木っ端微塵に砕かれる。


 「ウッ……グゥッ……!?」


 だがそれと同時に、堕雨の身体が背後から大剣で貫かれた。その剣身は蒼白く淡い光を放っており、忽ち強い光を放つと、一息に大爆発を引き起こした。


 「その黒灰は過去の俺だ」


 爆散する堕雨の身体の背後にいたのは、黒灰となったはずの柊であった。


 その身体に、傷はない。


 堕雨の魔術によって黒灰になった身体が過去の柊の身体である可能性を実現し、術水の剣と純白の球体が飛び交うところ、隙を見て堕雨の背後へ回り込んでいた。


 「過去ノ貴様ト現在ノ貴様を自在ニ顕現サセル事ガ出来ル、ト言ウワケダ」


 「黒灰になった身体も、次の瞬間には既に過去の俺だ。黒灰になってから一秒後の未来に顕現させた俺の身体は、その一秒が経てば現在の俺となる」


 さも当然と言わんばかりに、堕雨はその身体を蘇生させた。


 (【蘇生出来ない可能性】を実現したつもりだったけど、夢境内においては俺の術印を持ってしても、その秩序に逆らうことは出来ないか。やっぱり、堕雨を殺すにはこの夢境内の秩序に沿って正しい手順を踏む必要がある)


 「《七翼なる岐路(フェイト・セヴンス)》」


 (まず堕雨を無力化することが優先か……俺がここを離脱して夢境内を駆けずり回っても、堕雨はまずみのりんたちを殺しに行くだろうし)


 詠唱の直後、堕雨が薙ぐ両翼から蒼白い剣閃が放たれた。


 「仮想実現」


 柊の正面に一〇層もの術水の防御層が造られる。


 術水の防御層が蒼白い剣閃を受け止めて砕け散る間に、柊が再び術水の太刀を握った。


 正面の術水の防御層を溶かして全身に鎧のように纏い、一直線に堕雨に突っ込む。


 「愚カナ」

 「おっと」


 堕雨が再び両翼を横に薙ぐと、今度は視界を埋め尽くすほどの純白の球体が出現し、突っ込む柊に肉薄する。


 術水の膜で全身を包んでいることに全幅の信頼を置き、柊が術水の太刀を振りかぶった。


 「空想実現——」


 柊の持つ術水の太刀が肥大化する。

 同時に巨大な術水の太刀の一閃が迸った。


 「【再生出来ない可能性】」


 柊が肥大化した術水の太刀を堕雨に叩き付ける。


 「——!?」


 直後、柊の身体が、肩口から袈裟掛けに切り裂かれた。柊が堕雨の身体を蹴って飛び退く。


 (俺の術水の膜を破って皮膚まで切り裂くほどの斬撃……。それを挙動なしで出しただと?舐めやがって。【再生出来ない可能性】が通用するなら、動きは止められると思ったんだけどな)


 肥大化した術水の太刀を叩き付けられた堕雨に傷はない。


 「本気ヲ出スコトダ、柊波瑠明。サモナクバ、本当ニココガ、貴様の最期ダ」


 「はっ、こんな傷(あせ)ぇんだって。両断してみる気で来いよ」


 空想実現にて傷を癒した柊が両腕に術水を凝縮し、さらにその手で術水の太刀を握る。


 (さっき俺が斬りつけた時に傷がなかったのも解せないな)


 「《緋蓮の眼光(フィクス・クリムゾン)》」


 堕雨の紅き両眼が光を帯び、それが閃光となりて正面に放たれた。神速のそれの先で、柊が術水の太刀を構える。


 「ふっ——」


 肩の力を抜き、術水の太刀を全幅の勢いで横に振るう。蒼白いオーラの尾を引いた剣閃が、そこに丁度着弾した紅き眼光を真っ二つに斬り裂いた。


 だが、この時放たれていた紅き眼光が、堕雨の魔術である《七翼の岐路(フェイト・セヴンス)》の影響下にあることを、柊は見落としていた。


 堕雨の魔術、《七翼の岐路(フェイト・セヴンス)》は、堕雨自身が一度受けたことのある攻撃と同属性の攻撃を扱う事が出来るためのトリガーのような役割を担っている。


 可能性は万物を凌駕する。


 餓吼影と戦った時のように、堕雨は可能性を司る眼光にて、柊の術水による防御を突破する。


 「はっ?」


 正面で柊が斬り裂いたはずの眼光が、突如柊の懐に現れる。そのまま抵抗も出来ぬ内に、柊の心臓を貫き、背を突き破った。



 



堕雨の眼光が、柊を貫く——

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