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第74話 推測


 「通報から四分とちょっとの間に、殺害された……。それも、なぜか通報者と思われる女性も含めて。こんな早く死ぬなどと言う話は……」


 「堕雨が何かしたんだろうね」


 本部の賢術師により運ばれていく被害者二人の遺体を見ながら、柊が推測を立てる。


 「なぜこの三区から標的を外さなかったのは定かじゃないけど、俺らに邪魔されることを見越して殺し方を変えたんだろう。今のところ推測できるのは、堕雨が被害者を支配し、原田智弘さんの時のように被害者を操作したって可能性だけど……」


 それでは不自然だろう。


 既に支配していたなら、わざわざ通報などしなくても良いはずだ。なのに、迦流堕と流聖には確かに通報が入った。確認したところ、人違いでもない。


 「だが、被害者宅には何者かの魔源が充満していた」


 「疑問点はそこ。[天陰月庭]展開後は何人たりともこの三区に入ることは不可能だけど、展開時点で既に潜んでいた、堕雨とは別の魔術骸が二人を殺害した線も考えられる。家中に充満してたなら、少なくとも俺らが行く五分以上前——いや、それ以上と考えてもおかしくはない」


 それならば、夢境内の堕雨、そして現実世界にも別の敵がいると言うことになる。謎は深まるばかりで、一向に進展しない上、その予兆すら見せない。


 このままでは、ただ住民が次々に犠牲になるだけで刻限を迎えるだろう。


 「堕雨がやり方を変えてる可能性もある。長話もあれだ、わたしたちは引き続き巡回に戻る」


 「おっけい」


 疑問が払拭し切れないが、迦流堕と流聖は一旦柊と別れ、巡回へ戻る。一人被害者宅に残る柊は、現場へ。


 (堕雨がまた現実世界に顕現した?いや、それなら住人を殺して逃げた時、既に現場近くにいた迦流堕と流聖が目撃しなかったとは考えにくい。なら、やっぱり堕雨は夢境の中に止まってる……)


 充満した魔源に《顕現印》仮想実現の術式を描く。


 (でもこの魔源、確かに堕雨のものだ。あの森で戦った時のものと同じ)


 仮想実現により術水が球体型の器を構築し、その中に全ての魔源を閉じ込める。


 濃縮された魔源入りの球体はほのかに紫色の微光を放ち、禍々しい雰囲気を纏う。


 それを掌の上で浮遊させながら、柊は現場を出た。


 (とりあえず電波塔に戻るか)


 魔源を包む術水の球体を懐にしまい、柊は自身を浮遊させる。ゆるりと上昇していくと、そのまま三区中央の方へ戻って行った。



 ***



 一九時半。


 住宅街はまるで時が止まったかのように静まり返っており、[天陰月庭]のオーロラの外はおそらく漆黒に包まれていることだろう。各班、静寂の中を巡回、または待機を続けており、不測の事態へ備えて集中することを怠らない。


 そんな中、事態は展開を迎える。


 三区内の賢術師の携帯端末に連絡が届いた。


 『全班に伝達。黒舞地区南方方面巡回中の二班に付近の住宅からの通報あり。不測の事態に備えて下さい』



 ***



 (今までの情報から推測してみるか)


 顎に手を置いて柊は思考を巡らせる。


 (堕雨は深淵夢境(ラビリンス)を通ることで、夢境と現実世界を行き来していた。そろそろ深淵夢境(ラビリンス)自体、その実態がよくわからないし、そこを通るにはどれほどの時間を要するのかはわからない。いや……?)


 以前、柊は學と共に夢境を脱出するため、夢境の天井を突き破って、その先に続く漆黒の空間を通って現界への帰還を果たしている。


 そして、現界へ戻るために通った漆黒の空間に該当する場所が深淵夢境(ラビリンス)なのではないか、と柊は推測した。


 (俺らが五分くらいで現界へ戻れたのなら、深淵夢境(ラビリンス)の創造主である堕雨は少なくともそれ以上に速く現界へ到達できると考えるのが道理だけど、それでも、あれだけ乱れた空間を一、二分ぽっちで渡れるとも考えにくい。先の通報を受けてから迦流堕と流聖が駆け付けるまでにかかった時間は三分未満。それまでに深淵夢境(ラビリンス)を渡って現界へ進出し、二人の人間を殺して姿を晦ました、か……)


 二人の人間を殺すなど造作もないことだろうが、接近している二名の賢術師にバレないように現場から離れることが出来たのか。


 百歩譲って流聖の目は欺けたとしても、迦流堕の目までも欺いたとなれば話は別だ。


 (二人の被害者を殺して、すぐに夢境へ戻った……?それくらいしか話の辻褄が合わないよな……)


 現場にも堕雨の姿は無く、現場に接近していた流聖と迦流堕がその姿を目撃していないのなら、堕雨がそのまま現場の外へ逃亡した可能性は薄いだろう。


 ならば夢境へ戻ったと考えるのが妥当だが。


 (現場で俺も確認したけど、確かに被害者の二人は完全に死んでいた。死んだ人間の夢境へ、もう一度戻るなんてことが出来るのか?)


 役目を果たした抜け殻に入るようなものだ。


 堕雨が夢境にて生きる魔術骸だとしても、死んだ人間ではそもそも生きられる夢境すら形成出来ないだろう。


 (俺らはどうだった……?)


 柊は次に、自身と學が夢境へ入った時の状況を分析し始めた。


 (俺は堕雨を、學は鵺魔って魔術骸を倒した後に夢境へ迷い込んだ。魔術骸を倒すことが夢境へ入るための条件だったのか……?俺が堕雨を殺して夢境へ迷い込んだのはなんか納得がいく話だけど、だとすれば學が倒したっていう鵺魔は——)


 空を覆う[天陰月庭]が七条のオーロラを輝かせている。ランダムに七色が表に出てくる光景を眺めていたが、しかし柊はふと視線を落とした。


 「ん、なんだ?」


 胸ポケットの中で、携帯が振動していた。手に取り開くと、美乃梨からの連絡を受信している。


 「現れたか。とりあえず行ってみるか」


 すぐさま柊は自身を術水操作により浮遊させる。


 そして地面を蹴り、美乃梨たちのいる方向へ向かって飛翔した。


 




止まらぬ連鎖に、柊が急行す——

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