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第71話 作戦概要


 全体の会議は堕雨の案件に関する話へ。


 圭代先生から提示された話の概要は、『万』と本部が連携し、とある作戦を実行して堕雨討伐を目指す、と言うものだった。


 これは本部から伝達された提案であるといい、本部への若干の疑念が晴れぬ雰囲気の中で、それに快諾する者はいなかった。


 「作戦の概要の説明を聞いてからですね。作戦聞いた圭代さんは、正直どう思いますか?」


 話を聞き、柊先生が圭代先生に問う。


 「率直な感想、私は実行すべきだとは思いました。何よりまず、堕雨を仕留める事が最優先事項です。本部に疑念があるとは言えど、堕雨討伐に関しては利害が一致するかと」


 あえてどちらの肩も持たない立場に立ち、理路整然と圭代先生が言う。


 「我も堕雨討伐に関して、それが達成できるなら本部と協力するのはアリだと考えている」


 久留美先生が柊先生の方を見ながら言った。それに対して反応するように、柊先生が踵を返した。


 「作戦の概要を聞いてから、と言ったはずです。圭代さん、作戦の説明をお願いします」


 「はい。この作戦には、二年生、一年生の皆さんも参加することとなるので、よく聞いておいてください。くれぐれも聞き逃しのないように」


 圭代先生が俺らの方を見て行った。その視線に改めて背筋を伸ばし、耳を傾ける。


 「本部から派遣された賢術師と『万』の賢術師を混合し、そこから幾つかの班を作ります。班は既に割り振られているので、これをご覧ください」


 そう言い、圭代先生は部屋のプロジェクターを着ける。壁に映し出されたのは、俺らの名前が割り振られた表だ。


 六班と言う欄に、俺と澪の名前があった。班リーダーは、本部の風原楓真と言う人らしい。


 班がどのように編成されたのかは定かではないが、おそらく個々の実力などを考慮しての割り振りだろう。


 他の班の欄には少なくとも二人以上の名前があるにも関わらず、七班と言う欄には柊先生の名前しかない。これが何を表すかは言うまでもないだろう。


 「明日の昼、本部との作戦会議がありますが、『万』から楓真たちが来てくれるって話でした。そこで連携をとり、明日の夜、作戦開始とのこと」


 夜か。堕雨が行動を起こす時間帯だ。


 「分かりました。では、この班で行う作戦の概要を説明します」


 プロジェクターの前に立ち、圭代先生が続ける。


 「まず各班は、堕雨による被害が確認されている黒舞地区、山蓋地区、蓮辺地区の三区を中心に、区内で散らばり待機します」


 プロジェクターで、壁に該当の三区の地図が映し出される。


 「住民に昼のうちに協力を仰ぎ、該当の地区の住宅の方々には、一晩起きていただき、睡眠をとっている家族を見守ってもらう監視者を最低一人指定してもらいます。監視者には家族を見守っていただき、寝ている家族に何か異変が起きた場合、即座に付近の賢術師に連絡を取るよう伝え、連絡を受けた班は即座にその家へ向かって下さい」


 そこまで伝えると、続いて圭代先生はプロジェクターに、何やら見たことのないような図を映した。


 それを見ると、圭代先生が一時的に柊先生にバトンタッチする。


 「これは俺が作った図で、堕雨が夢境から現実世界へ這い出てくるためのプロセスを簡単にまとめた物。學は理解できるね?」


 「はい。少々雑な気もしますが……」


 「コラッ、絵が下手で悪かったね」


 わざとらしく頬を膨らませてピシャリと言うと、柊先生は説明に戻る。


 「堕雨は夢境と現実世界を繋ぐ道のような場所を通り、支配した人間を通じて現実世界へ出てくる。ってことはつまり、夢境側(あっち)に入るためには、それをやればいいんじゃないかなって思ってね」


 おそらく先生方には既に共有されている情報なのだろう。俺らにも分かりやすいよう、噛み砕いて説明しているように見える。


 今の説明を聞いた後なら、プロジェクターで映された図が、辛うじて理解出来る。


 學先輩の言う通り、絵の下手さが露見している気もするが。


 「作戦の話に戻るよ。異変があったらその住人の元へ駆けつけ、その人を通じて夢境内部へ侵入。そこで堕雨をダウン、出来るならその場で討つ——って作戦だけど、みんなは気になってると思うんだよね」


 どうやって、住人から夢境へ入るのか。

 それが疑問だ。


 聞いた話、柊先生と學先輩は夢境から脱出したらしいが、それとこれとはまた状況が違う。


 「動きがあった班は、その住人が自身を毟り殺さないよう拘束し、その隙に班の誰かが俺に連絡を入れる。連絡さえくれれば、三区内くらいなら二秒もあれば駆け付けられるから、出来るだけ早めに連絡してね」


 住人を無理に拘束して目覚めてしまっても大丈夫なのか、という疑問があったが、ちょうど柊先生がそれに関する説明もしてくれた。


 「堕雨に夢境に侵入された住人は、おそらく自死するまで目覚めないほど、自身の身体をいくら毟っても目覚めないほど、深い眠りについているはずだけど、堕雨が夢境の中から外部の異変を感知できる何らかの方法があるなら、途中で逃す可能性がある。だから、出来るだけ早く俺に連絡すること。ここまでおっけい?」


 俺らはほぼ同時のタイミングで頷く。


 それは二年生の先輩方も同じで、全員が理解した様子だった。全員が頷いたことを確認すると、柊先生が続ける。


 「住人までも巻き込むこの作戦は、悩みに悩んだ末に実行を決断した最終手段だ。住人を巻き込んで結構した作戦で、数十年前の過ちをもう一度犯すわけにはいかないからね。みんな、心して作戦に臨むようにしようね」


 この上なく真剣に、柊先生は言った。


 俺らもその言葉に、揃えて返事をした。


 「「「はいっ」」」



 ***



 翌日、五月二四日。


 本部帝郭殿、第一司令室。


 その深奥で深々と椅子に座り、作戦資料を確認しているのは、指揮長官、風原楓真である。


 彼は怪訝な表情をしながら、目の前の部下の賢術師に言った。


 「『魔譜』は何を隠している……。今回の作戦への参加要請を出しても研究があるからと一点張って、それ以降の応答もなし。鎖野さの研室長でさえ表に出てこず、部下に任せて引きこもったまま——『裁』にも研究報告を提出していないらしいが、どうやら本当だったらしい」


 この上なく深刻そうな表情だ。


 「『魔譜』の調査を行おうとしても上は許諾を出してくれないですしね。全く、虎殿主帝も体調を崩されて大変な時期だと言うのに、何をやってるんでしょうかね……」


 短髪を描き上げながら怪訝な表情をするのは、古黒晃楽だ。


 「虎殿主帝があの様になられてしまって以来、本部全権は寿孟公に託されているが、なかなかどうして不安が募るばかりだな」


 「えぇ。『魔譜』の問題に、堕雨の作戦も控えてますからね……人手不足、いよいよ本格的に見直さなくちゃいけないんじゃないですか?」


 「『万』の生徒が行方不明になってしまった件も、死亡が確認されるまでは無碍にする訳にはいかないだろう。くぅ……やることが多い……」


 手で目を伏せる様にしながら楓真がぼやく。


 「あ、そう言えば、堕雨の作戦の件、昼からですよね。もう一一時ですけど……」


 晃楽がそう言うと、楓真はハッとして時計を見る。


 晃楽の言う通り、時計は既に一一時五分を示しており、それを見た楓真が飛び上がる様に椅子から立ち上がる。


 「じ、じゃあ、司令室の指揮は君と魁斗に任せる。堕雨討伐作戦の概要も再度確認しておいて。あぁ、あと、堕雨に関する事案が発生したなら、必ず記録しておくことっ」


 「承知しました」


 晃楽の返答を聞く前に、楓真はそそくさと司令室を出ていく。


 「多忙だな、楓真さんは」


 「ですね。最近は特に、出張が増えてて」


 晃楽と部下の賢術師が話す。


 「そのおかげで、色んなところと連携が取れてるんだ。大変そうだが、楓真さんがいなきゃ本部もここまで発展しなかっただろうな」


 晃楽がそう言うとちょうどその時、司令室の扉が開いた。


 「楓真さん、めっちゃ急いでだけど……」


 「魁斗さんお疲れ様です。楓真さん、今日も『万』に出張なんですよ、堕雨の討伐作戦の件で連携を取ってくるんだとか」


 なるほどねと相槌を打ちながら部屋の中に入ってくるのは、野々田魁斗だ。


 「そう言えば、魁斗さんどこ行ってたんですか?」


 晃楽が問う。


 「え、伝達ない?早朝に任務伝達が来たから、家から直行したんだよ。ったく、最近人員不足だからって人遣いが荒いぜ」


 「伝達不足ですかね……少し確認しますね」


 「あぁ、頼むよ」


 晃楽がディスクに座り、資料の確認を始める。


 「……にしても、柊さんの影響が露見してきてるな……。これで『裁』にまた目をつけられなきゃいいけど。とは言え、柊さんの影響で魔術骸のレベルが年々上がってるってのは、将来が心配ではあるけど……」


 独り言の様にぼやく魁斗だったが、その後特に追及することなく、業務に戻るのであった。

 

 

 

 

 

『万』が本部へ、本部が『魔譜』へ疑念を持つ中、本部と『万』が連携して堕雨討伐作戦の準備を進める——

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