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第68話 ざわつく胸中


 状況は被害を被り続ける一方通行。


 これと言った成果といえば、柊先生と學先輩が堕雨に関する重要な情報を掴んで来た事くらいだろうか。


 それでも情報を入手するだけ入手しておいて、目に見えるような成果は未だないと學先輩は嘆いて居た。


 そして、歩夢先輩の行方が分からなくなった事態に、それを知った皆が驚きを隠せぬと言った様子だった。


 俺ら一年生四人と、柊先生ら教諭の中からは今のところ今回の一件での犠牲者は出て居ないが、二、三年生の中で少しずつ被害が出てきたことに対し、『万』一同、再度気を引き締めて事件解決に勤しむことを誓った夜——。


 「學先輩、大丈夫かな」


 ソファで隣に座って居た輪慧が呟いた。


 「柊先生に聞いたんだけど、學先輩が一年の頃だから、二年前か。に、何人かの同級生と死別してるって話だ。で、生き残ったのが歩夢先輩と學先輩で——」


 「たった一人、一番大切にしてた歩夢先輩が行方不明になって、気が気で居られないって話だよな」


 輪慧が言った。

 俺だけが聞いていた話ではなかったみたいだ。


 「なんだ、輪慧も聞いたんだ」


 「希空が面倒見てもらってたって人が學先輩と同じ学年で優秀だったんだけど、二年前のとある事件で亡くなったって聞いたんだ。よく育ててもらったらしくて、希空も話してる途中に泣き出しちまってさ」


 希空の面倒を見てた人が學先輩と同級生か。世間は狭いものだ。


 「そうなのか。じゃあ、二年前の事件のことも?」


 「あぁ聞いたよ。歩夢先輩のお兄さんも、その事件の後に亡くなったって話だろ?」


 「あぁ、それは俺も聞いた」


 二年前の事件では、当時一年生だった學先輩らの同級生が初任務先で突如現れた上級レベルの魔術骸に次々と殺害された。


 唯一その場に居なかった學先輩と、お兄さんの介入でギリギリ救われた歩夢先輩の二人だけが生き残り、その後応戦した教諭複数名と、歩夢先輩のお兄さん、東阪廉斗先輩が亡くなった。


 そんな重大な事件だ。柊先生や學先輩が鮮明に覚えているのも納得がいく。


 「俺らも、いつかそんな経験をすんのかな」


 そう言う輪慧の唇が少し震えて居た。俺自身も、いつかそんな目に遭うんじゃないかと言う恐怖心があるが、俺は震えるのを我慢して輪慧の手を握った。


 「きっと大丈夫だって。俺ら、廃墟での案件でもなんとか協力して乗り越えられたじゃん……!お前と希空だって、命が危ういって状況から復活したんだろ?俺らは死なない。先輩方や柊先生らだってついてる」


 「……」


 しばらくすると、輪慧はソファを立ち上がった。


 「……遥希だって震えてんじゃねぇよ」


 若干小馬鹿にするように笑いながら輪慧はそう言った。俺は本意がバレて少し恥ずかしくなり、思わずはぁ?と言って勢いよく立ち上がる。


 俺も、怖くて震えて居た。それを隠すために、輪慧の震えに隠れようとして居たのだ。だが、今の輪慧のフリで、少し緊張が和らいだ気がする。


 「ありがとな、遥希」


 「お互い様だろ。部屋戻ろうぜ」


 廊下のソファを離れ、俺らは各自部屋へ戻ることにした。



 ***



 自室へ戻ると、ふとある事が気になった。前に『裁』の裁判長、螺爵則弓氏が言っていた事だ。


 (忌み子の……血縁者。俺の両親には、柊先生と同じ血液が流れていた……。俺ら家族に、柊先生との接点はなかったはずだ。あったとしてもせいぜい、俺が適正の赤子と指定された、生まれた直後の調査の時くらい)


 螺爵裁判長との謁見が中断され、その後バタバタして居て考える余裕もなかったが、よくよく考えてみるとおかしな話だ。


 (忌み子の血縁者……俺の両親に柊先生の血が流れてるのなら、俺にも柊先生の血が流れているのか?いや、そもそもの話、なんで俺の両親に柊先生と同じ血が流れてる?俺の父さんと母さん、あるいはどちらかが……忌み子……?)


 考えれば考えるほどわからない。だが、忌み子ではなく、忌み子の血縁者と言われたなら、俺が忌み子本人ではないと言う事だが、いずれにしても人類にとっての脅威になり得る存在だとすれば。


 (俺は抹消対象内……)


 「いやいや、まさか……ね」


 どこかざわつく気分を抑えるため大きめな声で自身の最悪な推理を否定する。だが、可能性がないわけではない、かも知れない。


 (考え方を変えるんだ……ぶっちゃけ俺は何も知らない……でも、柊先生も別に忌み子であることを望んで生まれてきたわけではないんだよな。俺自身何も知らなかったからってのは都合のいい逃げ文句か)


 俯瞰するよう、俺はしばらく床を眺めて居た。


 (……でも、俺が忌み子の血縁者だから?何も目的は変わらないじゃないか。父さん母さんを殺した奴に報いを受けさせてやるんだろ?)


 自分に言い聞かせるよう。


 (忌み子に近い存在ならこの先俺はどうなるかわからない。どうもならないかも知んない)


 ざわつく胸中に狼狽え、留まるわけにはいかない。


 自分を律して、ざわつく気分を抑制するのだ。


 俺には、まだやるべき事がある。果たすべき使命がある。考えを一度放棄し、俺は部屋の灯りを落とす。


 (……でもやっぱりなぁ)


 「クソッ……」


 優柔不断なのは、俺の悪いところだな。

 





本日の話は少し短いですが、遥希の心中を描きました。

一方で、唯一の幼馴染が失踪したことに、學の心中は——


※少し投稿が遅れてしまい申し訳ありません!

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