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第57話 繋ぎ星②


 《語撃印》は術式の詠唱時、一文字ずつ口にすることで発動する術式効果の変更と、術式自体の威力を底上げを行うことが出来る。


 また、先ほど學が三式の[深天怒地]に対して使用した詠唱『待機解除』は停止している術式を再発動させ、『消滅』と言う詠唱は発動した術式を強制的に終了させることが出来る。


 無論、威力は下がるものの術式の一斉詠唱による発動も可能であり、汎用性の高い術印とされる。



 ***



 「ごぶふっ……!」


 神速で駆け出した學の頭突きは鵺魔の魔術を押し切り、その懐を捉えた。


 胸部から腹部にかけての広範囲に學の頭突きがぶっ刺さり、鵺魔が思わず吐血する。


 「《語撃印》二式、[死熾奮迅]」


 空かさず詠唱を行い、その場に巨大な竜巻を生み出すと、學はすぐさまその場から退散。


 その場に残った身を裂く竜巻が鵺魔の身体を再び包み込み、その身をズタズタに引き裂いてゆく。


 「《死霊堕解》」


 竜巻から白濁した波動がほんのりと広がると、鵺魔を包んでいた竜巻は瞬く間に勢いを失っていき、その悉くがやがて消え失せた。


 全身に傷を負いながらもそこには、不敵な笑みを浮かべ、學をジッと睨む鵺魔が突っ立っていた。


 「その波動、俺らの術式の効果を強制解除するみたいな感じの魔術だろ?なかなか厄介だが、そんな技は俺にもあると思った方がいい」


 「オレの術を逆手に使うなんざ、なかなかやるじゃねぇか。確かにこりゃ一本取られたって感じだ。だが、侮ってもらっちゃ、まだ困るんだよな」


 「安心しろよ。俺はお前を倒すまで侮らない。いいから来いよ」


 鵺魔の口角が上がる。


 「そのナマ言えないようにしてやる」


 (エネルギーはあと八〇ポイント……。さて、どう使って消費するか?)


 學は二つの術印を持つ賢術師の一角。


 その二つ目の術印が、戦局を紡ぐ星の力、《回星印》である。


 《回星印》の術印を展開すると、術者は一〇〇ポイントのエネルギーを充填し、そのエネルギーを消費して術式を使用する。


 「ふっ——!」


 突っ立っていたところから、鵺魔が一歩を駆け出した。それに瞬時に反応し、學が身構える。


 「淵炎術——」


 一歩駆け出した鵺魔の背後に紫炎の小鳥が大量に生成される。


 鵺魔がもう一歩踏み出すと、全ての小鳥が一斉に飛び出し、鵺魔よりも先に學に襲いかかる。


 「[死——」


 詠唱によってそこに生成された竜巻が小鳥たちの前に立ちはだかる。竜巻の風圧に紫炎が揺らぎ、小鳥たちの勢いが徐々に落ちていく。


 「熾——」


 中央に収束し始めた竜巻は、巻き込んだ小鳥たちの勢いを完全に封殺し、その紫炎の根を止める。


 やがて全ての小鳥が竜巻に飲み込まれると同時に、學の目の前に鵺魔が迫っていた。


 「《融合獣穿炎》」


 至近距離で放たれた紫炎の閃光が學の腹部に迫った。咄嗟に術水を腹部に凝縮するも、コンマ数秒ほど足りずに、紫炎の閃光が學の腹部を突き破った。


 「ここは俺のテリトリーだ」


 しかし學の表情に苦悶はない。


 ここで學の頭上に《回星印》の術印が展開される。


 「足りねぇかっ!!」


 學と肉薄している鵺魔がここぞとばかりに紫炎の閃光を撃ちまくる。


 その全てが學の身体をぶち抜き、學の制服が瞬く間に血に染まる。しかし、學は頭上の術印に術水を注ぎ続けた。


 「これで終いだぁぁぁっ!!」


 鵺魔の両手が夥しい量の魔源を帯びる。同時にその魔源は紫炎に変わり、それを一気に學の身体に叩き込んだ。


 學の身体は足元から瞬間的に炎上し、瞬く間に黒灰へと変わりゆく。


 「抵抗もなしに死ぬか。少しは骨のあるやつだと思ってたが——」


 「二式、双子座の切札(ジェミニウス)——」


 「——はっ!?」


 紫炎に燃え果てたはずの學から詠唱が響く。


 「ぬああああああぁぁぁぁぁっ!!!?」


 同時に、鵺魔の絶叫が木霊した。


 「お前の紫炎だ。さぁ踠け」


 《回星印》の二式、双子座の切札(ジェミニウス)、『凶札』は、術者自身が受けたダメージを他者に丸々移し替える術式。學があえて無抵抗で攻撃を受け続けたのは、その全てのダメージを鵺魔に背負わせるためである。


 それまで蓄積したダメージを全てまとめて他者に移し替えるため、術者の身体にはダメージは残らず全回復の状態となるわけだ。


 (死ぬ寸前までダメージを受けてみたが、さてどうか……)


 燃え盛る鵺魔の隙を逃さず學が詠唱する。


 「《語撃印》四式——」


 學が右手を上空へ掲げると、そこに数多の照り輝く岩が出現する。


 「[流星孔輝]」


 燃え盛る鵺魔の身体にそれらが一斉に叩き込まれる。凄まじい爆発の嵐が巻き起こり、周囲の建物が次々と倒壊する。


 「どんなもんだ……」


 しばらく黒煙が上がるが、その中に動きはない。


 しかし學はそこから目を離さず微動だにしない。息さえあれば即座に動き出すだろうと踏み留まり、その動向を見張っているのだ。


 「……やるな、賢術……いや、詩宮學っつったな。お前」


 「案外タフだな。折角、双子座の切札(ジェミニウス)を切ったってのに」


 黒煙の中から歩き出てきた鵺魔だが、その身はすでに満身創痍と言ってもいい。そこにトドメを刺さんと學が即座に動き出す。


 「《語撃——」

 「《界滴隠門》」


 鵺魔の詠唱のその瞬間だった。


 「——!?」


 何かを感じ取ったか、咄嗟に右手を引っ込める仕草をする學だったが、引っ込めた右手の親指が根本から切断され、吹き飛んだ。


 「へぇ……」

 「まだだぜ」


 その次の瞬間、學の左腕が片口から切断され、その場にボトリと落ちる。


 (ん?)


 學は冷静に《語撃印》の二式、[死熾奮迅]を無詠唱発動する。それを鵺魔に向かって撃つものかと思えば、學はその竜巻に自らの身を包み始めた。


 自身の腕を落とした攻撃を防ぐためだ。


 (なんの前触れもなしに……いや、微かな音の直後、俺の指が持ってかれた。透明な斬撃を飛ばしたのか?いや、奴は詠唱しただけで身動きは取ってない)


 竜巻に自身を包みながら、學は後退する。


 (ってなれば詠唱後はオートで発動する魔術か?すぐに俺の身体を真っ二つに分けなかったあたり、一発一発の威力自体は弱いのと同時に、間髪開けず何発も連発できるようなもんでもない)


 数秒間身を包んだ竜巻を『消滅』の詠唱で消し、様子を伺う。


 (切れない……何かしらの条件があって、それをさっきの竜巻が処理したのか。それとも完全オートってわけではないのか……)


 「《語撃印》——」


 「《界滴隠門》」


 (また同じ詠唱……。躱せるなら躱すが吉か)


 學は詠唱途中で身を大きく右の方へ捻る。そのまま大きな縁を描いて鵺魔の元へ駆け出した。


 「五式、[幻転恢起]」


 対象者の元あるべき身体の形を予測し、再生する術式、[幻転恢起]にて切断された部位を修復しながら、続いて二式[死熾奮迅]を前方に出現させる。


 (俺の腕を落とし絡繰を暴くか、暴く前に仕留め——)


 [死熾奮迅]が出現した直後、學の視界が横にズレる。同時に意識が一気に遠のくような感覚を學は感じ取った。


 無抵抗にズレる學の視界が捉えたのは、首が切断され、そのまま倒れゆく自身の身体であった——。

 





形勢が傾き、如何なる魔術かが學の首を断つ——

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