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第53話 証言者


 「あの子たちに計画、伝えなくていいの?」


 「幼く未熟な情は、ときに役に立つし、ときに狂いを齎す。今回の調査任務をあの二人にお願いしたのは、一発掛けるためだよ。ここで、堕雨(やつ)を終わらせるための——」



 ***



 俺と輪慧は智弘さんの宅に上がらせてもらい、リビングへ。俺と輪慧をソファまで誘導し座らせると、少しお待ちくださいと言って智弘さんは台所の方へ向かった。


 しばらく俺と輪慧も言葉を交わさない静寂が場を包むも、智弘さんが台所から戻ると、その静寂も払拭された。


 「お待たせしました」


 そう言って智弘さんは、二人分の紅茶を俺たちの前のテーブルにそっと置いた。


 「丁寧にありがとうございます」


 「いただきます」


 俺と輪慧はそう御礼を言い、カップを持って紅茶を一口含む。生まれてこのかた、実は紅茶を飲んだことがなかったが、率直に美味しいと感じた。


 「お、美味しいですっ」


 カップをテーブルに置きながら、輪慧が隣で智弘さんに感想を告げる。


 「お気に召したようでよかったです」


 智弘さんが俺らとテーブルを挟み、反対側の椅子に腰掛ける。そして、若干俯き気味に強張った表情をしていた。緊張しているのか。


 「……早速ですが、智弘さん」


 俺がそう話し始めると、俯き気味だった彼は真っ直ぐに俺の目を見た。


 「今回、智弘さんから直接、賢学の方へ連絡をいただいたと伺ってます」


 「はい。僕の方から連絡させていただきました」


 「記憶に明確に残るほどの悪夢を見て、最近ニュースで頻繁に報道される変死事件と関連があると思い、賢術師の力を必要だと判断した、で合ってますか?」


 確認するように聞く。


 「はい、それで合ってます」


 一も二もなく智弘さんは頷いた。


 (ニュースの変死事件に関しては、魔術骸や賢術師との関連性は報道されてないはずだ。賢術師の存在を知っているとしても、すごい悪夢を見たからと言ってそこからすぐ賢術師に結びつけるのは、少し不自然だと思うけどな……)


 「なぜ、その悪夢を見たあと、真っ先に賢術師に相談だって思ったんですか?」


 「その、友達から聞いて……。友達も賢術師の方に助けてもらったから、悪夢を見たりしたらすぐに賢術師の方に相談するんだ、と」


 「なるほど……」


 どこか腑に落ちないなと思いつつ、俺は質問を続ける。


 「じゃあ、悪夢というのは具体的に、こういう夢を見たって説明する事はできますか?場所や、人がいたのならそれを、わからないようならできる限りで大丈夫です」


 「そうですね……」


 そう言いながらしばらく難しい顔をして考え、しばらくして智弘さんは口を開いた。


 「なんかこう……よく分からない暗い空間にいるんです。四方八方が山に囲まれたような……そこで、人影に会いました」


 「人影、ですか。誰だったとかって……?」


 「いいえ、真っ暗で顔も見えない輪郭だけの人影です。僕はその人影の元へ走っていきました」


 「視点は三人称視点ですか?」


 「そうだったと思います……いや、どうだったかな……」


 夢なんて明確に覚えてるわけも無かろうと、俺は細かく言及はしなかった。俺がメモ帳に智弘さんの証言をメモっていると、その間に隣で輪慧が問う。


 「走って、どうしたんですか?」


 「その人影は、俺が近づくと急に両手を真横に広げました。それまではただ突っ立ってるだけだったのに……。僕はその場で止まって、その人影に何かを話しかけました」


 俺らは黙ってそれを聞く。


 「そしたら人影が、両手を真横に広げたまま言うんです。後ろ、後ろ、って」


 「ん、智弘さんは何て言ったんですか?」


 俺がそう聞くと、えぇっとと悩むように首を傾げる。


 「自分が言った事は覚えてないが、その人影が後ろ、後ろと言っていたのは覚えている、と言うニュアンスで大丈夫ですか?」


 質問を畳み掛けるように輪慧が言うので、俺は智弘さんに見えないようにテーブルの下で輪慧の足を抓る。それに反応してこちらを振り向いた輪慧に対し、質問は一個ずつしろと視線で伝える。


 「お、おぉ」


 伝わったかはさておき、輪慧は俺の視線に対し手で小さくグッドを示す。


 俺は智弘さんに視線を戻し、話を続けた。


 「えぇっと、今の輪慧の言う通りですか?」


 「そう、ですね……はい」


 本人も必死に思い出してる様子だし、夢なのだから覚えている情報にも限界があるだろう。


 俺は一旦ティーカップを手に取り、中の紅茶を一口含む。


 「……僕、小さい頃いじめられてたんです」

 「えっ?」


 唐突に智弘さんが言い出したことに、俺と輪慧は敏感に反応する。


 「中学生の時です。いじめられるのが苦しくて苦しくて、でも先生に言っても何もしてくれなくて……。親に相談しようとしても、両親は既に他界した後で……」


 「……え、智弘さんのご両親はいつ……?」


 「中学に上がった直後です。母は不慮の交通事故、父は職場で起きた火災に見舞われ……。幸い、僕を学校に通わせるための資金を遺してくれていて、僕は問題なく学校に通うことができました。祖父母が保護者の代わりを担ってくれて、とりあえず高校までは、ってところです」


 「なるほど」


 (本題との関連性は分からないが、何か引き出せるものがあるかもしれないな)


 「……僕の勘違いかもしれないんですが、夢の中に出てきた人影はもしかしたら——」


 智弘さんが言葉を続けようとするが、その時、俺のズボンのポケットの中で携帯端末が鳴った。チラッと確認すると、柊先生からの着信だったため、俺は一度智弘さんの方を見る。


 「すみません、電源を切っていなかったみたいです。すぐに戻ります」


 「は、はい。わかりました」


 俺は部屋を出て着信に応じる。


 「もしもし」


 『——』


 「あれ?もしもし」


 何やら応答がない。用があったわけではないのか?とは言え、柊先生からかかってきた着信だ。俺が切るわけにもいかず、しばらく立ち尽くしていた。


 「あれ……?」


 何も聞こえない無音。だが電話は繋がっている。


 「もしも——」


 俺の言葉に被さり、智弘さんと輪慧のいる部屋の方からドゴオオオォォォォォォンッというけたたましい爆発音が聞こえた。


 (ば、爆発っ!?一体何が!!?)


 俺は即座に連絡を切り、部屋の方へ。そこでは黒煙に包まれ、家具やら大破した床やらの破片がそこらに散乱していた。


 「——っ!!」


 俺がそれを見て絶句していると、黒煙の中から人影が一つ。ボフッとその中から出てきたのは輪慧だ。


 俺は輪慧に駆け寄り、状況を聞く。


 「何が起こっ……お、おい、その傷は……?」


 「あぁ、クソ……なんかいきなりテーブルが爆発してよ……それで割れたカップの破片をもろに食らった……まぁ大事には至らない」


 輪慧の右目周辺に無数の傷が出来ており、そこから流れる血が滴り落ちる。


 「と、智弘さんは!!?」


 「……そりゃぁ——」


 黒煙が明ける。


 そこには、二、三メートルほどの巨大な黒鳥が立っていた。その巨大な体躯が家の中に収まるわけもなく、その黒鳥が首を伸ばした瞬間、天井を突き破った。


 「——自分の目で確認してみろ」

 

 

 



堕雨の情報を得られると思った矢先、急変——

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