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第52話 三年生の応戦

本日から投稿再開いたします。よろしくお願いします。


評価や感想コメントもお待ちしております。また、投稿していない間も多くの方に読んでいただけていております。ブックマークなどもぜひ、よろしくお願いいたします!


 「『万』三年、詩宮學と東阪歩夢が応戦します」


 「心強い!頼ん——」


 術印を展開しながら喋っていた矢先、その賢術師の胸部に十字の深い傷が刻まれ、身体の輪郭から大量に鮮血が散る。


 「お前はもう限界だ!離脱しろ!」


 「クソ……がぁ!」


 傷を負った賢術師が目の前の赤鳥へ駆け出す。


 それより僅かに早く、歩夢が術印を描いた。奇跡宿す《神髄印》の術印が煌めき、その直後、神速の光弾が駆け出した賢術師の足元に着弾する。


 《神髄印》の一式、[天撃]である。


 「うわっ!?」


 足元で爆ぜた光弾の余波で賢術師が後方へ弾き飛ばされる。その賢術師が尻餅をついたところに、ちょうど歩夢が一歩目を刻んだ。


 そして賢術師の方を向き、口を開く。


 「任せて、下がってて下さい」


 「あ、あぁ——」


 赤鳥に向かって歩夢が、詠唱を行いながら駆ける。もう一人の賢術師の真横を通り、間合いの中へと足を踏み込んだ。


 「《神髄印》二式、[雷天獄破]」


 赤鳥と歩夢が肉薄し、その瞬間に歩夢の目の前に現れた一点の光が弾け大爆発を引き起こした。


 歩夢が行動を止めず術式を放つ。


 「《神髄印》三式、[天滅刹那烈]」


 [雷天獄破]をもろにくらった赤鳥がギエエエェェェと雄叫びをあげる。だが、次の瞬間にはその声は途絶えていた。


 大爆発の余波で発生した黒煙の中からその赤鳥の首が飛んでくる。その首は宙で弧を描き、學の足元へ落下した。


 「容赦ねぇな、歩夢」


 「……まぁね。幸いあの鳥がビビったのか、何も行動せずにサンドバッグになってくれたからね。まぁ、目眩しのつもりで使った二式も思いの外ダメージになってたみたいだし」


 學は歩夢の三式により切断された赤鳥の生首を手で掴む。そしてじっと見つめた後、それを地面へ投げ捨てた。


 その光景を見て、本部の二名の賢術師は口をあんぐりと開けて唖然としている。


 「ピクリともしないし、多分死んだな。こいつは、柊先生が言ってた死んだら消えるタイプの骸では無いらしい」


 「本当に死んだの?生首だけで判断するのは危険だよ。ちゃんと身体の方も確認——」


 そう言いながら歩夢は振り返る。その瞬間、黒煙の中から突然、紫の火球が飛来した。


 無詠唱の[天滅刹那烈]を腕に纏わせてそれを真っ二つに切断する。その余波で双方向に散った火球の片鱗が爆発する。


 「だから言ったでしょ。首を切断して死なないなら上級クラスの魔術骸かもしれないね」


 「しち面倒くさい。逃げるならさっさと逃げて下さい」


 黒煙が開け、首のない赤鳥の姿が露わになる。學はそれを一点に睨みながら、二名の賢術師に言う。


 それを聞いた賢術師は、そそくさとその場を離れ、逃げ出すように駆けて行った。


 「任務放棄じゃない?それに学生に任せるなんて情けない」


 「あれも精鋭には程遠い半ば寄せ集めの賢術師だろう。それにこいつ倒すだけで既に四人、目の前で死んでんだ。耐えるほどの精神力ねぇんじゃ碌な戦力にならないだろ」


 「要はいないほうがマシってことね」


 「分かってんじゃねぇかよ」


 目の前の赤鳥が首を再生させ、両翼を羽撃(はばた)かせる。両翼を広げたその姿は、もつれた十字架を彷彿とさせた。


 「強キ…人間」


 拙き言葉だった。


 「《語撃印》——」


 學の全身から術水が放出される。


 「次はあんたがやる?いいよ、下がったげる」


 (街中だが、ここら一帯の住民の避難は完了してるんだよな。それなら問題ねぇ)


 「二式」


 學が頭上に手を掲げるとそこに、地面の細かい砂や石が浮かび上がり、集まり始めた。


 「速煌翼——《突撃》」


 赤鳥の翼が燃えるような(くれない)の魔源を帯びる。瞬間、赤鳥が頭の先端の鋭い嘴を突き出しながら學へ突撃した、


 それも、目にも止まらぬほどの神速だ。


 「——!?」


 學は身を捻ってそれをいなす。なお止まらない赤鳥が慣性に従い、後方で様子を伺っていた歩夢の元に突っ込んだ。


 「[凪時流転]」


 蒼き流水で壁を造って相手の攻撃を無効化し、その後フルオートで相手を飲み込んでカウンターを喰らわせる《蒼河印》の四式、[凪時流転]。


 攻撃が遠距離攻撃でなく、相手の身体そのものを使う肉弾技だとすれば、それは格好の的である。


 「結局こっち来んのかい」


 そりたった蒼き流水の壁を緻密な術水操作で変形させ、突っ込んだ赤鳥を包み込んだ。


 歩夢が渋々と言った、何とも怠そうな表情を浮かべる。


 「そのまま包んでおいて。[死——」


 死、と學が口にすると、彼の掌の上に収束した砂や小石が砂嵐の様に旋回し、そこに竜巻が発生した。


 赤鳥を包み込む[凪時流転]に向かって學がそれを投擲する。瞬く間に竜巻が[凪時流転]を包み込むと、瞬間、[凪時流転]が竜巻に引き裂かれて離散した。


 付近にいた歩夢も地面を蹴り、急ぎその場を後退した。


 「熾——」


 學が二文字目を口にすると、赤鳥を包み込んだ竜巻の勢いが増し、周囲の地面に残っていた小石までも飲み込んで行く。


 ギエエエェェェと雄叫びを上げながら赤鳥が竜巻から脱出を試みるも、鋭き竜巻が唸りをあげ、その悉くを引き裂いていく。


 「奮——」


 追加で二文字、學がさらに口にする。


 その時点で既に相当な規模だった竜巻が、今度は中央に向かって少しずつ細くなっていく。


 外側で無駄に周っていた分の小石や砂も中央に押し込み、内部の殺傷力を高めたのだ。


 赤鳥の翼が先端から引き裂かれ、みるみるうちにその全身に深い傷が刻まれる。


 そしてトドメのもう一声を學が発す。


 「——迅]」


 細くなっていた竜巻がさらに圧縮される。


 「死……ヌ……ギ、ギエエエェェェ!!!」


 學の最後の一声を境に、竜巻の内部の全てのものが細かく切り刻まれた。別れた肉片も逃さず細切れだ。


 赤鳥の声がやがて途絶える。


 「消滅」


 學がそう声を発すると、その瞬間、その竜巻は離散する様に消えた。そこに浮遊していた赤鳥の細かい肉片が地面に降り注ぐ。


 「本当にこれだけで任務完了か?」


 「とりあえず圭代先生と連絡とってみるよ」


 「よろしく頼む」


 學はそう言うと、地面に離散した赤鳥の細かい肉片の方へ目を向ける。その場でしゃがみ込み、その肉片をじっと見つめ始めた。


 (今度こそ死んだだろうが、それでもこの肉片は消えてねぇ。柊先生の言ってた、死体の消えるタイプの骸ってことではなさそうだがなぁ。ったく、本部もこんな弱い骸の事案を重要に扱うとは堕ちたもんだ)


 しばらくしゃがみ込んで肉片を見つめている學に、後方から歩夢が話しかける。


 「學、バラッバラになった死体を見る趣味なんてあったの?」


 「お前には、そんな変態の背中をしばらく見つめてる趣味があるらしいな。よいしょ……連絡取れたか?圭代先生と」


 徐に立ち上がり、學は踵を返して歩夢を振り向く。


 「えぇ。幸い住宅の密度が低い地区な上、住民避難も出来てたから街への被害は最小限に抑えられたけど、念のため現場確認をするようにって」


 「そうか」


 一つ返事で學は歩き始める。


 「まず何するのよ」


 「んー……損害箇所の確認からだな」


 「わかった」


 そう言い、小走りで歩夢は學の横についた。



 ***



 黒舞地区、住宅街。


 あの集会の終了後、俺と輪慧は柊先生からとある任務を任された。指定された黒舞地区の閑静な住宅街を歩きながらその目的地へ向かう道中、隣から輪慧が話しかけてきた。


 「僕ら一年ってさ、この時期はまだ任務任されないんじゃないの……?」


 「この時期は術印技術の向上と座学で知識を学ぶ期間なのであって、厳密には任せないとは言われてないからね。でも、柊先生もそこは言ってたじゃん」


 『一年生を個人任務に向かわせたって知られたら『裁』がうるさいからね。ま、聞き込み調査するだけの簡単な任務だし、二人で行かせればいいから遥希、輪慧、お願いできる?あ、おっけい?ありがとー、場所は黒舞地区ねー』


 と、それはそれはご丁寧に丸投げされたわけだ。


 「聞き込み調査っても、何の聞き込みすりゃいいんだ?」


 「柊先生の話だと、さっきの集会で話してた七夢の堕雨?って魔術骸の情報が掴めるかもしれないって話だ。俺もよく知らされてないから……」


 「入学早々から思ってたけど、柊先生ってどこか適当だよな。なんか、距離感が近いってのはこっちとしてもいいんだけど、んー……なんかな……」


 輪慧の言いたい事は分かる。そう、なんか抜けてるんだ、柊先生は。言葉にはなんか言い表せない、要はよくわかんないって感じだ。


 「ほら、とりあえず任された調査だ。ここだぞ」


 「切り替えて行くか」


 輪慧は自分の頬を掌で軽く叩き、切り替えようっと吐き捨てた。


 俺らの到着したこの一軒家に、何やら堕雨に関する情報を持つと言う人がいるらしい。俺は扉の前まで歩を進め、インターホンを一回押す。


 俺らは無言で、人が出てくるのを待った。


 しばらくして、はーいと返事が返ってきたので、俺は一言。


 「原田(はらだ)智弘(ともひろ)さんのご自宅で間違い無いでしょうか?『万』一年の賢術師、日野と尾盧と申します」


 柊先生には賢術師と名乗っていいと言われていたので、言われた通り賢術師と名乗る。


 賢術師の存在は一般人にもある程度認知されているらしいが、国が運営する割には認知度は低いと言う話だ。


 『お待ちしてました』


 俺が名乗ると、向こうからそう返答が返ってきた。


 やがて扉が開くと、そこには俺らと同じくらいの身長の男が立っていた。どこかの学校の制服らしき服を着ているから、おそらく学生で間違いないだろう。


 「よろしくお願いします」


 俺が一言そういうと、どこか怯えた様子で智弘さんも一言。


 「よろしくお願いします……」






三年二人の魅せた、力の片鱗——

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