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第49話 束の間の会話


 五月二二日早朝。


 「本部で被害者が九名、うち四名は死亡。残りも一刻を争う重傷だと。ったく、ようやく事件の手がかりが掴めた矢先だよ。一刻も早く事件を解決しなきゃね」


 「日に日に被害者の数が多くなってるわね……。最初は一日に一人や二人くらいだったけど、昨夜は一気に九人も……」


 教諭室でそう話すのは、柊と美乃梨である。


 「英傑伝承譚の記録にこの事件に関する情報があった。それも、事件のほぼ全貌——あれはまさに五五〇〇年前にこの事件の黒幕を一度沈めた英雄が綴った貴重な文書だ」


 腕を組みながら何かを思い描いているように目を瞑り、柊は言う。


 「で、その情報ってのはどんなものなの?」


 「そりゃぁ、みのりん。圭代さんたちが集まってからって言ったでしょ。むしろみのりんが朝早く出勤しすぎなんだよ」


 唐突に吐き捨てたような柊の言葉に、口調を強くして美乃梨が言い返す。


 「あんたなんて私より早く来てたじゃないのっ!」


 「俺は極度なショートスリーパーなだけですぅー、意図的に早起きして来てるわけじゃありませんっ!!」


 「朝っぱらから仲良しですね」


 言い合っているところ悪いがと言った具合で教諭室に入って来たのは圭代だ。二人をただ笑顔一点で無言で見つめる。


 しばらく睨めっこしていたが、圭代が言葉を切り出した。


 「理事長には先に伝えたのですが?」


 「伝承譚の話ですか?一応伝えましたよ。まぁ、あっちはあっちで任務が忙しくてこっちに構ってる暇もなさそうっすけど」


 「今日から一週間、直々に理事長からのお達しなんですから、頼みましたよ?」


 「任してくださいよ。まぁ、事件解決のために翻弄して殆ど迦流堕に任しちゃうかも知んないっすけどね」


 圭代は自分の机に腰掛け、会話を続ける。


 「何かあれば私や美乃梨が手助けしますから、いつでも声をかけて下さい」


 「はい」


 柊はそう返事し、徐に歩き出した。


 「今日の集会で、大体話します」


 「わかりました」


 二言は言わずに、圭代はそれに了承した。



 ***



 一年全学科教室。


 療養の末に教室へ復帰した輪慧と希空と、そして澪と共に俺は机を囲み、椅子に座って会話をしていた。と言うのも、先の一連の事件に関して知っておきたいと輪慧と希空が申し出て来たのだ。


 「——だから、やっぱ稔先輩はすげぇんだ」


 「そんな状態で、上級レベルの魔術骸の相手を数分にわたって、一人で、か……。僕らもそんくらい戦えるくらいの精神力は欲しいよな」


 輪慧のその言葉に希空が頷く。


 「私なんて、最後は自分の状態をうまく見極められなくて気を失って、みんなに迷惑をかけちゃって……」


 そう言いながら俯き気味の澪に俺は言葉をかける。


 「迷惑だなんて思わねないって。むしろ、寒廻獄(あいつ)の身体を吹っ飛ばしたのは俺よりも功績じゃねぇか。そんな自分を責めるなって」


 「……うん、ありがと」


 澪は口角をあげ、俺に向かって笑顔でそう言った。


 「澪ちゃんの笑った顔、初めてみたかも」


 それを見ていた希空が空かさずそんなことを言う。


 「え?」


 「確かに。入ったばっかの時は無愛想な感じで馴れ合いは嫌いみたいな雰囲気出してたのにな……澪も笑顔って表情持ってたんだな」


 半分揶揄うように笑いながら輪慧が言う。


 「べ、別に珍しくないわよ!そんなこと言うならもう笑ってあげないっ」


 顔を逸らしながらそう言う澪に汗汗(あせあせ)といった具合で希空がまぁまぁと両掌を上げ下げする所作を行う。


 それに便乗し、輪慧も上手く下手に回って澪の機嫌を伺っている。


 「希空はいいわよ、別になんも気に障ること言ってないし……、輪慧あんたは許さん」


 「そんなぁ……」


 冷徹で鋭く射抜くようなジト目で輪慧を見つめながら澪が言う。


 それに対し、完全に糸目になった輪慧が弱々しく呟いた。その光景を見てクスッと笑う俺。


 「澪の機嫌を悪くしてしまった……遥希、見てないで助けてくれよぉ……」


 「ちょっと無理かも」


 わざとらしく食い気味に言うと、輪慧の目が点になる。比喩表現だが、そう言っても遜色がないほどポカーンとしている。


 「こんなやつは置いておいて、話し続けましょ」


 「泣くよ?」

 「泣けば?」


 辛辣な澪の一言に輪慧がわざとらしく絶句する。それを見て、みんなの表情に笑顔がまた生まれた。


 こうして笑顔で会話するのは、何気に初めてかもしれない。稔先輩のことでドンヨリとしていた雰囲気が、パッと明るくなったようで、俺自身も嬉しかった。


 稔先輩のことでクヨクヨするのは止めようと、俺らで決まりを作った。笑顔でいるより、いつまでもクヨクヨして後悔する方が、なんだか不謹慎だと思ったからだ。


 託斗先輩も言っていた通り、俺らは俺らに出来ることをやる。本当に稔先輩を弔う気持ちがあるのなら、あるからこそ前を向こうと。


 「そういえばこの後、柊先生主催の集会があるんだって?」


 シーンとしていた空気の中、希空が話を切り出した。それに澪が反応する。


 「らしいわね。まだなんの話かは分からないけれど……」


 「三年生の先輩方も集まるらしい。何気に、僕ら会うの初めてじゃないか?」


 考えるような所作をしながら輪慧が言う。俺はそれに頷いて、肯定の意を示す。


 「ほんとだよな。三年生の先輩方の姿すら見たことないし」


 俺ら誰も、三年生の先輩方についてはよく分からない。三年生になるまで生きてる精鋭中の精鋭と噂に聞くくらいで、あとの情報は皆無だ。


 二年生の先輩に聞いても、よく分からない人たちと言うだけで、その情報の意味すらも定かではない。


 「三年生の先輩って何人いるんだ?」


 「僕が聞いた話だと二人らしい。なんでも、今の三年生の先輩方が二年生の時に起こった重要案件で多く亡くなってしまったってはなしだ。それまでは両手で数えるくらいはいたらしいぞ」


 「そうなんだ」


 輪慧の言葉に相槌を打つと、希空が言葉を続けた。


 「そもそも、三年生って寮にいるの?」


 「確かに……俺らもここに入学してもうすぐ一ヶ月だ、その間、寮で一回もその姿を見ないってのはおかしい。そもそも寮が違うのか?」


 「わかんねぇことだらけだな、三年生は」


 輪慧がそう言った直後、教室の扉が開いた。俺らは開いと扉へと視線を向ける。そこには柊先生が立っていた。


 「お待たせ、集会の時間だよ。行こっか」


 柊先生の言葉に、俺らは全員で返事をする。


 「「はい」」

 

 


 


長らくお待たせいたしました。次回からホントのホントに章の本題へ入っていくのです——汗

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