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第4話 交流

 

 俺たちが賢術の学府『万』に入学してから、早二週間。


 その間、俺は柊先生のマンツーマン、尾盧と澪は主に美乃梨先生の授業を受けて、確実それなりの知識と技術を身に付けた。


 俺らは二週間の間に互いを呼び捨てで呼び合うようになり、男嫌いと発言していた澪とも、少しずつだが会話ができる程度にまで距離を縮めることができた。



 ***



 授業で初めての実技試験が行われることになった。極めて低級レベルの骸が確認された建物へ赴き、習得した知恵を生かして狩りを行う。


 骸を狩った数に応じて成績を付け、また、討伐補佐(とうばつほさ)も成績に含まれる。期限は一時間と短く、どれだけ効率的に骸を狩るかと言う簡単な内容である。


 「同行は俺とみのりん。あ、あと術水科の新入生と一緒ね」


 「希空(のあ)も?」


 「そ。学長は成績の付け方を同じにすると、実力的に公平公正じゃないからそこはしっかり区別してくれって言ってたから……」


 俺と尾盧は胸を撫で下ろした。


 聞く話、術水科に編入した姫狗希空(きくのあ)は俺たちとは別格らしいから、正直安心した。


 「しっかり断っておいたよっ!」


 安心して——絶望した。


 「柊先生っ!?何で断ったんですか!?」


 絶え間なく尾盧が立ち上がって問う。


 「なーに、安心しなよ。姫狗に劣る程生ぬるい指導はしてないはずだよ?みのりんにも、しっかり言っておいたしね」


 姫狗希空の実力はまだ未知数だ。


 しかし、俺たちは俺たちでこの二週間、それなりに努力を重ねてきた。実力的に負けるにしろ、そんな格差はないだろう。


 「ちなみに試験では死んだら成績はゼロね」


 「死んだら……?」


 「試験で死ぬことなんてあるんですか……?」


 「まぁまぁ、実際あんまり怖がる必要はないよ。だって、試験で使う骸は、どれも低級レベルだ。ちゃんと基礎通りやれば君たちでも倒せる、そんな程度のね」


 あくまで低級レベルの魔術骸。とはいえ、俺も初めてだ。油断は禁物だな。


 「成績の付け方にはいくつかルールがある。一つが今言った、死んだ時点で成績は無条件ゼロ」


 柊先生は死んだら成績ゼロ、と黒板に書く。


 「二つ目、骸一体討伐につき二点。討伐補佐は、貢献度に応じて最大二点」


 「貢献度に応じて最大二点……。場合によっては一点しか貰えないということもあるということですか?」


 柊先生は尾盧の問いに首を縦に振って簡潔に答えた。貢献度と言う値の基準が曖昧な気もするが、そこは柊先生らが判断して点数を付けるのだろう。


 「続けるよ。三つ目、リタイア、あるいは救助が必要と判断された場合、その時点でその生徒は試験を終了とし、成績は終了までの合計とする。この三つ目と次の四つ目のルールは関連するから続けて話すね」


 俺たちにわかりやすいよう、柊先生はルールを全て黒板に書き出していく。


 「四つ目、他の生徒、または救助班の賢術師の妨害に当たる行為を行った生徒は、その時点で試験終了、また、それまで得ていた得点全てを失う。ようは、成績ゼロだね。これだけ注意してね」


 黒板に書かれた四つのルールを見て、よく覚える。特に、得点の付け方だ。魔術骸一体討伐で二点。妨害禁止のルールが効いて、おそらく魔術骸の奪い合いにはならなそうだが、それでも、他の人より魔術骸を多く見つけねばならないということだ。


 「試験は明後日。集合場所は明日教えるから。姫狗とも一度交流しておきなね。多分、してないだろうから」


 柊先生のその言葉に、ちょうど授業終了の鐘が重なった。俺は早速、尾盧の元へ。


 「日野、姫狗と対面は?」


 「無い。尾盧は?」


 「僕も無い。この二週間、合間を縫って会いに行こうとしてたんだけど、忙しかっただろ?」


 尾盧の言うことは尤もで、この二週間は忙しく、姫狗に会いに行くことは叶わなかった。


 「澪は?」


 尾盧が話しかけると、澪は徐にこちらを振り向く。

 「一回だけ。廊下ですれ違った」


 「そうなのか?どうだった」


 気になった俺は食い気味に問う。


 「どうだったって……横目で見た感じだと、そんな悪い人には見えなかった。完全に私の偏見」


 「そっか……」


 聞いておいてなんだがあまりいい情報でない。

 何がともあれ、一度会うしかなさそうだ。



 ***



 授業終わり、尾盧と澪と共に、姫狗のいる一年術水科へ赴くことに。


 俺たちの一年全学科から渡り廊下を渡り、そこからまだ続く廊下を進んだところにあるのが、姫狗のいる一年術印科だ。


 「失礼します……」


 術印科の教室を恐る恐る開けると、そこに一人の人物が立っていた。彼女は、こちらを振り返って問う。


 「君たちは?」


 容姿端麗(ようしたんれい)、心地よく俺たちの耳を潜り抜ける美声、それでもって同い年のとは思えないほどの大人げた姿。

 噂の新入生、姫狗希空が、そこに立っていた。


 「全学科の尾盧。こっちは日野と澪。同じ新入生だけど、名前とか聞いてなかったか?」


 尾盧が教室へ一歩踏み込み、姫狗と言葉を交わす。


 「君たちね?」


 姫狗は俺たちを見つめた後、足取り軽く俺たちの元へ来て、次の瞬間、腕を大きく広げて俺たちを抱き締めた。


 「よかった……。会いたかったの」


 「姫狗?」


 その時間はしばらく続き、隣で澪が「なんなのこれ?」と問うてきたが、それには残念ながら俺も答えられなかった。

 

 「学長から、他の新入生たちとは会うなって言われてたの。下らな過ぎる理由で」


 柊先生からも聞いていたが、やはりこの学府の学長は碌な奴じゃない。


 「下らな過ぎる理由って?」


 尾盧が問うもしばらく姫狗は言いづらそうに口を閉ざしていたが、尾盧が詰めるとようやく口を開いた。


 「君とあの三人では実力差が明白すぎて、亀裂が入るから会うのはよしなさい、だってさ……」


 予想以上のカスらしい。


 「それでも構わず私から挨拶には行こうとしてたの。でも、全学科の教室の場所は教えて貰えないし、君たちもだと思うけど、この二週間忙しかったじゃない?」


 「そうだな。僕たちこそ、忙しくて挨拶に来れなかったのは悪かった」


 「そんなことないよ」


 姫狗は優しい微笑みを浮かべて言う。


 何はともあれ、姫狗との交流も無事に済んだ。これで試験に向けての訓練にも打ち込めるというものだ。


 「そういえば、明後日の試験」


 しばらく会話を交わした後、帰ろうとした俺たちを呼び止め、姫狗は一言。


 「ん?」


 「頑張ろうね、一緒に」


 俺と尾盧は首を縦に振って頷き、同感の意を示す。だが、隣で澪が口を開いた。


 「負けないわよ優秀新入生。同期だけどね」


 「私も負けない」


 と、端的な会話を最後に交わし、俺たちは一旦解散となった。



 ***



 術印科教諭室。


 「あの日野って子は、結局忌み子じゃないの?」


 「現段階では判断付かないね、材料がないから。忌み子だとすれば早いうちに知っておきたいところだけどね」


 美乃梨と柊が話していた。


 「姫狗は?あの子だけ学長の計らいでクラス分けられたじゃない?」


 美乃梨の質問に、柊は端的に答える。


 「学長から聞いている程の猛者じゃなかったよなー。みのりんに修行つけてもらった尾盧と澪は明後日の試験でじっくり観察するとして、今の日野なら彼女には劣らないよ。確かに、経験だけで言ったら姫狗の方が上だけどね。経験と実力は比例しないこともあるからね」


 「それにしても、日野って子は二週間、あんたのマンツーマンに耐えたのね……。なかなか度胸のあるやつじゃないの?」


 おいおい、と柊は表情を歪ませる。


 「まるで俺の授業がきついみたいな言い方だね」


 「そっくりそのまま言ってるのよ」


 「ははは」

 

 苦笑いする柊だったが、それを見てタイミングを見計らったように、美乃梨が問う。


 「……ところで、波瑠明。いつになったの?決まったんでしょう?」


 美乃梨が聞くと柊は一瞬、表情を曇らせたが、再び微笑みを浮かべた。そして、ゆるりと口を開く。


 「きっちり四ヶ月後だってさ。全く、酷い話だよ、ほんっと」


 「正直、正気じゃないでしょ?」


 「正気も正気ー。全っ然余裕」

 

 賢術の学府『(さい)』より、賢術の学府『万』へ通達。

 四ヶ月後、『万』一年全学科教諭、柊波瑠明の死刑を執行する——。

 

 

 



趣味で始めた投稿なのでおぼつかないところもありますし、言葉遣いや表現がおかしな文章もあるかと思いますが、温かい目で見守っていただきたいです。

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