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第36話 決め手


 まもなく一八時を回ろうとしている。


 炎のフィールドの中で、寒廻獄と圭代が対峙する。


 両者の状態はほぼイーブンだ。先にダメージを与えた方が有利となるであろう緊張状態の中、意を決して駆け出したのは圭代の方。


 術印を展開しながら寒廻獄に迫る。


 「《次元印(じげんいん)》——」


 寒廻獄が身構える。そして両者の距離が一足蹴で届くほどとなり、カウンターをくらわそうと寒廻獄が後ろ足を蹴って前へ。


 しかしその直後、圭代の姿が突如として消えた。跡形もなく目の前から圭代が消えたのに対し、寒廻獄が一瞬目を丸くする。


 「なっ——!?」

 「ふっ——!!」


 圭代が使用したのは一式[次元転々(じげんてんてん)]。


 寒廻獄が動き出すギリギリまで迫り、突如姿を消すことで自身の動きをフェイントとした。


 そして圭代が転移した先は、僅か数メートル先——寒廻獄の背後、つまり死角である。


 「三式、[次元炎(じげんえん)]」


 一瞬のうちの出来事で、寒廻獄が振り返る頃には既に白竜の巨口から猛き炎が吐き放たれた。


 寒廻獄はその炎を一身に浴びるも、依然として余裕な表情をしている。


 (やはり、火の体躯に火を浴びせたところで焼け石に水。稔くんたちが鎧を削ってくれたおかげでダメージは通りますが、それでも尚硬い。七式で一息に消し飛ばすしかありませんねっ——)


 吐き放たれた[次元炎(じげんえん)]を掻き分け、寒廻獄が炎の鍔を装着した拳を振り上げた。


 構わず身を突っ込む圭代の顎を寒廻獄の拳鍔が捉えるも、負傷した瞬間に傷は消えてゆく。


 乗改(リインフォース)の効力が働き、白竜がダメージを肩代わりしているためだ。


 「四式、[無限次元(むげんしげん)]。五式——」


 気にせず術水出力を加速させ、圭代が術式を連続で使用する。


 初めに圭代が再使用した[無限次元(むげんじげん)]には、同術式を重ねがけすることにより、その効力の底上げを行う効果がある。


 その瞬間、(せめ)ぎ合っていた寒廻獄の《騎灼盤(きしゃくばん)》と圭代の[無限次元(むげんじげん)]の間に効力の差が生まれ、《騎灼盤(きしゃくばん)》の効果がほぼ帳消しの状態となった。


 さらに間髪入れずに土壇場で放った圭代の五式が針の先の様に鋭く輝き、寒廻獄に牙を剥く。


 「[突穿次元断裂とつせんじげんだんれつ]」


 圭代が地面を蹴って一歩後退する。同時に両者の間に割って入った白竜がその場で旋回し、勢いそのままに寒廻獄の腹部へ突撃した。


 「なかなか厄介な術印じゃてっ!」


 寒廻獄が身を削られながら声を上げる。そこに宿るのは、明らかな苛立ちだ。


 (今この場を制する両者の割合は、私と寒廻獄(やつ)でざっと六対四ってところでしょうか。[無限次元(むげんじげん)]の重ねがけでも圧倒的アドバンテージの確立ともいかないことから、寒廻獄(やつ)の魔術レベルの高さが伺えますね)


 圭代が寒廻獄との至近距離で術式を使用する。


 「六式——」


 しかし、それを見逃さず寒廻獄も魔術を使用する。ほぼ同時の術使用を速さで制したのは寒廻獄だ。


 先に寒廻獄の魔術が発動する。


 「[焔焚慟哭節(えんふんどうこくふし)]」


 突き出された寒廻獄の拳鍔が変態を遂げる。


 (……なんだ?)


 寒廻獄のそれは、白竜の巨躯を容易に突き破り、その背後にいた圭代の胸まで突き刺さった。


 (白竜をも突き破って私に到達させた……)


 圭代が後退する。


 「感覚的に臓物を突き破ったようじゃ。だが、今のが白竜の最後の肩代わりだったか?白竜から先ほどまで感じていた異質な雰囲気が失せた」


 圭代の胸部に()いた五本の穴は、圭代が後退すると、血が流れ出す間も無く塞がった。


 しかし、寒廻獄の読み通り、白竜による肩代わりが許容量を超えたことで乗改(リインフォース)の効果も同時に消失する。


 「(がく)の甲に棘を出現させる魔術。白竜を貫いて私にまで届かせるとは、なかなかの代物ですね」


 (寒廻獄(やつ)の言うとおり、あの棘は私の心臓を捉えていた。乗改リインフォースの効果がなければ、そのまま致命傷になっていたでしょう)


 「先の肉体強化は、次元に儂を引き込んだ術式の重ねがけによる効果のほかに、その乗改(リインフォース)とやらに付与されたもう一つの効果があったようじゃな」


 「良い慧眼(けいがん)ですね」


 乗改(リインフォース)には、白竜に術者のダメージを一定量肩代わりさせる効果のほかにもう一つ、白竜による術者の微力ながらの肉体強化を及ぼす効果があった。


 「ですがこれでウィンウィンです」


 圭代には重ねがけした[無限次元(むげんじげん)]、寒廻獄には《騎灼盤(きしゃくばん)》と陣展(じんてん)魔術による恩恵が背に着く。


 両者の状態は以前イーブンのまま、次のラウンドへ。


 「——!!」


 圭代が地面を蹴って駆け出した。


 同時に風を切って打ち放たれた拳が寒廻獄に到達するも、寒廻獄は反応しそれを右手で掴んでいた。


 「硬いのぉ」


 寒廻獄の燃え盛る手に触れても火傷を負わない。むしろ寒廻獄の炎が押されている。


 圭代が拳に凝固させる術水は、寒廻獄の炎でさえも介入させない。針が通るほどの抜け穴すらない、固き術水を宿す拳が寒廻獄の炎を削る。


 (稔くんたちとの戦闘で負ったダメージもあるでしょう。蓄積されたダメージがあるうちに——)


 肉薄した両者が同じタイミングで拳を振るうも、僅かに圭代が先手を取る。寒廻獄の顔面に到達した拳がめり込み、バキッと鈍い音が響いた。


 「……ぬ……ぅ」


 寒廻獄は直後、肉薄していた圭代の腹部に膝をぶち込んだ。しかし、その場にすでに圭代の姿はない。


 「[次元転々(じげんてんてん)]」


 寒廻獄の顔面に拳をぶち込んだ直後に一式を使い、寒廻獄の背後へと転移していた。そして、無詠唱の二式で背に白竜を召喚する。


 (白竜があの一撃で散るとは、乗改(リインフォース)がなければおそらく死んでいましたね。しかし、次こそは——)


 圭代の睨みは間違っていない。先ほどの棘の攻撃は、[無限次元(むげんじげん)]による恩恵を受けている圭代と言えど、まともにくらえば致命傷になっていただろう。


 「《次元印(じげんいん)》三式」

 「[焔焚慟哭節(ふんえんどうこくふし)]」


 気配を感じて振り返った寒廻獄がまたもや先の魔術を使用する。突き出された拳鍔(けんがく)から五本の鋭き棘が圭代に向かって延びた。


 「[次元炎(しげんえん)]」


 棘に向かって白竜が燃え盛る炎を吐き放つ。


 「な——」


 「それは布石じゃて」


 吐き放たれた炎で、圭代は前方への視界を(さえぎ)られる。それを狙った(だま)し討ちだ。


 炎の下を掻い潜った寒廻獄が炎の鍔を纏う拳を突き出し、圭代の腹部のもろ中央にぶち込んだ。


 圭代の一瞬の油断にぶち込んだ一撃が、極まる。


 「がはっ……」


 圭代の動きが停止し、その隙を寒廻獄は逃さない。続けざまに圭代の全身を殴りつける。最後の一撃が圭代の顔面を捉え、圭代の身体を後方へ吹き飛ばした。


 「仮にも鍔じゃて。人間ではとても耐えられまい」


 寒廻獄が圭代に迫る。


 「ぬるいですよ。やはり蓄積したダメージは大きいのでしょうか」


 そう言いながら、圭代が膝に手をついて立ち上がる。


 「ほう、立つのぉ」


 倒れた身体を起こす圭代に、寒廻獄が襲い掛かる。


 「[次元痕跡(じげんこんせき)]」


 圭代の詠唱と同時に、寒廻獄の拳が圭代の頭蓋に迫る。しかし直後、寒廻獄の胸部に大穴が穿たれた。


 バコォッと吹き抜けた寒廻獄の胸部の穴から、うっすらと圭代の薄ら笑いが垣間見える。


 (白竜の突撃の術式……)


 「これが最後です」


 圭代の表情に浮かぶのは不敵な笑み。


 寒廻獄の拳鍔を食らった顔面は血塗れだが、それにも構わぬといった余裕を醸し出している。同時に、寒廻獄の表情から笑みが消えた。


 (術を使用する挙動は見せていなかった……受けた胸部の感覚から察するに、白竜(ペット)が大穴を穿つ術じゃが……)


 白竜は圭代の背についている。


 (わからぬものじゃて)


 「早く私を殺さねば、貴方が死ぬことになります」


 寒廻獄が目を見開く。


 突如眼前に出現した炎が寒廻獄を襲ったのだ。元々身に纏っていた獄炎でそれを相殺しながら寒廻獄が駆け出す。


 「[焔焚慟哭節(えんふんどうこくふし)]っ!!」


 寒廻獄の拳鍔の甲から五本の鋭き棘が延びる。先ほどよりも魔源を使用し、最速で圭代の元へ届かせた。


 しかしまたその直後、圭代の姿が消えた。


 「このタイミングは助かります」


 「なっ——」


 圭代の姿は寒廻獄の背後へ。


 「《次元印(じげんいん)》」


 圭代が即座に振り向き、危機を察したか、身体に纏わせていた獄炎で目の前に巨大な膜を張る。


 次の瞬間だった。


 「七式——」


 圭代の姿は、またもや寒廻獄の背後へ。絶好の位置を取り、そこから放たれるは勝敗を決す術式——。


 「なんじゃ——」

 「[極層次元雷天きょくそうじげんらいてん]っ!!」

 





決め手、七式の威力は——

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